2015年を振り返る[コラムvol.283]

2015.12.25

理事・観光政策研究部長 梅川智也

 2015年も残すところ一週間となった。

 「観光」に対する追い風が吹き続く中で、今年も私ども公益財団法人日本交通公社に対して多くの方々からご支援、ご鞭撻をいただいた。

 この場を借りて改めて厚く御礼申し上げます。

 さて、今年2015年であるが、昨年に引き続き、観光業界は、“インバウンドで始まり、インバウンドで終わった”という印象が強い。インバウンドに関連して最近考えることの一端を何点かご披露させていただき、ご意見など賜れれば幸甚である。

気になるインバウンドに対する世論-概して“好意的”

 日本政府観光局(JNTO)によれば、11月末までの訪日外客数の累計は1,796万人と過去最高を記録しており、目標としていた2020年を待たずして2,000万人は達成される見通しである。それだけアジア、特にASEANをはじめとする東南アジアの経済発展が凄まじく、ヒト、モノ、カネ、情報の流れはますます活発化し、かつ短時間に行われるようになっている。日本は島国とはいえ、周辺には経済大国と人口大国が多々あり、黙っていてもインバウンドは増え続けることは間違いないと思われる。

 そうした中で、最近気にかかるのは、急増する外国人旅行者に対して国民がどういった感情を抱いているかである。今年、内閣府が実施した「観光立国の実現に関する世論調査*1) 」によれば、日本を訪れる外国人旅行者数について数年前と比べて93.4%が「増えた」と回答しており、国民の間で外国人旅行者の存在が極めて身近になっていることを窺わせている。そして、訪日外国人旅行者の増加による影響については、良い影響として、半数近くの国民が

・「観光による消費が拡大し、日本経済の活性化につながる」65.4%
・「街がにぎやかになり、地域経済の活性化につながる」50.0%
・「国際交流が進み、相互理解が深まる」46.3%

と捉えており、逆に、困っていることとして、

・「治安の面から不安を覚えるようになった」29.5%
・「マナーや文化慣習の違いなどから、外国人旅行者とのトラブルが増えた」25.5%
・「外国語を話せないので、話しかけられてもコミュニケーションがとれない」20.0%

 などで、いずれも3割に満たない結果となっている。

 まず、今の段階では全般的に肯定的に捉えられているものと推察できるが、こうした世論調査は、ハワイ州(「Resident Sentiment Towards Tourism」)のように、数年毎に実施し、観光に対する国民意識を把握しておくことが望ましい。

2015年の流行語大賞に「爆買い」-本筋は「日本人の国内宿泊旅行消費」にあり

 今年の流行語大賞に「爆買い」が選ばれた。主に中国人観光客による旺盛な消費行動を意味しているが、この報道が急速に増加したのは、今年の2月、春節からとのことである*2)。観光庁の「訪日外国人消費動向調査」 によると、中国人の日本国内での旅行消費額は、今年1-3月期で2,775億円、4-6月期で3,581億円、7-9月期で4,660億円と増え続け、年間では1兆5千億円に達するものと想定される。円安やビザ発給要件の緩和などがその背景にあるが、輸入代行業のような観光スタイルが未来永劫続くとは到底考えられず、これからは「モノ」に変わる「コト」をわが国としてどう提供していくかが問われていくことになる。

 ところで、国内の旅行消費額*3)は、2013年の最新データによれば、全体で23.6兆円、うち訪日外国人旅行等は1.7兆円、7.0%にとどまっており、この2年間の急増はまさに「爆増」と言えるものである。わが国の旅行消費額は、その7割(15.8兆円)を日本人の国内宿泊旅行が占めており、その維持拡大は地域経済の活性化にとって依然として大きな課題となっていることは言うまでもない。「爆買い」といった一時的な消費拡大とは別に、日本の観光産業を支えるいわば基礎的消費額であり、この問題を抜きにしては観光立国は成り立たない。

 今年は、地方創生の関連でプレミアム旅行券などが全国各地で発売され、国内旅行も一時的に増加傾向を示しているが、旅行消費の先食いによるリバウンドを考えると、国政選挙のある2016年は楽観視できない状況である。既にインバウンドとのバッティングの問題も出始めており、地道でかつ抜本的な方策を検討していく必要がある。

世界の注目が集まる日本のスキーリゾート

 観光客数や消費額といった「量」の問題だけでなく、観光地としての「質」が問われるようになってきたことも今年の話題の一つであろう。

 バブル崩壊以降、一貫してわが国のスキー需要は減少し、スキー場の低迷が続いていたが、昨今、インバウンドによって盛り返しつつあるのがスキーリゾートである。日本のように緯度が低く、しかも標高の低いところに、大量の積雪のある地域は世界に見当たらず、しかもパウダースノー(JapanのPowderSnowということでJapowと呼ばれている)であることが世界のスキーヤーを虜にしている。

 特に北海道のスキーリゾートに世界の注目が集まり、国際的なホテルチェーンが相次いで進出した(進出を表明した)ことは、インバウンドが次の段階を迎えたと理解することが出来る。もともとスキーは比較的裕福な人々のスポーツであり、安売りが続いた北海道観光が転機を迎えるいいチャンスであり、富裕層に目を向ける一つの契機とすべきである。

 昨年来、北海道では、ルスツに「ウェスティン・ルスツリゾート」(210室)、キロロに「シェラトン北海道・キロロリゾート」(140室)、「キロロ・トリビュートポートフォリオホテル・北海道」(282室)が開業、さらに、ニセコでは「パークハイアット・ニセコHANAZONO」(200室、レジデンシャル含む)が2019年、「リッツ・カールトン」(50室)が2020年に相次いで開業することが発表されている。ニセコは、オーストラリア人のスキーリゾートから、世界が注目するワールドワイドなスキーリゾートとしてステップアップすることとなった。しかし、単に国際チェーンホテルの進出だけなら世界のどこにでもあるが、「坐忘林(ざぼうりん)」(15室)や「杢の抄(もくのしょう)」(25室)など小粒で個性ある“和風の温泉旅館”が国内資本によって立地しつつあることこそが、世界に誇るスキーリゾートたる所以であると考えている。

 こうしたニセコは、ナショナル・ジオグラフィクの「World's 25 Best Ski Towns」、ザ・ニューヨーク・タイムスの「One of the top 20 places to visit in the world」、そしてフォーブスの「The world’s top 20 ski resorts」にも選出され、世界の投資家や富裕層が注目するエリアとなっている。

 一方、星野リゾートトマムが中国資本に売却されたことも今年の話題として注目されるだろう(まだ報道の段階であり、本当に実現するか否かは予断を許さない)。中国政府は2022年の北京冬季オリンピック(2018年は韓国・平昌)に向けて、3億人の子供達にスキー経験をさせるという目標を設定しており、その場所として日本のスキーリゾートがターゲットとなっている。とはいえ、中国語のできるスキーガイドは少なく、中国からの留学生にスキーを教える札幌のNPOの活動(NPOおもてなしスノーレンジャー)は、単なるスキー技術だけでなく、日本の“おもてなし文化”を伝える素晴らしい取り組みとして注目される。

進む投資、急がれるルールづくり

 こうした新たな段階を迎えつつあるインバウンドであるが、いち早く、外国人観光客の来訪だけでなく、外国からの投資を受け入れてきたのも北海道のニセコである。ニセコ地区は行政的には倶知安町とニセコ町にまたがり、抱える問題や課題も異なるが、これまでインバウンドの恩恵を十分に受けて来たかというと必ずしもそうでもないことが分かる。

 特にニセコひらふ地区は、2000年代に入って以降、廃業したホテルやペンションが海外資本によって買収され、日本にはそれほど普及していなかったコンドミニアムホテル*4)を建設、それを外国人に販売する不動産ビジネスが相次いだ。比較的高額な物件も多いため、不動産取得税は北海道に入るものの、市町村税である固定資産税については、地域住民への配慮から低く抑えられ、地元自治体である倶知安町にはそれほどの税収効果はあがっていない。むしろ、ゴミの問題やロードヒーティングの費用負担などコミュニティを維持していくことに対して不在地主である投資家は“フリーライダー”と化している面が否定できず、地域社会の秩序を乱す要因ともなっている。

 こうした諸課題に対応するため、倶知安町では2014年、「ニセコひらふ地区エリアマネジメント条例」*5)をリゾートエリアにおいては全国に先駆けて制定した。現在、これからの行政サービスのあり方や具体的な財源について検討している段階である。不在地主に対して、どう町内会費を徴収するか、観光協会費をどう負担してもらうかなど身近な問題だけに、全て地元自治体、ひいては地元住民にまで解決策が委ねられていく現実に、国や都道府県などがもっと早くルールづくりのための知恵や知見を提供できなかったのかと悔やまれるところである。

 今、民泊の問題や自家用車による送迎、自宅の駐車場を観光客に利用させるなどの“シェアリング・エコノミー”の議論が盛んであるが、国際的な潮流といってアクセルを踏むだけでなく、過去からの経緯やルールを遵守してきた方々の意見にも耳を傾け、従来からのルールが変更される場合は、十分な周知期間を設け、また想定される課題に対しては先手先手を打ったルールづくりの必要性をニセコの問題を通じて改めて感じている。

 2016年3月には、内閣総理大臣を議長とする閣僚級会議「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」によって新たなビジョンが策定される運びとなっている。日本政府が戦後はじめて観光に対して本腰を入れるビジョンとして期待したい。

蝦夷富士ともいわれる羊蹄山。この美しさを求めて世界のスキーヤーが訪れる北海道のニセコエリア。

蝦夷富士ともいわれる羊蹄山。この美しさを求めて世界のスキーヤーが訪れる北海道のニセコエリア。

注)

*1:観光立国の実現に関する世論調査(内閣府)
調査時期:平成 27 年 8 月 20 日から平成 27 年 8 月 30 日
調査対象:全国 20 歳以上の日本国籍を有する者 3,000 人
有効回収数(率):1,758 人(58.6%)

*2:日経ビジネスオンライン「テレビは「爆買い」をどう伝えたのか?」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/216653/082800009/?P=1

*3:「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究(2013年版)」(観光庁)

*4:分譲マンションのことであるが、所有権と利用権を区別し、オーナーが利用しない間は管理会社を通じて旅行者に賃貸され、ホテルとして利用される。その収益はオーナーに一定の割合で還元されるため、投資目的で購入するケースが多い。居住スペースが広くリビングやキッチンなどが整っており、長期滞在に適していると言われている。ただし、日本にはまだコンドミニアムタイプのホテルは少ない。

*5:倶知安町議会議員・田中よしひとのブログ
http://ameblo.jp/niseko-yoshi/entry-11920007155.html
に地域の現状と課題が詳細に記述されている。

この研究員のその他のコラム

最新研究員コラム

観光研究コラム一覧

関連するタグ: