今年1年を振り返って [コラムvol.63]

■今回のテーマ

今年1年の観光の動きを概観し、10月に発足した観光庁への期待と、国、地方、民間の役割分担について考えてみます。

■需要動向

 2008年はアメリカのサブプライムローンに端を発した世界的な金融危機により、年後半から需要が減少していった1年でした。去る12月17日、経団連ホールで当財団の主催する旅行動向シンポジウムが開催され、今年と来年の旅行動向についての発表がありました(詳しくはホームページを参照して下さい)。2008年の国内宿泊旅行の参加率は0.9%減、海外旅行も7.0%減、これまで好調に推移した訪日外客は1-10月では4.3%増となっているものの年後半の急激な円高傾向でマイナスに転化してきました。これまでわが国は、バブル崩壊(92年半ば)、金融危機(97年後半)、ITバブル崩壊(01年)など経験してきましたが、今回は100年に1度の世界的な景気減退ともいわれ、ここしばらく(2-3年)は需要回復も難しそうです。

 特に最近の自動車や電機メーカーは、外需不振に陥り生産・雇用調整に走っています。1930年代、世界大恐慌の時代フランスでは大恐慌と失に苦しみ、失業の危機から頻発する労働争議を回避し経済再生を図るため休暇制度(2週間の有給休暇制度)とバカンス環境の整備を進めました。いわゆるワークシェアリングとリゾート開発です。わが国も今回の雇用調整をこうした方向で雇用確保を行うとともに、有給休暇制度の充実が望まれます。

■観光庁の発足とインバウンド政策

 2008年の観光面での1番のトピックスはなんといっても観光庁の10月発足です。観光関係者が待ち望んでいた観光行政の推進体制が整い、国をあげての観光立国の推進の第一歩がきられました。観光庁の当面の重点課題はインバウンドの振興と国内観光地の活性化といわれています。また、関係各省庁に対してリーダーシップをとり政府を挙げた取り組みの強化が期待されています。これまでも各省庁それぞれに観光に関連する施策が多くとられてきましたが、横の連携が少ないため、無駄な投資が行われたりしてきました。観光産業が多くの産業の総合体であるため、世界各国でも多くの省庁が観光業行政に関与するのは一般的と言われています。しかし観光行政権限の分散には政策の重複や、または欠落するというリスクが伴い、観光行政の総合化、統合化は各国共通の課題でもあります。それだけに今回の観光庁には各省庁間の調整、地方行政との調整、観光関連産業との調整、一体化に期待が集まっています。

 観光庁の当面の課題のひとつに、国内の観光池の活性化があげられています。インバウンドの振興のため、地域経済への支援のための施策ですが、将来的には地方分権で地域行政にまかせた方が個性ある観光地形成に結びつくと考えられます。国の役割、地域の役割、民間の役割をきちんと整理する必要がありそうです。

 これまでわが国において、インバウンドの振興に力を入れた時代が何回かありました。昭和初期1931年、政府内部に「国際観光局」がおかれ、半官半民の(財)国際観光協会を中心に、官民が協力して外客誘致活動を展開しました。またこの時代、大蔵省融資による国際観光ホテルなどの宿泊施設の整備が進み、現在でも多くのホテルが機能しています。また第二次大戦直後、「運輸省鉄道総局観光課」が設置されインバウンド振興に力をいれていました。しかし朝鮮動乱の特需の好景気もあり、あまり長続きしなかったようです。その後1963年に観光基本法を中心に法整備が進んでいっています。こうした時代に国や行政が何をすべきか、どこまで関与すべきかを整理されていれば、またこの時期に観光庁ができていればと残念に思います。アメリカでは1958年に国民のレクリエーション行政、国の観光政策の統一見解がだされています。連邦政府の役割、州政府の役割など整理されその後これにそった施策がとられていると聞きます。

 今回の観光庁の設置において、国の役割、地方の役割、民間の役割の整理することにより、筋の通った長期的にぶれのない観光行政を期待しています。