迷走の2010年を振り返って -対処療法から長期的取り組みへの転換を- [コラムvol.132]

2010.12.24

理事  大野正人
研究員コラム

◆要旨

 2010年は政治・経済のあらゆる面でアジア新興国、特に中国の動向が我が国に及ぼす影響が表面化した年でした。そして観光旅行市場は回復基調にあるとはいえ、長期的・構造的な問題は解決の兆しが見えておらず、観光政策や観光業界の取り組みは短期的施策が優先され、長期的取り組みが後回しにされた迷走の一年であったといえます。最大の危機をようやく乗り越えつつある現在こそ、長期的取り組みが必要とされています。

◆2010年の観光・旅行市場の概観

 2010年の国内観光旅行は昨年対比では多少回復基調が現れてきましたが、長期低落傾向を食い止められるような新たな期待要素は見えておらず、地方観光地や温泉地では構造的不況からの脱出シナリオが描けていません。特に滞在日数を増加させるための施策として期待される休日・休暇制度については、その有効性や方法論についての論議はほとんど進みませんでした。そして、減少する国内観光旅行を補完する役割が期待されている訪日旅行も7月からの円高傾向、9月の尖閣諸島問題により、今のところ致命的な減少傾向は出ていないものの、来年以降の中国からの訪日旅行の動向に影をさしています。一方、海外旅行は円高を追い風として回復の動きが顕著ですが、市場の高齢者偏重はますます進むと見られており、若年層を初めとする市場の裾野を再び拡大するための有効な施策が必要とされています。

◆観光業界が直面する幾つかの課題

 このような動向のなかで観光業界が直面する幾つかの課題と取り組みの方向性について、以下のような課題を考えていく必要があります。

1.国際対立の構図と観光の役割
   国際的な政治対立が観光に及ぼす影響は、過去の様々な国際危機では海外旅行への影響として捉えられてきました。しかし、アジア諸国との結びつきが強まった現在では、尖閣諸島問題は、国内観光においても国際政治を意識しなくてはならない、と言うことを我々に再認識させられました。
 本来、観光は国際交流による相互理解をもとに平和を促進するという社会的意義を持っています。しかし、尖閣諸島問題を契機として、中国資本による観光地の土地買収問題がマスコミに取りざたされるなど、過去にニセコ地域にオーストラリア資本が参入した時とは異なる論調が目立っています。政治的対立が国民感情を刺激し、中国人観光客に対する国民のホスピタリティ意識が低下することが最も懸念される状況です。観光業界は日中間の国際旅行減少を経済的損失として問題視するだけではなく、政治的対立とは別次元で、国民レベル、住民レベルでのアジア諸国からの訪日観光客へのホスピタリティの維持・向上を、国際交流という原点に戻って、啓発していくことが期待されています。
2.高付加価値・高額商品の飽和と低価格商品の台頭
   航空業界ではJALの破綻と再生がもたつくなかでLCC(Low Cost Carrier:低価格航空会社)が注目されました。宿泊業界でもビジネスホテルから始まったLCO(Low Cost Operator:低価格宿泊事業者)が観光地にも様々な事業体で着実に浸透しつつあります。
 これらの動きに対して、既存の事業者は低価格商品から撤退して高付加価値商品にシフトする動きが顕著です。ホテル業界でも2010年には多くの五つ星ホテルが開業し、旅館業界でも財務再生が終わった施設では同様の付加価値向上競争が起きています。しかし、高価格市場と低価格市場を区分して「棲み分け」を図ろうとする戦略は本当に有郊なのでしょうか。
 高価格市場が飽和して競合が激化する兆しは既に見えており、そして低価格でビジネスモデルを確立した低価格事業者が高付加価値商品市場に参入する動きも出てきています。
 すでに価格破壊で名をはせた旅館チェーンが露天風呂付き客室を中価格で提供を始めるなどの動きです。LCCもいずれは現在よりも市場シェアを拡大することが予想されます。
 市場が縮小するなかで高付加価値商品を志向していた自動車・電機業界は一斉に新興国向け低価格商品を国内市場に投入するなど、低価格で事業を成立させる道を模索しはじめました。観光業界でも、低価格市場は別の業態である、別のマーケットである、という認識を改めて、このような低価格でも事業を成立させるビジネスモデルを確立することが急務となっています。
3.地方観光地と首都圏の格差
   財源不足は特に地方の観光振興・地域振興の活動財源を直撃しており、首都圏と地方の格差が拡大する兆しがあります。観光まちづくりや地場産業の構造転換などの長期的施策が必要な地域への支援が縮小し、地域の観光魅力向上を目指す動きに制約が生じています。
 また、観光入込動向を見ても、温泉地や地方の減少と東京への一極集中の傾向が強まってきており、加えて、地方空港の航空路線縮小など、地方の観光を取り巻く交通条件もますます厳しくなってきました。少ない財源でより効果的な観光振興、地域振興策を実行していくためには、地域の観光産業と住民と行政が一体となって、我が地域の観光のあり方を議論し、観光政策の選択と集中を図っていくことが必要とされています。

◆2011年への期待

 回復基調とは言え先行き不透明感が漂う2010年ですが、明るい材料としては、訪日マーケット調査のスタートや、宿泊旅客統計の充実、観光地の顧客満足度調査の拡大など、地方がより明確な観光施策を打ち出すために必要な基礎的なマーケティングデータが整いつつあります。また2011年には観光立国推進基本計画の見直しもスタートします。我が国の観光のあり方、そして地域振興における観光の在り方についての長期的かつ根本的な議論の場となることを期待します。

 

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