指標を活用した持続的な観光地の管理・運営 [コラムvol.207]

2014.02.13

観光文化研究部 清水雄一
研究員コラム

■議論を具体化する観光指標

「観光立国日本」という目標が掲げられ、全国各地の自治体や様々な団体が観光振興に取り組んでいます。しかし、観光地が良好な状態を持続するためには、産業の振興や誘客の増大だけではなく、観光資源の保全や地域住民の日常生活等についても、配慮が必要となります。ただし、単に「配慮」という言葉だけでは、具体的に誰が何をどのような状態に維持したらよいのかという議論ができません。当財団では、そうした議論を具体化するための支援の一つとして、「持続的な観光地の管理・運営に向けた指標開発」に関する自主研究に取り組んでいます。

■観光地における「定期的健康診断」の必要性

「持続可能な観光のための指標」とは、人間に例えれば、「健康診断の検査項目」と言えるでしょう。私たちが受診する健康診断では、あらかじめ検査項目が決まっており、項目ごとに正常範囲も決められています。そのため、定期検診で数値に異常があれば対処できる訳です。観光地においても、状態を診断するための「検査項目」を設定し、定期的にモニタリングを行うことで、持続可能な観光地の維持のために適切な意思決定ができると期待されます。海外では1990年代半ば頃より観光地の管理・運営における指標活用が注目され、近年は複数の観光地で実践がなされています。それらの地域では、観光の「経済的側面」に加え、「社会・文化」「環境」「地域管理・運営」の各側面をバランス良く見ることで、地域の状態を把握し、観光政策の意思決定に役立てています。科学的アプローチによる客観評価の重要性は今後さらに高まると考えます。

表

『観光地のための持続可能な開発指標』(UNWTO2004)では、「経済」だけでなく、「環境」「社会・文化」の側面からも評価しようという「トリプルボトムライン」の考え方に、「管理・運営」を加えた4つの観点から、バランス良く指標を設定することができるよう、多数の事例を交え、構成されています。

■持続的な観光地の管理・運営に向けた指標開発の現在

海外では、指標を活用した観光地の管理・運営の試みがいくつかなされてきていますが、日本における指標研究及び実践事例は、ほぼ皆無というのが現状です。

昨年度、筆者らは指標に関する国際的な潮流を概観し、『観光文化(216号)』を通じて、その成果を発表するとともに、国内外の研究者ネットワークの構築に努めました。

今年度は、国内での実践に向けた有効な知見を得るため、国内外の研究者とともに、持続可能性指標の適用における課題の整理および解決策を検討しています。
その一環として、英国サリー大学のグラハム・ミラー教授、名古屋商科大学の二神真美教授を当財団に迎えて、意見交換を行い、世界各地の取り組み事例について情報交換をしました。また、欧州委員会でミラー教授が座長として進めた「欧州での持続可能な観光のための指標開発」に関する会議での議論の様子や、推進組織やプロジェクトリーダーのあり方、プロジェクトスタート時の進め方等について有益な示唆を得ました。さらには、アイルランドのダブリン工科大学によるDIT-ACHIEVモデルについても、開発の中心人物であるケビン・グリフィン氏らと意見交換を行ってきました。いずれのケースも、観光地のより良いあり方を目指して、多様な関係者と議論を重ね、地道な取り組みを積み上げていったものです。

我が国での持続的な観光地の管理・運営に向けた指標の開発は、まだ緒に着いたばかりです。今後は、研究で得た経験や知見をベースに、地域の皆様と一緒になって、国内観光地での指標適用時の具体的な課題、課題の乗り越え方等について、実地で議論と検討を重ね、実践的な研究に取り組んでいきたいと考えています。

 

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