位置情報データと観光の最新動向 [コラムvol.242]

2015.03.06

観光政策研究部 主任研究員 相澤美穂子

位置情報データを活用したゲーム「Ingress(イングレス)」

 みなさんは「Ingress(イングレス)」というゲームをご存知ですか?

 IngressはGPSの位置情報を活用したスマートフォンのゲームです。

 ゲームを立ち上げると、地図上に自分の現在地が表れるのと同時に、青や緑の点が画面上に点在している様子が示されます。この点はスタンプラリーでいうとチェックポイントのようなもので、ゲームの基本は点在しているチェックポイント(ゲーム上ではポータルと呼ぶ)を巡ることから始まります(写真1)。

写真1 ユニークな建物やモニュメントなどがポータルとして登録されている

写真1 ユニークな建物やモニュメントなどがポータルとして登録されている

 ゲームに慣れてくると、複数のポータルを点と点を線で結んで面を作る陣取りゲーム的な楽しみ方や、相手のポータルを攻撃する等、様々な楽しみ方があるのも魅力です。

ゲームIngressの魅力

 ゲームはほぼ英語表記で、最初はやり方がわからずゲームを始めるのを断念したくらい、正直とっつき難いゲームです。しかし、Ingressのプレイヤー数は世界中で約800万人に達したと言われています。日本でも2014年半ば頃から流行り始め、14年12月に東京で開催された公式イベントには約6千人が参加したそうです。実は私も14年10月からIngressを始め、ハマってしまった内の一人です。

 このIngressの魅力はどこにあるのでしょうか?

 まず大きな理由のひとつはIngressが完全無課金というところです。多くのソーシャルゲームが課金して利用価値の高いアイテムを得て有利にゲームを進められるのに対し、Ingressに課金はありません。全プレイヤーが平等であり、ゲームの成否はプレイヤーの努力にかかっています。

 そしてその努力は、ただひたすら“歩く”ことによって成し遂げられることがIngressの最大のキモです。 “位置ゲー”の先駆者的な存在である「コロニーな生活☆プラス(略称コロプラ)」との違いもここにあります。コロプラはエリア単位が都道府県や市区町村レベルと広く、交通機関や車での移動が攻略のカギとなっていますが、Ingressのポータルは短ければ数m間隔で点在しており、歩くことが求められるのです 。[1]

 ※関連コラム 「位置ゲー」にハマってわかったこと [コラムvol.136]
http://www.jtb.or.jp/researcher/column-location-registration-game-kubota

 ゲームで必要となるアイテムを得るにはポータルを訪れてチェックイン(ゲームではハックと呼ぶ)する方法が最も手軽で一般的です。また、相手のポータルを攻撃するには、ポータルに近づかなければ攻撃が届きません。他の行動も同様で、歩いてポータルを訪れないと何もできないのがIngressの特徴です。

 そのため、Ingressにハマると一日1万歩は当たり前のように歩くようになります。通勤ルートを遠回りすることはもちろん、地下鉄1~2駅分は喜んで歩きます。私がIngressを始めてから歩いた距離は700km超。世界中のプレイヤーが過去2年間に歩いた距離を累計すると1億3千万km、人類が太陽に到達する距離に匹敵します。

 さらにGPSによって位置情報を得ている以上、多くのポータルは屋外です。つまりIngressを攻略するには、外に出て歩かなければいけない。これがIngressの最大の特徴です。このゲームが開発されたのも、家に閉じこもっている子どもに外に出て遊んでもらいたい思いがきっかけだったといいます。

Ingressに自治体が注目

 この“外に出て歩く”というゲームのコンセプトが、観光と非常に高い親和性を示すことから、Ingressには多くの自治体が注目をしています。私が確認した限りIngressに対して何らかの取り組みを行っている自治体は表1のとおりです。Ingress自体の観光への活用は無料であり、小さな自治体でも気軽に始められることから、多くの自治体が関心を示しています。

表 1 自治体のIngressへの取り組み事例

表 1 自治体のIngressへの取り組み事例

 その中から横須賀市の事例をご紹介します。

 横須賀市は14年12月から15年2月末までの期間、Ingressプレイヤーに対し無人島「猿島」への往復フェリー代を半額にするキャンペーンを実施しました。また、ゲーム内にはおすすめの観光コースを作成する機能があるのですが、市はその機能を使い公式の観光コースを4つ設定し、市内の街歩きを促しました(写真2)。

 私も1月の休日に訪れましたが、猿島へのフェリー内には半額券を持つ人の姿や、ゲームを立ち上げている姿が目立ち、キャンペーン効果を実感しました。

写真2 横須賀市公式の観光コース (ゲーム上ではミッションと呼ぶ) 所要時間の目安とコースの説明が書かれている

写真2 横須賀市公式の観光コース
(ゲーム上ではミッションと呼ぶ)
所要時間の目安とコースの説明が書かれている

位置情報と観光の活用方法

 スマートフォンの普及が進んだことで、最近はこのような位置情報を活用したゲームやアプリが多数登場しています。その活用方法は様々で、Ingressのようにプレイヤーを外に出して歩かせるといったように旅行者行動を誘導することができるようになった一方で、GPS等の位置情報データをもとに旅行者の行動を分析することも可能になりました。

 当財団が2012年に受託した沖縄県の事業では、携帯電話会社の位置情報データを活用して沖縄を訪れた観光客の行動分析を行い、昨年11月に奈良で開催された「グローバル観光統計フォーラム」 で発表を行いました。また同フォーラムではエストニアでの携帯電話の位置情報を活用した旅行者行動分析の事例も発表され、ローミングデータを用いて外国人旅行者の旅行行動の分析もできることが報告されました。

 このように、位置情報を用いることで今までできなかった角度からの観光へのアプローチが可能になりつつあります。こういった技術の進歩は日進月歩であることから、引き続き注目していきたいと思っています。

[1] ポータルの間隔が短いといった他にも、Ingressでは一定以上の速度で移動した場合、ポータルにハックしてもアイテムを得られないといった速度制限があり、高速で移動する車や電車では攻略できず、歩く(または自転車移動)ことを誘導する仕掛けがここにも施されています。

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