高度観光人材の育成 [コラムvol.41]

 観光人材育成は、観光立国推進基本法の基本的施策に位置づけられ、改めてその重要性が認識されました。観光地間の競争が激しくなる中で、より魅力的な観光地づくりやより魅力的な観光サービスの提供をマネジメントし、プロデュースする高度観光人材の育成が今後は重要になってきます。特に、民間セクターでの高度人材だけでなく、パブリックセクター(地方自治体や観光協会)での高度人材の育成が今後の課題です。

■観光人材育成の重要性

 魅力的な観光地をつくり、求められるサービスを準備して、通年で安定して観光客が訪れる状態が持続することが、観光地として望ましい姿です。

 こうした状態をつくりあげていくには、地域の魅力づくりや、観光客の受入体制整備、誘客宣伝のための情報発信、流通販売など観光振興に携わる様々な人材が不可欠であり、そうした人材育成が重要であることが改めて認識されるようになってきました。

 その一つが、平成19年1月より施行された観光立国推進基本法です。同法の基本的施策において、「観光の振興に寄与する人材の育成」が掲げられて、「国は、観光の振興に寄与する人材の育成を図るため、観光地及び観光産業の国際競争力の強化に資する高等教育の充実、観光事業に従事する者の知識及び能力の向上、地域の固有の文化、歴史等に関する知識の普及の促進等に必要な施策を講ずるものとする」(第16条)と謳われています。

 これまでの観光地で取り組まれてきた人材育成といえば、観光協会や旅館組合が主催したホスピタリティ向上のための接遇研修セミナー開催など、観光客と直に接する部門の人材を対象として現場の受入体制向上を目的とする人材育成が一般的でした。

 しかし、各地で観光振興の取組が積極的になる一方、国内旅行需要の伸び悩みが近年言われて、今後はますます観光地間での”客の取り合い”競争の激化が予想されます。また、VJCによるインバウンド客の増加は、国際観光地としてより質が高く、魅力ある観光が求められるようになります。

 そうした中で、中長期的に観光振興の取り組みに成果を出していくためには、より魅力的な観光地づくりやより魅力的な観光サービスの提供をうまくマネジメントし、プロデュースする”高度観光人材”の育成が重要課題となります。

■国の高度観光人材育成の取組

 国土交通省では、「観光マネジメント高度化のための人材育成検討会」(平成19年度)が開催されて、観光客の受入体制・地域づくりに関する人材育成と情報発信(マーケティング、プロモーション等を含む)に関する人材育成、観光産業の生産性を向上させ、おもてなしの心の接遇を充実させるべく、経営者層から接遇者層までの人材育成が重要としています。さらに、これらの人材育成のためには、業界での取組と、それをバックアップする地方公共団体、国の取組の必要性が指摘されています。

 一方、経済産業省でも、「集客交流経営人材の在り方に関する調査研究」(平成17~19年度)に取り組まれています。観光・集客サービスが事業として高度化していくためには、地域政策・観光政策を含めてサービス実務に精通していることはもちろん、経営技術にも通じた複合的な人材としての「観光・集客サービス経営人材」の育成が必要であるとして、地元資本による旅館や自然ガイドツアー会社などの事業経営系人材と、観光協会や着地型旅行商品造成会社など地域経営系人材を対象にした人材育成教材を作成するとともに、育成システムと展開方策の研究を行っています。

■課題は地方自治体、観光協会の人材育成

 民間セクターにおける人材育成では、生産性の向上やスタッフの知識・技術の向上といった問題が指摘されていますが、基本的には、自らの観光事業経営にその成果がでるため、競争が厳しくなれば必然的にそれに打ち勝つための高度観光人材の重要性は認識されやすい状況にあります。したがって、国が取り組んだスタディでも指摘されている高等教育機関の充実や、産学官連携によるインターンシップの推進、マネジメント研修などの行政施策によるバックアップが充実される事によって、民間セクターにおける高度人材育成に対する今後の自発的な取組は増えてくることが期待されます。

 問題は、むしろ魅力的な地域づくりを進めていく上での地域戦略をどう構築していくかにあります。これまでのような広告宣伝や誘客イベントによるプロモーション戦略だけでは、地域の観光振興に限界がでてきます。観光資源の活用と保全をどうしていくか?その中で地域の魅力をどうだしていくか?マーケットをどう満足させるか?など様々な問題を戦略的に考えて、その戦略を構築していかなければいけません。

 観光地域プロデューサー育成の重要性や、これからの観光地づくりは「従来の行政主導住民参加型から、住民主導行政支援型に転換していく必要がある」といった意見も聞かれますが、民間が主体的に参加するにしてもあるいは主体的行動するにしても、いずれにしろそうした動きを活用する行政の総合的な観光戦略が重要であることには変わりがありません。

 行政担当者は定期的な異動があるために専門性がなかなか蓄積されない問題や、観光協会のリーダーシップ不足の問題は以前から既に指摘されていますが、こうした地方自治体観光担当部局、観光協会の高度人材育成をどうやっていくかが重要な課題であり、その取組の成果が地域の今後の観光振興の成否を決める重要な条件となります。