人口低密度地域での観光振興について考えてみます [コラムvol.396]

2019.05.20

観光政策究部 研究員 小坂典子

 産業全体に占めるサービス産業の割合が大きくなるに伴い、経済の中心が都市部へと集中し、地域別人口の二極化が進んでいます。こうしたなかで、観光は「地域の稼ぐ力」となるといわれていますが、今回のコラムでは地域のなかでも人口低密度地域において求められる観光振興策について、そうした地域の社会状況整理や事例も参照しながら考えたいと思います。

観光振興策はどの地域でも同様に成立するわけではない

 観光による地域振興策を考える際、当たり前ですが、執るべき方策はその地域の社会状況によって異なってきます。例えば、産業集積に乏しく人口が低密度の地域と、その対極にあるサービス経済社会となっている人口集積地域とでは、全く条件が異なり、そのため執るべき施策、ひいては観光によって目指す地域の状態も異なってきます[図1]。観光はサービス業の一種ですが、人口低密度地域が観光振興を目指す場合、ヒト・モノ・カネをはじめとする地域の経営リソース不足が制限要因となると考えられます。

[図1]人口低密度となっている地域の社会とサービス経済社会のリソースの比較(筆者作成)

人口低密度地域を仮に過疎地域と定義すると、その経営リソースはその他地域の後塵を拝した状況です。

  • ヒト 過疎地域での就業者数は昭和45年から平成27年にかけて第1次産業で88.9%減少、第2次産業では63.3%減少
  • モノ 観光関連サービス等は住民による需要も重要となりますが、人口低密度地域においてはそれが限られるため成立が困難な状況にあります
  • カネ 自治体の裁量で使用できる地方税は、歳入合計の13.1%(非過疎地域32.7%)、財政力指数平均は0.24(全国平均0.50)
  • 出典:総務省「平成28年度版過疎対策の現状」

人口低密度地域で観光を用いて目指す姿は?

 では、人口低密度地域において観光を用いることによって目指すべきなのはどのような状態なのでしょうか。もちろん、その地域ごとに異なってくるものですが、「地域の持続性の向上」、地域独自のリソースによる自律的な地域経営を行っていくことは共通しているのではないかと思います。

 一般的に観光によって得られる効果には、社会的な効果と経済的な効果があるといわれていますが、これら観光による効果を地域の社会・経済、さらに自然環境の側面に還元していくことが重要となります。

[図2]人口低密度地域において観光により求めたい効果の例(筆者作成)

*ここでは、簡便化するために自然環境的側面を掲載していませんが、自然環境への還元は地域において非常に重要であり地域の持続性には欠かせない要素です。

リソース不足が観光による効果を創出するためのハードルとなる

 しかし、実際には観光による社会的な効果と経済的な効果の両方が一度に得られるわけではありません。特に人口低密度地域では、観光に関連してくるようなサービスの集積も小さいため、経済的な効果を得るまでには、観光事業の成立に加え、関連サービスの充実等といった条件が整うことが求められてきます。そして、そうした条件をクリアしようとしても、前述のようにヒト・モノ・カネ等のリソースの不足が、ハードルとなり経済的な効果まで創出できないケースが多いと考えられます[図3]。

[図3]人口低密度地域における観光による効果創出のイメージ(筆者作成)

リソース不足への対応は対処療法でしかない、必要なのは既存資源による効果の最大化

 ここで、人口低密度地域で求められる方策として、まず不足するリソースへの対応、ということが浮かび上がるかもしれませんが、そうした策は人口低密度地域でなくても実施可能であり、むしろサービス経済社会等での方がより発展していくとも考えられます*1

 では、どのような方策が必要となるのでしょうか。
まずは、そこでしかできないことをするということ、そして既存資源から得られる効果の拡大に観光を作用させることが求められると思います。観光事業は外資を獲得する手段といわれますが、その取組の中では、地域イメージの形成や印象付け、知名度の向上等のその他の効果も期待できます。これらの観光によって得られる効果を地域の既存資源にレバレッジをかけるように作用させるということです*2

 すべて一概には言えませんが、その地域にしかないモノを見出し、それを価値化していく、そして観光によってその価値を拡大させていくということが求められるのではないでしょうか。地域の価値発見・認識、価値創造、価値拡大のプロセスともいえるかもしれません。

具体的な方策案と先行事例の紹介

 それでは、人口低密度地域においてどのような観光振興策が求められるのでしょうか。改めて考えたいと思います。その方策のひとつに、観光を用いて基盤産業の生産性を高めることがあると考えています。基盤産業は、その土地の地勢・自然環境、歴史や文化を包含するものであり、地域独自の資源として価値化していくポテンシャルを大いに持っています。そして、基盤産業の資源を観光によって用いるだけではなく、観光によって基盤産業の付加価値を高め、稼げる産業としていくことが、前述のようなサービス経済社会化する世の中においても、地域の持続性を高めていくために重要となると考えています。

 観光では、技術的な側面からの生産性の向上を生み出すことは出来ませんが、これまで価値を見出されていなかったものを価値化し、そこから利益を生み出していく仕掛けをつくることは出来ます。観光分野から見出された価値を付加価値として基盤産業の商品単価を上げていく、といったこともその仕掛けのひとつだといえます*3


 ここで、具体的な事例を簡単に挙げたいと思います。次に挙げる事例は、人口低密度地域とはいえませんが、上述のような観光を用いて地域の基盤産業の生産性を高める仕掛けづくりとして参考になります。

【事例1】兵庫県豊岡市 コウノトリと共生するまちを付加価値化

 兵庫県豊岡市は、国指定天然記念物であるコウノトリの生息地でしたが、狩猟や農法の近代化等により絶滅の危機にありました。そのようななか豊岡市では、「豊岡市環境経済戦略」(2005年3月策定,2007年改定)のもと、コウノトリをシンボルとし、経済だけではなく環境だけでもなく、環境と経済が両立する地域を目指した取組を進め、コウノトリの野生復帰に成功しています。戦略のなかでは、コウノトリツーリズムの推進も柱のひとつとして掲げられ、コウノトリの野生復帰の取組を伝えるプログラムを複数提供し、地域外からの視察や観光客の来訪を生み出すだけではなく商品単価の向上にも繋がっています(*)。

 観光では、技術的な側面からの生産性の向上を生み出すことは出来ませんが、これまで価値を見出されていなかったものを価値化し、そこから利益を生み出していく仕掛けをつくることは出来ます。観光分野から見出された価値を付加価値として基盤産業の商品単価を上げていく、といったこともその仕掛けのひとつだといえます 。

 このように、豊岡市では、コウノトリと共生するまちという独自性を地域の価値として見出し(価値発見・認識)、それをストーリーとして価値化(価値創造)、観光プログラムとして提供するとともに、お米の販売単価の向上に結び付けています(価値拡大)。ここで、観光プログラムはお米の購買を誘発するためにも有効に機能しているといえます。いくら良い商品だとしても、それを文字だけで理解する場合と、体感して理解する場合とでは大きく異なってきます。観光プログラムによって価値を直接体感・理解する機会を設けることによって、購買につながる可能性が高まっていると考えられます。

(*)Amazon.co.jpでの「特別栽培米 兵庫県但馬産こしひかり コウノトリ育むお米(無農薬)」の販売価格は19,480円+送料(2019/05/09, 筆者調べ)


【事例2】北海道美瑛町 美しい農業 統一的なストーリーで付加価値化

 また、地域の景観資源を観光活用することにより観光と産業の相乗効果を創出する可能性も言及されています*4 。北海道美瑛町では農村景観を観光パンフレットに採用し「美しい農業景観のまち」ということを印象付けています。地域の知名度向上やイメージ向上が地域産品の売上向上に効果があるということは地域ブランド等の様々な分野でも述べられていますが、実際に美瑛町の野菜の単価も平均よりも高いそうです。さらに、町のなかの農協直売所は「食のショールーム」をコンセプトに、町産の野菜の質の良さ・おいしさやその背景を伝える場となり、観光客の期待を満たし購買を促すとともに、生産者に対しては付加価値を高めて産品・商品を販売する機会を創出しているといえます。

 美瑛町では、農業景観や品質の良さを価値として見出し(価値発見・認識)、地域外の人々にそのイメージを発信(価値創造)、さらに、そうした域外の人々が持つイメージに応える場を設けることによって、商品の付加価値を高めて販売する機会が創出されています(価値拡大)。


 以上、個人的な見解を述べさせていただきました。今回のコラムでは取り上げませんでしたが、地域の振興のための観光施策を考える際には、観光の領域を超えて地域全体の政策・施策と連動させていくことが大事だと思っています。こうした視点も持ちながら、今後も観光によって地域を元気にしていく方策を追い求めていきたいと思います。

*1:例えば、シェアリング・エコノミーの考え方もリソース不足には有効な策だと考えられますが、サービス経済社会となっている地域での方が事業として成立しやすくなります。リソース不足への対応策としては有効ですが、地域の振興していく軸となる施策とはなりにくいと考えます。

*2:これは企業の経営戦略の分野での、RBV(Resourced-Based View, 1984年B・ワーナーフェルトが提唱)的なアプローチに該当するかと思います。RBVとは、外部環境や業界内でのポジショニングに基づく戦略論とは異なり、内部のリソースに着目し、そこに競争優位の源泉を求めようとするものです。また、どのリソースが競争優位の構築上有効かを分析する際の視点として、経済価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(In-imitability)、組織(Organization)の4つの視点があります(VRIOのフレームワーク, 1991年ジェイ・B・バーニーのVRIO分析より)。

*3:特に、人口低密度地域においては経営リソース不足により生産量に制限がかかってしまうため、観光による価値創造によって、単価を引き上げていくことは重要になると考えています。

*4:㈱JTB総合研究所・篠崎宏氏による言及。林美香子『農村で楽しもう』(安曇出版, 2018)

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