2009年を振り返って-迫られる地場産業の「変化への対応」-  [コラムvol.106]

2009.12.25

研究主幹 大野正人
研究員コラム

◆要旨

 この2年間は我が国のあらゆる産業が変化への対応を突きつけられた年でした。そして、2008年の対応が対処療法である雇用調整中心であったのに対して、2009年は提携やM&A等、事業体の再編成まで含めた抜本的な対応が進行しています。しかし、地域の観光経済の担い手である地場産業においては依然としてセイフティネット対策、金融支援頼みの域を出ていないのが現状です。「経営とは変化への対応である」という視点から見ると、地場産業に於いても事業内容の取捨選択、事業体の再編成まで視野に入れた大胆な対応が求められているのではないでしょうか。

◆2009年の概観 -市場の変化と観光政策-

 2009年は世界的な景気後退に加えて5月の新型インフルエンザ流行により旅行需要は大幅に減衰し、特に国内宿泊旅行は海外旅行と比べても減少幅が著しい結果となりました。
 このような危機に対して、3月から高速道路の1000円均一料金が需要喚起策として開始された他、9月には秋の大型連休(シルバーウィーク)が始まりました。さらに9月に発足した新政権では、中小企業の返済猶予制度、企業再生支援機構の発足など、需給ギャップに苦しむ地場産業向けの支援策が打ち出されました。
 また、インバウンド誘致政策では7月に中国の個人観光ビザが緩和された他、10月にはインバウンド2000万人目標の2020年から2016年への前倒し、2010年10月に拡充される羽田空港の国際線割り付け拡大等、矢継ぎ早に政策が打ち出され、特に景気が持続している中国への期待が高まっています。
 しかし国内旅行について見ると、1000円高速やシルバーウィークにより人の動きは活発になりましたが、多くは日帰り観光活動に留まり、なかなか宿泊数増加に結びついていないのが現状です。日帰観光需要は喚起されるが宿泊観光需要はあまり喚起されないという状況は、消費者の意識が変化し、観光地で宿泊する意欲そのものが減衰していると見ることができます。この現象は単なる「景気悪化による需要低下」ではなく、国内観光宿泊に対するニーズと供給される宿泊商品とのミスマッチ拡大による「市場の変化」と捉えることが必要ではないでしょうか。

◆観光地再生の3つの視点 -宿泊商品構成の転換、生産性向上、事業体の再編成-

 国内観光宿泊の価値が特別に魅力あるものではなくなっている、コモディティ商品化(日常商品化)していると言うことは、それだけデフレ懸念が強いということです。
 従って宿泊の価値を見直すことが必要ですが、今までの商品構成のままで価値を一様に高めるだけでは価格ニーズとの乖離が強まります。そこで、以下のような視点が必要になります。

1.商品構成を大胆に転換する
   宿泊商品は「滞在する(客室や館内空間)」、「食事する(料飲施設)」、「リラックスする(温泉入浴他)」という3つの要素を適時組み合わせ、そこに「地域文化体験」という味付けを加えることで成立しています。そのなかで一部の要素のみを消費者の感性・価値観に合致したものに転換し、他の要素は地域や他の事業者に一任する、という商品構成の転換、役割分担の考え方が必要になってきます。旅館の泊食分離販売もその一つですし、地域文化体験を宿泊体験と連続してつなげる着地型旅行商品もその一つです。
 今までのように同じ土俵で同じ技で価格競争をするだけではなく、異なる土俵で自分の決め手を磨くことが望まれています。
2.人時生産性を高める
   同じ商品構成でも、それを実現する運営システムを精査して生産性を高めれば利益は増加します。単なるリストラ・非正規労働者への切り替えで人財の使い捨てをするのではなく、一人一人の作業内容の科学的分析をもとに業務を改善し、人時生産性を高めることが求められています。国内需要は容易に増加しない、インバウンド誘客も円高基調のなかでは先行き不透明、という見通しのもとでは、現在の収入水準を前提として利益を生み出すための経営・運営のノウハウ向上が必要です。
3.事業体の再編成
   これは地場産業の役割そのものを見直すことにつながります。今までの地場産業は、経営者が現場に接することで消費者ニーズを的確に察知する感性を育み、中小企業ならではの小回りの良さを活かして、きめ細かく対応することで生きてきました。しかし、一方では金融環境の変化により財務体質の弱さが露呈されてきています。
 経営・運営の現場では地場産業としての特長を維持しつつ、設備投資や財務面では投資の専門家と手を組むなど、所有と経営・運営の分離という事業スキームを視野に入れることも必要になっています。同時に、全ての商品を自前で提供するのではなく、地場の複数の事業者が得意分野だけを持ち寄って経営する地域協働・一体経営という手法も今後期待される試みです。

◆地域一体経営とまちづくりの連動による観光地の面的再生に向けて

 今後、観光地域の地場産業の経営破綻がますます加速することが懸念されます。しかし、1997年の金融危機に起因する事業再生のように、同じ商品構成で安売り合戦を繰り広げるようになっては地域経済はますます衰退します。
 これからの事業再生は、個々の事業体ごとにバラバラに行われるのではなく、地域全体の役割分担を意識してそれぞれの商品構成・役割を見直す「複数旅館の一体経営・協働経営」のような手法が必要ではないでしょうか。
 そして、これらの事業再生と足並みを揃えて、まちづくり・環境整備・施設の用途転換促進などの行政施策を組み合わせることで相乗効果が得られ、観光地の面的再生が実現できると考えます。    

 

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