大きな観光、小さな観光 [コラムvol.60]

2008.12.05

研究主幹(観光政策相談室長) 岩佐吉郎
研究員コラム

 「大きな観光、小さな観光」この言葉は、玉村豊男氏が「里山ビジネス」(集英社)で使っている言葉です。「大きな観光」とは非日常の体験を求めて何百万人も観光客が訪れる大きな観光地が対象であるのに対して、「小さな観光」とは日常を想像する体験として、一方で「小さな観光」では珍しい風景や対象がなくても、そこに生き生きとした地域の生活があれば成立するとしています。
 すばらしい自然景観や世界遺産がなくても、観光とはそもそもそういった「小さな観光」が基盤となるものです。

 先日、ある県の観光課から観光振興政策について相談を受けました。「これまでさまざまな観光政策に取り組んできたが、自県の観光がどう変わったかを振り返ってみると、それほど変わっていない。入域観光客数も順調に伸びてきたとはいえず、むしろ漸減傾向にある。なにがいけなかったのか?」という相談でした。
 ほとんどの県で、観光政策の成果を計る指標として、入域観光客数を用いています。逆に言えば入域観光客数しか説明する指標がないケースが一般的です。観光客が増えたか減ったか、非常に明快な指標です。
 入域観光客数が減ると、議会や業界から陳情がだされて、観光産業が地域経済活性化に大きなウェイトを占める県では、早急の対策が求められます。
 こうしたときに対象となるのが「大きな観光」です。よりたくさんの観光客を誘致することによって、「大きな観光」を推進していこうとする取組で、誘致のためのプロモーション、キャンペーンやイベント開催です。また、多くの場合は観光業界の要請によるケースが多い。
 相談を受けた県においても、話を聞いていくうちに、これまでいろいろ取り組んできた観光振興政策の多くが、県内観光業界の要請によるもの、あるいは観光業界向けのものであることがわかってきました。
 観光振興政策は、観光業界の発展のためのものであることに何の問題はありません。しかし、観光行政が取り組む観光政策が観光業界寄りに偏ったものになることによって、多様化している旅行マーケットの志向にマッチした観光魅力を提供できているかという点で、ズレが生じてきているのではないでしょうか?
 昔ながらの温泉観光地、自然景勝地、歴史・文化資源、ターミナルとなる都市が、引き続き地域を代表する観光拠点のままで、観光客を持続的に集め続けるためには、それなりのリニューアルや革新の動きが必要です。
 そのためには、観光業界関係者だけでなく、地域の人たちの意識改革が必要です。「観光とはこういうものだ」という固定概念を取り払って、地域にあるもの(本物、良いもの、魅力的なもの、おいしいもの、優れたもの、など)を幅広く拾い集めて、新しい観光魅力をつくっていくことが大切ではないでしょうか?
 新しい魅力ですから、最初はたくさんのマーケットに受け入れられないかもしれません。また、地域の人たちにとっても、そうした魅力づくりに取り組んでも客を集められないとか、今までのやり方と違うために長続きしないとかで、結果的には中途半端な取り組みに終わってしまって、成果も出せないままのケースが多いのではないでしょうか。
 どうも、「大きい観光」から「小さい観光」へのシフトが必要な時代になってきたようです。ある県では、「量から質へ」という表現を目標に使っています。この言葉も、最初提案したときには、一部から「量も質も」だと相当の反発を受けました。  質を高めて、"ほんもの"を作っていくことで、評価されて、その評価が広まることによって、より多くの観光客が集まってくるようになります。ですから、質を追うことが量的拡大につながることになるのです。
 量的拡大ができるから量的な対応が必要になってくるのですが、どうも今の観光地ではここの部分だけを、取り上げて議論されるケースが多いようです。「かつては来てくれていた観光客をまた呼び戻したい。」そこの部分だけの議論では、結論はどうしてもイベントやキャンペーンに行き着くことになるのではないでしょうか?
 従来の観光地という視点だけでなく、地域が持つ資源、素材を幅広く見直して、地域らしい良さを小さな観光からどうつくっていくか、どう育てていくかがこれからの課題ではないでしょうか?

 

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