インバウンドの受け入れは大丈夫? [コラムvol.118]

2010.06.11

企画課長 牧野博明
col-118

 国をあげてのインバウンド振興策が進められています。その概要及び課題については、研究員コラムvol.102「訪日外国人旅行者数のさらなる拡大のために」(有馬)に詳細に記述されていますので、そちらをご参照いただければと思いますが、目標達成に向け、観光庁や各地の地方運輸局を中心に、広告宣伝事業(情報発信)や現地旅行会社・メディアの招請事業(招聘ツアー)が目白押しとなっています。誤解のない正しい情報を伝えるとともに、海外諸国がわが国及び地域に求めるもの(ニーズ)を正確に把握したうえで国・地域の魅力向上策を施すという一連の流れは大変重要ですが、受け入れ地域の魅力を向上させるためには、具体的にどのようなことを考え実践しなければならないのでしょうか。ここでは、沖縄県でのこれまでの経緯や取り組み事例をもとに、2つの重要なポイントを取り上げてみたいと思います。

■受け入れる意識の醸成

 国内旅行は伸び悩みの傾向が続いており、今後の少子高齢化の進展を考えますと、大きな環境の変化が起こらない限り国内旅行の飛躍的な伸びは期待できず、逆に大幅な減少となる恐れがあります。沖縄県においてもそれは例外ではなく、国内観光客数減少への備えは不可欠と言えます。過去にも、アメリカ同時多発テロやSARSなどの重大な事件・出来事の発生時には、国内観光客数の減少を憂い、海外からの観光客誘致を唱える声が一部で上がったと聞いていますが、いずれの場合もすぐに国内観光客が戻ってきたため、いつの間にか立ち消えとなったようです。しばらくはこのような状況が繰り返されてきたようですが、その後将来の沖縄観光のあり方を真剣に考える意識が広まり始めたことに加えて国のインバウンド振興の掛け声が後押ししたこともあり、平成20年度から県及びOCVB(沖縄観光コンベンションビューロー)を中心に、インバウンド振興への本格的な取り組みがスタートしました。それまでにも、旅行会社や宿泊施設などの個別の取り組みはみられましたが、今回は県全体で戦略的に取り組む姿勢を表したことに意義があります。行政や観光関連事業者だけでなく、幅広い業種の人・組織が加わる「インバウンド連絡会」が結成されたのを機に、県全体での意識醸成や雰囲気づくりが進展することが期待されます。
 現状では、前向きに捉える人・組織と消極的な人・組織が混同しています。特に後者については、消極的な要因を正確に把握する必要があります。よく耳にする理由として、(1)受け入れ設備(外国語での対応や外国語表記など)が整っていない、(2)騒いだり勝手に飲食物を持ち込むなどマナーが悪い、(3)日本人観光客だけで十分対応可能、などが挙げられます。このうち、(3)については経営方針などもあり一概には言えませんが、本当に今後も日本人観光客だけで十分なのか、是非とも聞いてみたいところです。(2)については、一部にそのようなケースがみられることは事実ですが、一方で思い込みが強すぎる部分もあるようで、実際に沖縄県内の宿泊施設に話を聞いたりアンケートを行ったところ、「昔はひどいこともあったが、今ではそのような状況はみられない」「マナーは改善されている」との意見が多く出されました。逆に「日本人のマナーも決して良いとは言えない」という耳の痛い話もありましたので、外国人だからといって区別する必要は必ずしもないように思います。(1)については、人材育成や施設整備につながることであり、特に小規模施設では物理的な限界もありますので、行政の支援策とあわせて対応していくことが重要です。
 寛容な人が多いと言われる沖縄においても、全員が認識を共有するのは並大抵のことではありませんが、可能な限り住民を含む多くの人が「受け入れる」という意識を持つことが目標達成への第一歩と言えます。

■観光資源・施設の価値認識及び効果的な活用による適正価格での商品提供

 わが国・地域の観光資源・施設の価値を知ってもらうとともに、各国において正確な情報を伝えてもらうためにも、旅行会社、航空会社、メディアあるいは一般の人を対象とする招聘ツアーは非常に効果的です。特に、わが国及び地域に求められるニーズは、海外の国あるいはそれをさらに細分化した地域(エリア)によっても異なる場合が多いため、一概に考えるのではなく細かく把握する必要があります。
 そのためにも、まずは各国の現地事情(文化、風習、社会状況等)の把握が求められます。予算及びマンパワーが許すようであれば、全ての国・地域で情報収集やニーズ調査を行うことが望ましいのですが、それには限界があるため、例えば全体の把握にはJNTO(日本政府観光局)や各国政府観光局の資料等をフルに活用し、主要マーケットについては現地調査を行うなどの方法が現実的と思われます。これを下地とし、招聘会社や担当者の意見・要望を踏まえたうえで、テーマ性を有した招聘ツアーを実施することになりますが、同時に把握しておかなければならないのは受け入れ側の現状です。招聘ツアーにおいて、資源・施設の価値や案内表示の整備等について指摘を受けることとなりますが、事前に現状把握が十分になされていれば、招聘者の指摘事項や改善点についての理解が容易となります。指摘事項等をもとに、資源・施設の価値・魅力をブラッシュアップし有効活用を図ることにより、適正な商品価格に立脚する旅行商品の造成・提供へとつなげていくことが重要です。
 沖縄では、東アジア(台湾、韓国、中国(北京、上海)、香港)及び欧米(イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、カナダ)を対象とする招聘ツアーを実施しました。北京を除き定期路線があり、知名度が一定程度ある東アジアについては、他のビーチリゾートとの差別化を図ることを目的に「高級リゾート」をキーワードとする戦略を描いています。招聘者からは「これまでは正確な情報が十分に伝わってこなかったので、価格面(低価格)だけでツアー設定を行ってきたが、結果的に地域に対して悪い印象を残し、会社としても収益向上につながらなかった」「価値の高い良い施設が多くあるので、安売りはしないでほしい」などの意見が出され、正確な情報伝達の必要性及び過度な安売り競争に伴う地域や組織の疲弊・衰退等の危機感・危険性を改めて考えさせられました。欧米については、直行便がないことに加え、一般的な知名度がまだまだ低い(近年はミシュラングリーンガイドブックなどで沖縄の観光地が評価されています)ため、ゴールデンルート(東京~大阪)などと組み合わせたツアーを想定した戦略が描かれています。欧米の観光客には「観光+休養」という行動パターンがみられることから、沖縄はまさに「休養のため(英気を養うため)のリゾート」となる可能性を秘めています。この「休養」の中にはもちろん現地での活動も含まれるため、美しいビーチを楽しむフランス人、離島の自然へのこだわりをみせるドイツ人、アクティブな活動を好むアメリカ人など、国ごとの特性が反映されるような旅行内容・コースの提案が今後求められることとなります。

写真1
ビーチを満喫(フランスからの招聘者)
 
写真2
ホエールウォッチングを堪能
(アメリカ・カナダからの招聘者)

 最後に、冒頭にも述べましたとおり、観光立国のもとインバウンド振興が盛んになっていますが、実は100年前にも同様の状況がみられました。日本があまり豊かではなかった明治の中頃、外国人観光客の誘致による国の活性化を目指し、渋澤栄一などの発意によるわが国初の外客誘致機関「貴賓会」が創設され、それを受け継ぐ形で1912年(明治45年)3月、当財団の前身である「ジャパン・ツーリスト・ビューロー」が設立されました。このような経緯もあり、当財団は公益活動の一環として、今後も国及び地域のインバウンド振興に貢献していきたいと考えています。

※参考資料:
   「平成20年度国際観光地プロモーションモデル事業報告書」((財)沖縄観光コンベンションビューロー)
   「平成21年度国際観光戦略モデル事業報告書」(沖縄県)

 

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