京都の町家に泊まる-多様な宿泊施設への期待 [コラムvol.6]

2007.10.26

研究調査部長 梅川智也

要旨

 既存の旅館やホテルだけではない多様な宿泊・滞在施設の存在は旅の魅力の一つです。特に地域の歴史や伝統に培われた民家や学校、文化施設などを宿泊施設としてコンバージョンすることは、既存ストックの有効活用にも繋がります。空き屋だけで全国に約600万戸。個人の資産を社会の資産として活かしていく方策が期待されます。

日本の伝統文化を「観光」の力で維持・再生

 先日、ある研究会で京都に行って来ました。宿泊先は京都の町家。「美しい日本の残像」や「犬と鬼」の著者・アレックス・カー氏が会長を務めるI社が施設の整備、維持管理、運営を行っています。現在6軒の町家を運営しているとのこと。社長のKさんは元鉄道会社にお勤めの異色の経営者です。失われつつある日本の伝統文化を「観光」の力で維持・再生しようという素晴らしい理念を持ってお持ちです。
 私が泊まったのは筋屋町の町家。もと豆問屋さんで、ウナギの寝床が多い町家にしては間口が広く、立派な建物です。京都出身の方によれば、もう絶対に住みたくないというのが町家、その理由の第一が冬の寒さだそうです。しかしながら、ここの町家はそれを全く感じさせない暖房設備が整っています。窓は二重窓。さらにインテリアや照明、敷物など至る所に日本人の感性にはないインターナショナルなセンスや工夫が見られます。
 二次会で行ったのは鴨川沿いの町家。鴨川が眼下に眺められます。川に面したデッキが開放的で、かつ鴨川の景観を独り占めできるという贅沢なものです。オーナーは東京在住とのこと。売りに出される物件が少ないとのことで、I社が借り受けて運営しています。
 これらの町家は旅館ではないので、部屋単位で使うことは出来なくなっています。全て一軒丸ごと貸し出すタイプで町家の良さを存分に味わってもらう、住宅としての伝統文化を伝えたいというコンセプトなのだそうです。

旅館ではなく、賃貸物件!-規制緩和に期待

 確かにコンセプトは素晴らしいし、もっともっと普及してもいいのではないかと思いますが、現実はいろんな規制やら何やらで、そう単純には行かないようです。
 まずは、旅館業法の関係。つまり不特定多数を宿泊させる旅館業法の「旅館」(5室以上なければならない)に該当しません。すると、旅館営業ではないので、宿泊約款の適用とならず、旅行業者から送客が受けられません。従って、現在は不動産業の関係の宅地建物取引業法による短期賃貸借契約で貸し出しているのだそうです(一軒単位というのはそういう背景もあるようです)。つまり管理運営会社とお客様は賃貸借契約書にサインをするということになります。それができるのは、宅地建物取引主任者の資格がなければならず、旅行会社にはさすがにそうした有資格者はいません。
 つまり、簡単に言えば、旅館やら旅行業という旧運輸省の分野と、不動産の賃貸という旧建設省の分野との狭間にあるわけで、これはまさに規制緩和の対象ではないかと・・。今は国土交通省として一体化していますので、解決されるのも間近ではないかと期待しています。
 全国で約600万戸の空き家があるそうですが、その中には地域の伝統文化を継承する貴重な住宅がたくさんあるものと思います。京都の町家だけでなく、農家や漁家などの古民家に泊まることができれば、旅行は楽しく、豊かになります。また地方への移住・定住なども進むのではないでしょうか。

文化財まで宿泊施設として甦らせたスペインのパラドール

 スペインにはお城を宿泊施設として活用した「パラドール」という素晴らしい国営のシステムがあります。1928年に貴族の山荘を改装してホテルとして公開したのが第一号とのこと。その後、貴族制度の崩壊とともに荒れ果てていた歴史的建造物である古城や宮殿、修道院といった文化財を、国が買い取り、あるいは借り受けてリニューアルし、ホテルとして蘇らせたわけです。
 文化財の保存や修復の費用を生み出し、宿泊客には高い満足度とスペインという国の歴史と文化に興味・関心を促し、自然環境の保護・保全にもなるという、まさに一石二鳥、三鳥、四鳥にもなるというスペイン政府の大ヒット施策と言われています。
 イギリスでも古城や古民家を観光客に利用させて、その収益を保存・修復という地域文化の維持継承に活用しています。
 日本でもお城や伝統的な建造物など単に地域資料館や博物館となっている施設を宿泊施設として利用し、その文化施設の管理運営費を賄い、さらには日本の伝統文化を理解してもらうといった施設があれば、素晴らしいのではないでしょうか。外国人にとっても魅力的ではないかと思われます。
 貴重な文化施設を何するのか!というお叱りが聞こえてきそうですが、日本の多くの城郭や伝統的な建築物は、資料館や博物館と言った無機的な施設になっていますが、宿泊機能を導入することによって有機的かつ血の通った施設、さらには魅力的な宿泊・滞在施設・・となるのではないでしょうか。宿泊しながら日本の歴史、文化を学んでもらう・・・まさにそれは日本の魅力となりうるものと思いますし、これからの文化教養志向の強い団塊世代、あるいは青少年の旅にも受けるのではないでしょうか。
 さて、京都の町家の話に戻りますが、食事が付いていません。従って、町に出かけていくこととなります。こうしたこともまちなかを活性化させる大切な要素となります。
 ちなみに朝食は歩いて数分の「Iコーヒ・本店」でいただきました。1940年から続く、京都の老舗コーヒー店。谷崎潤一郎やら長谷川一夫やらの写真が飾ってあります。京・朝食セットは、なかなか充実した内容でした。

もと豆問屋の立派な町屋-二重窓にして寒さを感じさせない
もと豆問屋の立派な町屋
老舗コーヒー店で朝食-まちなかの魅力の一つ
老舗コーヒー店で朝食

 

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