歩いて楽しめる観光地のあり方~宮島、富岡などの現状をもとに~ [コラムvol.238]

2015.01.16

観光文化研究部  牧野博明

 観光地内を歩きながら楽しむことができれば、その観光地の魅力を存分に堪能することができます。歩いて楽しめる観光地となるためにはどのような対応が求められるのでしょうか。ここでは、宮島(広島県廿日市市)、富岡(群馬県)及びスイスのリゾート地の実例をもとに、交通と移動空間の観点から考えてみたいと思います。

歩いて楽しめる先進的観光地-宮島

 私はここ数年、厳島神社(宮島)に初詣に行っています。ご存知のとおり、宮島は「厳島神社」として世界文化遺産に登録されており、国内からの観光客はもとより、海外における「広島」の知名度の高さも影響して、外国人観光客も多く訪れています。

 私が宮島での初詣を好む理由には、まず島や神社の美しさや荘厳さに惹かれることがあります。もう一つの理由として、神社を含め島内を歩くことの楽しみが挙げられます。本州と宮島の間にはフェリーが就航していますが、正月期間は車を乗船させないので、島内では快適な歩行空間が確保されます。参道はもちろんのこと、表参道商店街や町家通り、滝小路などの神社周辺の通りを存分に歩いて楽しむことができます。

 これが可能となる理由として、次のような宮島ならではの特性が挙げられます。一つ目は、宮島が「島」であるため、宮島に渡る前に一般自動車等の入島を規制できるという点です。二つ目は、主な観光スポットが徒歩圏内及び背後にある弥山(みせん)に集中しているため、自動車での移動をあまり必要としない点です。島内にある宿泊施設では、宿泊客に対して対岸(本州側)の駐車場利用を推奨しています(フェリーによる自動車運搬費を考慮すると、この方が割安になるケースが多いようです)。他の観光地と単純に比較することはできませんが、宮島は「歩いて楽しめる観光地」の好例と言えます。

 他方、歩いて楽しめるような雰囲気づくりを行うにはそれなりの努力が必要となります。特に、宮島のように住民の生活圏に観光客が訪れる場合、楽しさを演出するための仕組みづくりに加え、プライバシーへの配慮も必要となります。例えば、前者については案内標識の整備や統一感のある装飾の施し等が、後者については生活空間への覆い(暖簾、目隠しフェンスなど)の設置等がそれぞれ求められることとなります。宮島においては、表参道商店街の一つ奥に入った町屋通りなどで、このような工夫が随所になされています。

 従って、「歩いて楽しめる観光地」を実現するためには、自動車等の利用制限と楽しめる空間づくりの両方が必要となります。

雪をかぶった厳島神社

賑わう表参道商店街(清盛通り)

町家通りの様子(提灯による装飾)

施された覆い(町家通り)

今後期待される、歩いて楽しめる観光地-富岡

 次に、立地やまちの性格・特性が宮島とは異なる富岡を取り上げてみます。両者に共通するのは、世界遺産を有する地域であるということです。最近仕事で訪れる機会があり、今後の期待も込めてあえて富岡について考えてみたいと思います。

 富岡市及びその周辺は養蚕や製糸業で栄えた地域であり、その象徴である富岡製糸場は2014年6月に世界遺産に登録されました。元々宮島のような観光地ではなかった富岡では、これまで観光の視点に立ったまちづくりが行われてきませんでした。そのような状況のなか、2007年の世界遺産暫定リストへの記載以降、来訪者は増える傾向にあり、登録年である2014年の来訪者数は100万人を超える見込みです。

 増加する観光客への対応策として、市内中心部に駐車場が整備されていきました。市営の駐車場は富岡製糸場から少し離れた場所に設置されたため、その駐車場利用者は公共交通利用者と同じく富岡製糸場まで歩いていくことになります。一方で、一部の民間の駐車場が富岡製糸場近辺に存在することに加え、通過目的の自動車等もあり、時間帯によっては富岡製糸場周辺の道路における車の往来が激しく、歩行者にとって危険な状態となります。これだと歩いて楽しむ観光に支障をきたす恐れがあるため、歩行者スペースを確保したり自動車利用を抑制したりするような対策(一方通行化、指定時間帯の一般自動車の通行禁止などの措置)の検討・実施が求められます。

 併せて、歩いて楽しめる空間づくりも必要です。市中心部の一部では、既存の建物(店舗など)や通りの由来等に関する説明書きが既に設置されており、歩いて楽しむことができるような対応策が具体的に進められています。今後もこのような活動が推進されることにより、観光客の滞在時間の増大やリピーターの増加、そして市全体での活性化につながっていくことが期待されます。

富岡製糸場前正門につながる城町通り

通りに関する説明書き

海外のリゾート地における歩いて楽しめる空間づくり-スイス・サースフェー

 海外でも、カーフリー(自家用車進入禁止)となっているリゾート地が多くあります。その一例として、スイスの山岳リゾートを紹介します。

 ツェルマットにほど近いリゾート地・サースフェーでは、決められた地域内への車の乗り入れが禁止されています。村の入口に駐車場を整備しており、宿泊客はそこから備え付けのリヤカーで荷物を運びます。宿泊施設の近くに車を駐められないため手間暇はかかりますが、その代わりとして子供たちが安心して自由に遊べる安全な環境が確保されており、来訪者にも支持されています。この考え方は、歩いて楽しめる観光につながるものと思われます。

リヤカーを利用する観光客
(撮影:小林英俊氏)

ケーブル(ロープウェー)からの風景
(撮影:小林英俊氏)

歩いて楽しめる観光地づくりのために

 国内の他の観光地においても、自動車等の進入を制限することにより「歩いて楽しめる観光地」を目指す動きは多くみられますが、実現に至っている例は限られているように思われます。これまでにも国土交通省の「社会実験」としてパーク&ライド等の試みがなされた地域もありますが、次の段階に進むことの難しさに直面しているようです。その主な理由として、以下の点が挙げられます。

 (1)観光スポットのすぐ近くに自動車を駐めることができなければ、自動車で訪れる観光客の利便性が失われ、苦情が出たり二度と来訪しなくなる恐れがある

 (2)観光地の中心部に車で入れなくなれば、そこに立地する事業者(宿泊施設、飲食店、土産品店等の観光業者や小売店など)の売上に響く恐れがある

 (3)駐車場から観光スポットまでの移動空間に魅力がないため、歩いても楽しくない

 これらの点についての考え方もしくは対応策をまとめると、次のようになります。

 (1)については、自動車利用の観光客の利便性だけでなく、公共交通利用の観光客や地元住民の利便性も考慮する必要があります。そのためには、自動車利用の観光客に対しても理解を促すことが重要です。(2)については、個々の店舗の売上はもちろん重要ですが、視野を広げて地域全体での活性化・消費活動の推進も考慮する必要があると思います。富岡の例では、自動車通行量の増加により地元住民が怖くて商店街に寄りつかなくなったということも聞かれます。そこで、車輌の進入を制限することで個々の店舗の売上が本当に減少するのか、検証する必要があると思います。(3)については、人的にも資金的にも大変な労力を要することになりますが、移動空間の現状を改めて検証することにより、潜在する魅力を発見したり、新たな魅力を創造したりするような仕掛けづくりを施し、来訪者の導線を引き直しすることも検討に値すると思われます。

 自動車等の通行制限は地域にとって非常に勇気のいる決断であり、新たな魅力づくりを行うことも容易ではありませんが、安全で快適な観光地を目指すためにも、改めて観光地の交通・移動空間のあり方及びそれに基づく観光地づくりのあり方を考えてみてはいかがでしょうか。

 

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