都市におけるMICE推進戦略の現状とは [コラムvol.240]

2015.02.10

観光文化研究部  守屋邦彦

MICE推進の活発な動き

 「MICE」、この言葉が国の観光政策の中で使われ始めたときには、「マイス」と読める人は少なかったと思います。むしろ「マウス?ねずみと観光に何の関係があるの?」と言う人もいたとかいないとか・・・。MICEとは、企業などの会議(Meeting)、企業などの行う報奨・研修旅行(Incentive)、国際機関・団体・学会などが行う会議(Convention)、展示会・見本市/イベント(Exhibition/Event)の頭文字(概念としては外国人参加者の有無を問わない)で、今では、国の経済政策や観光政策で、MICEが重要な施策としてそれぞれ位置づけられていますし、一般紙や情報番組でもMICEという言葉が耳目を集める機会もあるほどに認知されたものとなってきています。

 また、国内各都市では、MICE活性化による交流人口への期待を背景に、会議場や展示場の新設、増設、改築等を検討・推進しようする動きが活発になってきています。例えば、東京ビッグサイトやパシフィコ横浜といった国内でも有数のMICE施設が、2020年前後までに1万㎡~2万㎡を増設することを明らかにしています。

 このように、都市の活性化にとって重要度が増しているMICEですが、国内各都市の観光戦略、都市戦略でどう位置づけられているのかはあまり耳にすることがありません。そこで筆者は、道府県庁所在都市46都市(1)および政令指定都市20都市の計51都市(2)を対象に、各都市のホームページ上に掲載されている各種戦略・計画の中から、対象とする戦略・計画を一つに特定した上(3)で、MICE推進施策の内容を確認し、整理・考察を行いました。(昨年12月に日本観光研究学会全国大会にて「都市におけるMICE推進戦略に関する基礎的研究」とした発表)。以下、その結果のポイントをご紹介します。

都市におけるMICE推進施策の位置づけ

 MICEやコンベンションに関する施策が何らかの戦略・計画に位置づけられていることが確認できたのは、対象とした51都市のうち45都市(88.2%)でした(4)。MICE推進施策の位置づけとして最も多いケースは、観光戦略・計画が存在しその中でMICE施策が位置づけられているもので、これが26都市と全体の51.0%を占めました。「MICE」や「コンベンション」といった用語が名称に含まれるが戦略・計画が存在したのは6都市(11.8%)にとどまり、具体的には札幌市、横浜市、金沢市、京都市、岡山市、熊本市でした。特に札幌市や京都市は2010年に戦略が策定されていて、早い時期から力を入れて取り組んでいることが伺えます。

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MICE推進施策の目標設定

 次に、戦略・計画におけるMICE施策の記載内容が確認できた44都市(5)について、目標値や誘致ターゲットといった目標設定について整理しました。

 MICEに関する目標値が設定されているのは11都市で。この11都市の目標値を具体的にみてみると、国際会議の開催件数を目標値としている都市は7都市(札幌市、仙台市、横浜市、相模原市、名古屋市、神戸市、福岡市)と多く、その全ては政令指定都市でした。また、富山市や岐阜市、鳥取市は会議(コンベンション)全般の開催件数を目標値としています。目標値の多くが会議開催件数となっているのは、MICEという言葉が使われる以前は会議(コンベンション)分野を中心に推進施策が行われてきたことや、会議以外の分野の定量的なデータが乏しいことが影響しているものと考えられます。

 また、誘致ターゲットを具体的に示していたのは8都市(札幌市、横浜市、富山市、京都市、神戸市、岡山市、福岡市、北九州市)のみでした。札幌市、京都市、福岡市はM、I、C、Eの分野ごとにターゲットを、横浜市、富山市、神戸市、岡山市、北九州市は自らの都市が強みを発揮できる分野(医学、薬、バイオ、防災、デザイン、自然/健康関連、環境・エネルギー、サブカルチャー、グルメ等)をそれぞれ明確化し、それらに関連するMICEの誘致に取り組むこととしていました。

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MICE推進に関する具体的施策

 さらに、MICE推進に関する具体的施策についてそれぞれ整理しました。戦略・計画において「MICE(あるいはコンベンション)誘致の推進」と記されているのは31都市ですが、そのうちの半数近くの14都市は、戦略・計画においてMICEやコンベンション推進が項目立てはされているものの、特段の具体的施策に関する言及はされていませんでした。これは総合計画での位置づけのみの都市や、政令指定都市ではない県庁所在地都市に多く見られました。一方、具体的施策についての言及がある16都市では、誘致強化のための海外ネットワークづくりや、東アジアや首都圏等マーケットを明確化した誘致活動、MICE専門見本市への出展、市内研究者による学会開催地立候補へのサポート等が挙げられていました。

 次いで、具体的な施策として多くの都市で挙げられているのは「MICE拠点整備、機能強化等の検討、実施(15都市)」「開催に際しての財政面での支援(15都市)」「各種プログラム開発(アフターコンベンション等含む)(14都市)」「推進組織の強化(13都市)」「事業者、大学等との連携体制づくり(13都市)」でした。これらをみると、MICE推進施策の基本的な構成は、推進組織・体制を構築し、財政的支援やプログラム開発、施設整備によって開催地としての魅力を高めていく方向であることがわかります。

MICE推進施策の現状と課題は

 今回、各都市の観光等の戦略・計画における記載内容という限定的な情報からではありますが、国内各都市のMICE推進施策を概観してみました。コンベンション推進からMICE推進へと施策が対象とする範囲が広がったことは、これまではそれぞれの分野で実施されてきた取り組みが連携するきっかけにも繋がったと考えられます。一方で、MICEはそれぞれの分野で取り組み方が異なる部分があったり、都市によって強みを発揮できる分野が異なったりするため、MICE推進という漠然とした取り組みでは十分な効果は得られないと思われます。現状では、分野別の誘致ターゲットの設定や、自らの都市が強みを発揮できる分野を明確にしている都市は8都市にとどまっていますが、今後、他の都市でもマーケティング活動や、都市内の学術分野・産業分野等の強みの明確化を推進していくことが求められると思います。

 また、すでに述べた通り近年MICE施設整備の動きが各地で見られますが、現状の戦略・計画を見る限り、どういったMICE分野の誘致・創出を推進していくのかがはっきりしないままに、施設整備の検討が先行している都市もあると考えられます。マーケティング活動や自都市の強みの明確化の推進は、MICE拠点整備や機能強化の面でも今後ますます重要度は高まるものと考えられます。さらに、市民の理解促進は5都市が位置づけているにとどまっていますが、どんなMICEが開催されているのか、MICEがどのぐらいの効果を都市に与えているのかを市民に知らせていくことは、MICE目的での来訪者に対するおもてなし意識の醸成や、施設整備の建設的な議論の推進にもつながるものと思います。MICE推進施策の中で、誘致に繋がるような取り組みの優先度が高いことは当然ですが、市民を巻き込んだ取り組みを今後さらに進めていくことも重要と考えられます。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックまであと5年。今後ますます日本に注目が集まるようになり、MICE誘致・創出には追い風が吹いていると言えると思います。また、国際的なMICEが増加することにより、中小都市での国際会議開催の可能性だけでなく、これまで大都市で行われていた国内会議が中小都市に場所を移して開催される可能性も考えられます。こうした機会を逃さないためにも、今から戦略的な検討を進めることが大事になってきます。

(1)東京は東京都がMICEを積極的に推進しているが、都と他の政令指定都市等では施策の比較は困難であることから今回は対象から外した。

(2)政令指定都市20都市の内15都市は道府県庁所在都市と重複しているため、計51都市を対象とした。

(3)本研究の対象とする戦略・計画を一つに特定する際の考え方は、まず、「MICE」や「コンベンション」といった用語が戦略・計画名に含まれているものがあれば最優先で対象とした。そうした戦略・計画が存在しない場合には、各都市の観光戦略・計画を対象として特定した。さらに観光戦略・計画も存在しない場合には、都市成長戦略や経済戦略、総合計画等のより大きな視点の戦略・計画を対象として特定した。

(4)総合計画や観光戦略・計画にMICE施策が位置づけられていないケース(4都市)、関連する計画が策定中のため確認できないケース(2都市)が計6都市あった。

(5)金沢市は「金沢市MICE誘致戦略」が策定されていることは確認できたが、内容がHP上では確認できないため整理対象から除いた。

 

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