自然風景地におけるモノのデザイン [コラムvol.447]

2021.06.09

観光地域研究部 環境計画室 研究員 安原有紗

 突然ですが、山や川、海などに出かけると、道沿いのベンチ、ホテルやインフォメーションセンターなどの建築物、資源の解説板や注意標識などをよく見かけます。これらは、初めから自然界に存在するものではなく、誰かが、どこかのタイミングで、何らかの目的のもと(多くの場合、人々の利用に資するように)設置したモノ(人工構造物)です。

 自然風景地に人工物を設置する時、どのようなデザインを施し、どの地点に配置するかは来訪者の体験の質を左右する重要な要素です。もし、雄大な山岳景観の手前に、全面ピンクの建築物が存在すれば、自然を楽しみに来た利用者は違和感を覚え、体験の質が下がることが想像されます。

 このことを前提として、コロナ禍前の2019年8月下旬から9月初頭にかけて旅したノルウェーの自然風景地で出会ったモノのデザインをご紹介し、いち旅行者として好ましく感じられた点を述べたいと思います。

ノルウェーで見たデザインと受けた印象

①トレイル上には統一されたデザインの道標があり、登山の連続性が演出されている

 ノルウェーは、国土の90%が標高1,000~2,000mの山地から成り、フィヨルドを中心としていくつものトレッキングコースが設定されています。筆者が訪れたコースでは、登山口から山頂にかけて登山道全体を通して統一されたデザインの道標が設置されていました。これにより、登山という一連の体験の連続性が視覚的にも感じられるとともに、辿った道が間違っていないことが確認でき安心感も得られました。

②文字情報はシンプルかつ要所のみ最小限に留められている

 ①で紹介した登山口の写真と下の滝の写真を見ると、文字を含む標識が少ないことに気づきます。国内で訪れた登山口では、そのエリア全体図だけでなく、そこに存在する資源に関する説明板などが複数設置されている場合がありましたが、その光景と比べると、登山口に立った時の印象としては簡素に感じました。しかし、登山口からアクセスできるコース名と方角、エリアマップにより必要な情報はおさえられ迷いなく進むことができ、かつ登山口から少し奥に進んだ地点に資源に関する小さな説明板があり、少しずつ順を追ってその場所の情報を得ることができました。また、安全管理を要する箇所には落下防止柵以外に注意喚起メッセージは見あたりません。代わりに、鉄柵と金網という構造物は強固で、落下防止と安全が保障されていました。

 登山道や高所など、利用者の安全管理を要する場所で管理者が不特定多数の利用者の行動を管理する際、文字情報で明示する方法と、構造物で暗示的に(利用者に気づかせず)誘導する方法があります。どちらが正しいという優劣は言えませんが、例えば登山口のような活動のスタート地点の場合、最初から網羅的に情報を提示するのではなく、見せる情報と見せない情報を選別することで、「この先に進むと何があるのだろう」というような好奇心を誘発することができ、より豊かな体験を提供できる可能性があります。

③シンプルだがデザイン性が感じられる建物、ベンチ

 下の写真は、ノルウェーの自然風景地で見た観光案内所とベンチです。観光案内所は独創的なアーチ状をしていましたが、眺望景観としては周囲に溶け込んでいました。ベンチはその場所ごとに独特のデザインで、利用者のたたずみ方も多様です。情報提供施設、休憩施設として機能しつつ、見た目のデザインとしても利用者を楽しませる工夫が感じられました。

④自然景観になじませる外観

 こちらは、ナショナルパークセンターと山麓の土産物店の写真です。屋根の緑化、彩度を落とした深緑の屋根の塗装により、いずれも背後の山と手前の建築物との景観的な調和が図られているようでした。特に緑化については、国内では都市部のビルでの屋上緑化が見られますが、自然風景地ではあまり見かけたことがなく新鮮に感じられました。

国内で見たデザイン

 一方で、国内に目を向けると、次のような例が見られました。

  • 登山口に色彩、形状、大きさの異なる標識が複数設置されている。提供される情報の内容も、地名、エリアに関する説明、注意喚起(安全、自然保護)や利用者数カウンターに関する説明と、設置主体により多岐にわたる。
  • 侵入防止柵の脇に自然保護を訴える文字主体の標識が設置されている。
  • 異なる観光地を訪れても類似した木のベンチがあり、「座って休憩をする」ための施設という基本的な役割を満たすための構造物でありデザイン上の工夫は少ない。
  • 屋根は茶色、側面は白色で塗装され、一見すると景観配慮が考えられているようだが、背後の山の風景からは浮いている。外壁の目立つ位置に建物名が大きく記されている。

 これらは全てノルウェーと国内の筆者が訪れた地域で見た限られた事例にすぎませんが、両者のデザインの違いがうかがえました。今回は、自然風景地に設置されたモノのデザイン、すなわち目に見えるものを取り上げましたが、どのような場所にどのようなデザインのモノを設置するかには、その土地の管理者、設計者など様々な関係者の思想が反映されると考えられ(※1)、他国との比較により我が国の自然風景地の計画管理思想についても垣間見ることができそうです。

おわりに:利用者の視点を取り入れたデザイン

 日本における代表的な自然風景地である国立公園では、近年、国立公園満喫プロジェクトのもと、自然保護優先から利用促進へと大きく舵が切られることとなりました。その中で、入口標識や案内板の更新や新設、多言語化、休憩施設の建て替えが進められ、新しく、美しいモノが増えています。

 しかし、物体が綺麗に、新しく生まれ変わることが、自然風景の魅力が高まることに直結するわけではありません。実際の利用者が、自然の景色とそこに置かれたモノを見てどのように感じるか、デザインによって高揚感を高められているか、逆にモノが自然の魅力を損ねていないかなど、その場所の魅力が高まったのかについては、利用者の目線で今後検証される必要があるのではないでしょうか。

注釈

※1 堀繁:建築物規制にみる国立公園の計画管理思想,造園雑誌54(5),1991

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