韓国の観光実情についての一考察 -「日韓国際観光カンファレンス2015」に参加して-[コラムvol.281]

2015.12.11

観光政策研究部 主任研究員 牧野博明

 2015年11月27日(金)、韓国・ソウルにて「日韓国際観光カンファレンス2015」が開催されました。この会合は、研究協力協定を結んでいる韓国文化観光研究院(以下、KCTI)と公益財団法人日本交通公社(以下、JTBF)が共催するもので、それぞれの組織の研究内容の発表や情報交換等を行っています。3期目のMOU(Memorandum of Understanding on Research Cooperation)を締結した昨年は「日韓国際観光カンファレンス2014」を東京で開催し、今年は場所をソウルに移して行いました。

 KCTI側の発表内容については、2016年1月に発行予定の『観光文化』228号に概要を掲載いたしますので、ご興味のある方はそちらをご覧いただければと思います。ここでは、その中から特に印象に残った点について触れたいと思います。

             写真1 「日韓国際観光カンファレンス2015」の様子
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韓国人旅行者の動向と観光政策 ~旅行に積極的な韓国国民~

 韓国人の国内旅行について、旅行参加者数(人)はここ数年、宿泊・日帰りとも順調に増えています。一方、移動総量(人日)については、2009年から2011年にかけて減少しているものの、この年を底に2014年にかけて増加しています。このような異なる傾向を示す要因として一人当たり国内旅行参加回数が挙げられ、明確な理由は判明しませんが、2009年から2011年にかけてこの数値が減少しています。但し、この期間における国内旅行費用総額は比較的安定して伸びているので、経済的な影響ではないように思われます。いずれにしても、2012年以降は人数、総量、費用総額とも大幅な減少はみられないので、国内旅行は順調と捉えることができます。

 ならば海外旅行はどうかと言うことになりますが、こちらも2010年以降は順調に伸びています。2014年は1,608万人、2015年は約1,800万人になると予想されており、初めて日本の海外旅行者数を上回ることになりそうです。国内・海外旅行が伸び悩みもしくは減少している日本との違いを垣間見ることができます。

 このような状況のもと、韓国では国内旅行活性化策として、休日制度の見直し等旅行環境の改善、国民が中心となった地域観光の活性化等を推進しています。また、海外旅行活性化策としては、各種安全性向上策に取り組んでいます。

    表1 国・地域別インバウンド数(訪韓外来観光客数)の推移(カッコ内は対前年伸び率)

資料:「出入国観光統計」(法務部)

                                   資料:「出入国観光統計」(法務部)

韓国のインバウンドの動向と観光政策 ~中国人観光客の伸びと日本人観光客の減少が顕著、日本人観光客の回復が課題~

 韓国へ訪れるインバウンド数(外来観光客数)をみると、2008年以降は毎年100万人規模の増加となっており、2014年は1,420万人にまで拡大しています。2015年はMERS(中東呼吸器症候群)の影響で減少が見込まれますが、10月からは回復傾向がみられるとのことです。

 これを国・地域別にみてみますと、中国人観光客数が急激に伸びているのに対し、日本人観光客は2013年以降大幅な減少となっています。今や韓国に最も多く訪れているのは中国人であり、現地のショップなどに入りましても、中国語の表記が日本語以上に目立っています。

 このような状況のもと、韓国では更なるインバウンド振興策として、中国人観光客に対しては良質な観光(ガイド問題の改善)、日本人観光客に対しては回復推進のための交流拡大に取り組んでいます。また、MICE、医療観光、韓流、飲食、歴史、スポーツ、生態観光(エコツーリズム)などのテーマ観光の強化、受入体制の改善(受入サービスの強化等)にも取り組んでいます。

韓国における観光の課題 ~ソフト面の強化や日本人男性マーケット対応の強化が今後のカギに~

 これまでに述べてきたように、韓国においては、総じて国内旅行、海外旅行、インバウンドともに好調であると言えます。また、受入側の立場としても、テーマ別観光や住民参加型事業の推進、受入サービス強化など、積極的に観光政策を推進する様子がうかがえます。

 他方、観光の更なる強化を見据える場合、改善しなければならない課題もいくつかみられます。このうち、従来から指摘されていたことで、実際に現地を訪れて改めて感じた点について触れたいと思います。

 1点目は、受入サービス(おもてなし)です。特にタクシーについて、「愛想が悪い」「乗車拒否もある」といった噂を聞いてはいましたが、今回到着地のソウル・金浦空港から宿泊先へ向かう際に乗ったタクシーにおいて、その現実を目の当たりにすることとなりました。カンファレンスの会場となったKCTIは金浦空港に近いため、ホテルも空港近くで手配したのですが、タクシー(質の良いサービスの提供を謳う「模範タクシー」)に乗ったところ、運転手が「近すぎる」「(空港で)10時間以上も待ったのに」などの不満を口にしました。気持ちは分からなくもありませんが、それを利用客に対して直接告げる行為はいただけません。このようなことは韓国に限っているわけではありませんが、受入サービスの改善を目指している以上はきちんとした対応が求められます。

 2点目は、男性マーケットへの訴求です。韓国旅行の魅力といえば、食やショッピング、韓流などが真っ先に思い浮かびますが、特に日本人相手として考えると、どちらかと言えばこれらはいずれも女性向けと思われます。これ以外にも、歴史・文化や自然など韓国には様々な魅力があるのですが、観光消費に直結しやすいものが注目されやすいためか、偏ったマーケットになっているように感じられます。確かに、日本人の海外旅行の牽引役は女性であり、男性グループだと偏見の目で見られる恐れもあるため、男性をマーケットとして捉えるのはなかなか難しいかもしれません(実際に飛行機内では日本人女性の姿が多くみられ、男性はビジネスマンを除くとほとんど目に付きませんでした)が、日本人海外旅行マーケット全体が縮小しているなかで、男性に目を向けることも必要ではないかと思います。

 今後、韓国の観光政策が着実に遂行され、上記を含めた様々な課題が徐々にでも解決されていけば、韓国の観光振興が一層進むと思われます。

写真2(左) 日本語表記もある「模範タクシー」
写真3(右) 2014年にソウル・東大門にオープンした複合施設「ddp」内のデザインショップ
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