ことし一年を締めくくるにあたり [コラムvol.236]

  ことし最後の仕事は、1月発行予定の当財団機関誌『観光文化224号』の特集記事の執筆でした。特集のテーマは“地域発観光プログラムの流通・販売”。“地域が主体となって地域固有の観光資源(自然、歴史、産業、街並み、生活文化など)を発掘し、磨き上げ、ガイダンスによって付加価値を高めた上で観光客に提供する”動きがいたるところで盛んになった一方で、お得感も出しているのに“売れない”という声がきかれることに着目。“なぜ売れない”、はたして“売れるとは”、この問題意識が企画の発端でした。その課題に対するわたしたちなりの答えは、本誌をご覧いただくとしましょう。
 ところで、そこには11名の実践者が登場しています。彼らの取り組みなどの取材、インタビュー結果を総括した『視座』の欄では、「彼ら自身がガイド、あるいは地域コーディネーターとして、楽しい、おもしろいと感じることや、こうしたいと思うことに対して信念をもってやり遂げ、またやり続ける意志を持っている、客観的に、つまりどこか俯瞰しながら自分の活動を冷静に見ていることや、できることと手の届く高さを理解し、着実に進んでいる」と分析し、「彼らのそのような能力や魅力、情熱こそ”売れる“ための要点である」と結びました。また、最後に「彼らが取り組む地域発観光プログラムの企画・販売・催行事業を一つの産業として、ガイド業や地域コーディネート業を一つの職業として強く意識したい。具体的には、地域の子供たちにあこがれをもって目標とされ、またプログラム参加者からは敬愛されるような“かっこよい”職業へ」と書きました。わたしが、この十数年の間、思い続けてきたことです。
 冊子としての構成上必要となるのでとりまとめましたが、実はもっとも読んで欲しいのは、個別の実践記事です。インタビューや座談会の内容を原稿として書き起こすときは、できるだけその“ひと”の想いや考え方がわかるように配慮しました。わたしが伝えたかったのは、彼らの内面、そして“かっこよい”生き方をしているということ。写真も載せています。みんなとても“いい顔”をしていますから、ぜひ見てください。

 今年一年間の出張日数は78日。個人的なものも含めると100日近くの旅行になります。
 師走の初旬には、仙台から宮古までの三陸沿岸を2泊3日で北上し、被災の現場で復興に励むひとたちの取材を重ねました。大槌町でお会いし、休日にもかかわらず、わたしたち研究チームをご案内いただいたのは役場で働く三人の好青年。情報の豊富さと的確さ、地域コミュニティの内心を慮った発言など、行政のプロとしての力量に感心。また行政マンとしての仕事の他に、消失した砂浜海岸の復元に向けて仲間たちと観光プロジェクトを個人として立ち上げて、自分たちの理想の具現化に取り組んでいます。正直な感想は“よくやるよなー”というところなのですが、とにかく楽しそうで、いきいき動いている。バイタリティに感服しました。
 そして長野県飯山市が今年最後の出張先となりました。大雪警報発令下、長野駅からレンタカーを運転して目的地へ。ここでインタビューに応じてくれた二人のOさん。地元の女性たちが運営する道の駅、見たことのないような新幹線駅構内の観光案内所の設置にいたる実話を聞くうちに、観光プロモーションの具体的手法を探るはずが、彼らの創造力、実行力に魅了され、わたしの興味はもっぱら二人の生き方や、考え方の本質に。みなさん地元生活者として地域のために、自分のために、現実的な理想型という、一見矛盾する課題に挑戦し続ける行動派です。
 
 地域ごとに、優れた人が居て、独創的な発想があり、着実な実践があります。それを今年もたくさん見てきました。都市部に身を置き、薄れたリアル感しかもちあわせない者が“人の苦労も知らないで勝手なことを言うな”と言われそうですが、いくつもの“かっこよい”生き方にであいました。そのように感じる場面が年々増えているように思います。“とがったこと”が受け入れられ、それが具体化されているのだと感じます。
 わが国はいま地方創生という課題に取り組んでいます。将来を見据えると、いま必ずクリアすべき課題。その動きの中で、地方経済活性化のエンジン役として観光への注目度が高まっています。わたしは、ここで紹介したような、その地に根付いて観光交流に情熱を注ぐひとたちが、地域経済の活性化、さらに多様な価値観に基づいた素晴らしい暮らしを地方で実現する牽引役になるものと確信しています。

 彼らと会うときに、“自分はどうなんだ”といつも考えさせられます。
 対峙して、負けているようでは仕事にならないですね。自分こそ、かっこよく。