地方ローカル鉄道の利用促進と観光振興 [コラムvol.58]

 ほとんどの地方ローカル鉄道は、JRの路線、その他民鉄・第三セクターの路線を問わず、少子高齢化と人口の都市集中により利用者が減少し、年々経営・運営状況が厳しくなっています。しかし、利用者を増やそうとさまざまな取り組みをしている鉄道も少なくなく、その一つの方法として、沿線観光地の観光振興と連動した取り組みも有効です。今後も、鉄道の利用促進と観光振興というのは、地域活性化の一つのテーマとして検討する価値はあるでしょう。

■山形新幹線延伸をめざす沿線の活動

 今年7月、私は山形県横手市で、「鉄道利用促進と観光」というテーマで話をする機会がありました。
 これは、現在新庄まで通じている山形新幹線を大曲まで延伸し、秋田新幹線との接続を実現しようと、沿線の秋田県側の湯沢市、横手市、大仙市などで作っている「山形新幹線大曲延伸推進会議」から、総会における会員研修会として上記のテーマで講演してほしいと当財団に依頼があったものです。
 このテーマの主旨は、新幹線延伸を実現するためには、まず在来線の乗客を増やすことが大事で、そのために沿線住民の利用を促すとともに、観光振興と絡めて観光客に利用してもらうという方法もあるのではないか、そのためにどうすればいいか、というものです。
 この講演を機に、私自身もこれまで以上に、観光利用による鉄道の利用促進(需要誘発)とそれによる沿線の観光振興ということを意識するようになりました。特に少子高齢化と人口の都市集中による乗客減少に悩む地方ローカル鉄道にとって、観光利用の促進は鉄道自体の活性化にもつながる大事なテーマではないでしょうか。
 なおここで、「地方ローカル鉄道」という言葉は、厳密に定義して使っているものではありません。そもそもこの言葉に、何となく誰にも共通するイメージはありますが、共通の定義などありません。ここでは、大都市圏の鉄道や都市と都市を結ぶ幹線鉄道以外の鉄道という程度のイメージで使っています。

■観光と関連した鉄道利用促進の事例

 観光振興と地方ローカル鉄道の利用促進がうまく連動した代表的な例は、JR西日本の境線(米子-境港)でしょう。ご存知の方も多いでしょうが、終点の境港市が妖怪の活躍する漫画「ゲゲゲの鬼太郎」などの作者・水木しげる氏の故郷であることを生かして、漫画に登場する妖怪をテーマとしたまちづくりをしたところ、多くの観光客が訪れるようになりました。これに合わせて境線も、妖怪の絵を描いた列車を走らせたり、沿線各駅に「ゲゲゲの鬼太郎」に出て来る妖怪のモニュメントを設置したりして「妖怪鉄道」のイメージづくりを行い、観光客の利用も増えているようです。地方ローカル鉄道には珍しく、日中概ね40分間隔で列車を運転していることも、住民の利便性はもちろん、観光利用の促進にも寄与していると思います。今年6月には米子空港に至近の「米子空港」駅を開設し(従来の大篠津駅を移転したもの)、航空輸送との直結も狙っています。
 JR九州では、大分県由布院温泉の人気上昇に合わせ、博多と由布院・大分を鹿児島本線・久大本線経由で結ぶリゾート特急「ゆふいんの森」号を運転し、由布院温泉を訪れる観光客に利用されているほか、久大本線という地方ローカル鉄道のイメージ向上にも、一定の効果を与えているのではないでしょうか。
 沿線観光地への波及効果は今後の課題だが、鉄道自体が話題づくりをして観光客の利用が増加しているという例も各地に見られます。リゾート列車やSL列車(蒸気機関車列車)の運転は古くからある取り組みですが、最近のユニークな例として、千葉県の銚子電気鉄道(銚子-外川)では、事業収入増大のために鉄道会社自らが駅でたい焼き、ぬれ煎餅などの商品を販売するとともに、1日フリー切符を発売して、乗客が自由に買物や観光ができるようにしています。
 山形県の山形鉄道フラワー長井線(赤湯-荒砥)では、普段は運転士をしている人が団体客のある時や企画列車などでほガイドとして方言で沿線案内などをする「方言ガイド」が話題を呼び、ツアー客が急増しているとのことです。

■鉄道の利用促進と観光振興の連動に向けて

 観光客の利用増を図って地方ローカル鉄道の利用者増に結びつけるには、観光地の魅力づくりが先か、利用しやすい鉄道づくりが先か、という問題はありますが、まずは観光客を誘致できる観光資源の存在が必要でしょう。その上で、利用しやすい列車ダイヤや、拠点駅から観光地までの二次交通の充実がないと、観光客が利用したくても利用できない、ということになります。
 利用する立場から見ると、地方ローカル鉄道の大きな問題は、気軽に利用しづらい列車ダイヤです。ある程度の頻度で、しかもできるだけ等時隔で列車が運転されていること、幹線の主要駅から直通運転されているか、せめて幹線との乗り換え駅では列車の接続がほどほどのこと(良すぎてもあわただしい)などの改善が望まれます。
 さらに、一定のエリアは自由に乗り降りできる「フリーきっぷ」類の充実、乗ること自体が観光魅力となるようなしかけの開発、鉄道を活用した広域観光の推進などの取り組みが求められます。
 これらの取り組みを実行するには、鉄道会社と沿線観光地の連携が重要です。現在、観光旅行での利用交通機関は自家用車が大きな比重を占めていますが、地球温暖化対策というグローバルな観点からも、今後もっと鉄道利用が見直されていいと思います。各地での積極的な取り組みを期待したいものです。