すすむ沖縄県の観光人材育成の取り組み [コラムvol.127]

2010.10.15

研究主幹(観光政策相談室長)  岩佐 吉郎
研究員コラム

 観光立国推進戦略会議報告書において、「観光関連産業は、観光関連学部・学科出身者の採用、寄附講座の提供、インターン・社員研修等への活用を行う等、大学等と連携することにより、大学における観光関連の教育・研究を充実させる」旨の提言がなされてから、観光立国の推進にあたって、観光分野における国際競争力を向上させるとともに観光による地域振興を図り、観光立国の実現を目指すためには、その基盤となる観光関連産業に従事する人材の確保、育成が喫緊の課題としてとりあげられるようになりました。
 これをうけて、平成19年度に開催された「観光マネジメント高度化のための人材育成検討会」において、国際競争力を備えた観光関連産業の経営を担う人材、さらには魅力ある観光地づくりをマネジメントする人材の育成にむけた当面の方策として以下のような提言がされました。

1.観光関連学部・学科を設置する大学や大学院のさらなる充実
2.関係者のニーズに即応した人材育成カリキュラムの構築
3.産学官連携によるインターンシップの推進
4.初等中等教育段階における観光教育の充実
5.研修の充実
6.技能評価制度等の検討
7.観光地域プロデューサーの育成

 これらの人材育成にあたっては、産学官が連携・協力していく体制づくりが重要であることから、「観光関係人材育成のための産学官連携検討会議」が開催されて、観光分野の人材育成に関する取り組みを行うに当たり参考となる情報の共有化及び観光分野の人材育成における産学官連携方策について検討されています。
 この会議では、「観光分野における経営マネジメント教育の充実」について、その重要性と、既存カリキュラムの課題が整理されて、望まれるカリキュラムの構築、実践が行われています。特に、カリキュラム構築では、観光経営マネジメントに必要な分野として「経営戦略、IT、会計、財務、マーケティング、人事・組織、ビジネススキル、産業論」が設定されて、欧米の著名な大学のカリキュラムを参考に、必要とされる科目が検討されて、カリキュラム案の実践による有効性の検証が平成20~21年度に取り組まれてきました。
 こうした一連の取り組みの結果として、産業界が人材育成に関する具体的ニーズを大学側に伝え、観光系大学の教育に積極的に関与することにより「カリキュラムのさらなる充実」、既に観光産業に従事している既卒者の再教育等「社会人教育のあり方」、「大学内の教員の確保・養成」が今後の課題として指摘されています。

 こうした国の動きに対して、地方での取り組みがどうなっているのか、沖縄県の取り組みを紹介してみたいと思います。
 沖縄県自体は、観光立県として国や他都道府県に比して先んじて、平成15年度から沖縄観光人材育成の基本戦略を構築して、取り組んでいます。
 当初は、接遇や観光知識といった基礎技術の習得を目的とする一般スタッフ研修、地域活性化のリーダーとして観光産業を牽引していく経営者の経営技術の向上、レベルアップを目的とした経営者研修、地域活性化の戦略構築のための技術を身につけるための行政担当者研修といった取り組みが国の支援のもとにスタートしました。小学生向け観光副教材の作成によって、小学校における観光立県教育が少しずつ浸透し、全国に先駆けてタクシー乗務員を対象とした認定ドライバー制度が実施され、また基本的な沖縄の観光知識の教材作成する等、着々と人材育成の成果を上げるべくツール開発や体制整備がすすめられています。あわせて、観光人材育成の推進母体として、沖縄県観光コンベンションビューロー内に観光人材育成センターが設立されました。
 その後の沖縄県における観光人材は、観光振興を牽引していくためのリーダー養成に集中した取り組みが進められています。
 平成19年度の「新観光経営者育成事業」では、観光業における経営者の経営能力強化支援を、平成20年度の「高度観光人材育成に関する調査」では、行政・観光協会スタッフと、次世代経営者を対象とした育成プログラムの検討が行われています。また、21年度からはコーネル大学やスイス・ローザンヌ等海外の代表的なホテルスクールへの留学を支援して、将来の沖縄観光をリードする高度な観光人材を育成する制度がスタートしています。残念ながら、まだ、留学派遣対象者が生まれてはいませんが、沖縄版の観光人材育成プログラムの成果が期待されるところであります。
 これからの観光振興では、訪れる観光客の満足度を高め、顧客を拡大していくことの重要性が指摘されていますが、一方でそうした体制をつくるためには、経営者がスタッフを大切にする組織づくりを実践し、働く場として魅力を高めることで、現場レベルのサービス、ホスピタリティの向上につなげていくことも大切です。そのことが結果として企業の競争力の強化と経営の安定化、ひいては「質の高い」沖縄観光の実現につながると考えられています。

 沖縄県の取り組みは、結果的に国の観光人材育成の方向性にほぼ合致したものになっていますが、全国に先んじて観光立県として自らが考え出し、スタートさせたオリジナルの戦略です。
 最近は、県が取り組む中長期の観光ビジョンを策定する観光振興基本計画の見直し作業に、県内観光企業からスタッフを出向派遣して、観光振興の中長期ビジョンを考えるトレーニングを行っている例もみられます。高度観光人材育成を中心にしながらも、このような企業派遣の発想も含めて多面的な人材育成の自発的かつ内発的な試行錯誤の取り組みこそ、沖縄観光のさらなる発展を支える礎となるものと期待されます。

 

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