滞在型観光への道程-泊食分離販売実験から- [コラムvol.44]

2008.08.15

研究主幹 大野正人
研究員コラム

要旨

 2008年度観光白書によると国内旅行の平均泊数は2年連続で低下して2.47泊となった。国は観光圏構想などにより滞在数を伸ばす支援を続けているが、このような地域の魅力作りだけでなく、宿泊施設が泊食分離販売を推進していくことも重要である。ここでは平成18-19年度に国土交通省が行った泊食分離の実証実験事業の結果を紹介し、今後の一助としたい。

本文

 国内旅行の滞在日数増加の阻害要因は大きく分けると、(1)時間(連続休暇)、(2)費用(宿泊費)、(3)滞在魅力(観光地の魅力)の3つである。このうち、(1)については3連休制度等も含めて一定の枠組みは出来つつあり、海外旅行の動向を見ても1週間以内の連続休暇が取得可能な状況であることは明らかである。また、(3)については国、地方自治体、観光事業者等がまちづくり、二次交通整備、着地型旅行商品開発などの取り組みを推進している。
 しかしながら(2)については、観光地の宿泊施設のほとんどが一泊二食販売を採用し、かつ夕食が会席料理、懐石料理に代表されるような一泊旅行のニーズに対応した高付加価値商品であり、さらに食事の事前予約が必須であることが課題となっている。
そこで、
 ①夕食を安く食べられるようにしたい。特に2泊目以降は簡単な食事で充分である……
 ②夕食の内容を、自由に、その時の気分で、その場で、選べるようにしたい……
という滞在客のニーズに対応するための回答の一つが泊食分離販売である。
 ここで回答の一つと述べたのは、泊食分離販売でしか滞在ニーズに対応できない訳ではないと言うことである。例えば3泊9食や1週間で泊食オール込みという料金制度は国内外にも存在し、マーケットにも受け入れられているし、国内温泉地で例外的に滞在客が多い鹿教湯温泉の斉藤ホテルは一泊二食販売である。従って、泊食分離だけが回答ではないものの、会席・会席系の定食しか出さない仕組みが完成されてしまっている国内旅館の現状を鑑みると、旅館の泊食分離販売が一番の近道であると考える。
 今回、作並温泉、舘山寺温泉、有馬温泉、平戸市等の8箇所の観光地で試みられた実証実験のなかで、特に温泉地での実験で明らかになったことを以下に整理する。

(1)旅館は一泊朝付販売、夕食は街の飲食店や旅館の食事処で無予約販売が望ましい。
 実証実験では夕食を他の旅館で食べられるような「旅館同士の相互乗り入れタイプ」や「旅館が飲食店の食事予約を代行するタイプ」、また「ミールクーポンを導入」して地域内での一定の食事消費を担保する方法等が試みられたが、旅館同士の相互乗り入れは個々の旅館がよほど料理に差別化しない限り同じ旅館での食事が多くなる結果となった。また飲食店の食事予約代行やミールクーポンは予約管理や精算の手間が負担となり、結局は「夕食は無予約でお好きな飲食店で食べて下さい、そのための情報を提供します。」と言うシンプルな仕組みが望ましいことが明確となった。
(2)今後、旅館は食事の無予約販売の仕組みを作ることが重要である。
 「夕食は無予約でお好きなレストランで……」は飲食店が多い温泉地では可能だが、そうでない温泉地では旅館の食事処などが無予約販売を可能とする厨房運営・食材仕入体制に変えていくこと必要となる。そのためには提供食数の予測方法、個別料理の効率的な調理手法などの開発が必要であり、この分野が今後の旅館経営ノウハウで最も重要なものであると言えよう。そして、このように当日に注文を受けて料理を出せる仕組みは滞在客だけでなく一泊客にも魅力となるはずである。
(3)観光地・温泉地のグルメ情報の提供が大事である。
 消費者は温泉街でどんな食事が食べられるのか不安だから、内容がある程度保証されている旅館やホテルの夕食を予約するのである。従って、温泉地のグルメ情報が充実していれば安心して外食(旅館の外で夕食を取る)という行動を選択できる。今回の実証実験では多種多様な飲食店が立地している有馬温泉で、この飲食店情報をウェブ上で充実したものを作成し、旅館の一泊朝食付き販売と組み合わせて提供した。このような観光地のグルメ情報は今後ますます重要性を増すと考えられる。
(4)過渡期的な手法として2泊目以降を泊食分離で提供する。
 国内旅行の滞在需要はほとんどが2~3泊程度である。そこで、一泊目は一泊二食販売であるが2泊目以降を一泊朝食付きとして、かつ室料を徐々に割り引く料金体系が幾つかの実証実験で導入され、一定の成果を上げた。これは旅館側にとって一泊目の夕食売上が担保されるので参加しやすい形態である。
(5)販売はウェブ販売が中心となる。
 連泊滞在商品はまだまだ市場規模が小さいため、旅行パンフレット等による販売では集客コストが不安となる。実証実験では多くの地域で新聞パブリシティや地元向けチラシなどを多用した。また、旅行パンフレットと観光協会サイトでのウェブ販売を併用した舘山寺温泉ではウェブ販売が実績が上がった。

以上、滞在需要開拓のための課題と方向性について簡単に整理したが、詳しい内容については以下の報告書を参照されたい。次回は一泊二食、泊食分離などに代表されるパッケージ料金とは何かについて考えてみたい。
      「宿泊産業活性化のための実証実験報告書」  平成20年3月 国土交通省総合政策局観光事業課

 

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