2016年の年初にあたり [コラムvol.284]

2016.01.04

理事・観光文化研究部長 寺崎竜雄

 あけましておめでとうございます。

 平素より当財団活動にご高配いただき、ありがとうございます。

 当財団にとって今年の大きなイベントは、事務所の移転です。研究部門、管理部門と、昨年の9月末に一時閉館した「旅の図書館」が一体となった事務所を、初秋を目処に南青山でスタートさせる予定です。

 研究部門と図書館の一体的な運営は私どもの念願でした。新社屋では、研究部門のアウトプットや、観光研究に関連する各種データや資料の公開範囲を拡大します。これによって蔵書数を大幅に増やします。また、ギャラリーの設置や、関係の皆さまとのコミュニケーションを深めるためのプラザ機能の強化、さらに150名規模のシンポジウム開催が可能なライブラリーホールや、利便性の高い小会議室なども設置します。

 南青山を拠点に、当財団が目指す「実践的な学術機関」に向け、皆さまとの協働による「創発的進化」を遂げていきます。

 さて、観光を取り巻く環境は、急速に変化しています。メディアは頻繁に観光関連の話題を取り上げるようになり、爆買いなどの報道からは経済のエンジン役としての期待が伝わってきます。訪日外国人が日本の伝統文化に触れる様子は、観光による異文化交流、相互理解の効果を印象深く伝えています。観光研究を生業としている自分としては、観光経済が活性化することは望むところであり、社会が観光に関心を寄せることもまた喜ばしいことに違いありません。

 このような話題のほとんどは、訪日外国人客の増大に関することです。昨年11月までの訪日外国人客数は過去最高の1,796万人に達し、同月までの出国日本人数1,487万人を上回りました。1990年代の前半、日本人の海外旅行者数に比べてあまりに少ない訪日客数の実態を、当時の日本の貿易黒字に対する諸外国からの批判を和らげる好材料として論じていた頃が、信じられない状況です。

 国を挙げた観光立国への取組はいっそう加速し、来年度の観光庁予算案は平成27年度当初予算からほぼ倍増となる200億円超を見込むといいます。外国人客の地方分散化という課題はあるものの、地方創生のカギとしても期待されています。

 予算の使い道として目につくのは、空港や駅などでのWi-Fiや外国語案内板の設置、和式トイレの洋式への改修といった施設整備、他には滞在プログラムの具体化といった観光メニューの拡充、そしてプロモーションの強化です。いずれも訪日外国人客数の増大に直接結びつく、即効性が期待できる施策として極めて適切です。

 さらに願わくば、観光地の魅力向上にも注目して欲しいものです。この点で、地域の魅力の発掘、生活文化の観光資源化ということがよく言われ、それはそれで推進すべきことです。むしろ今気にかけなければいけないのは、特A級、A級(当財団観光資源評価による)というわが国を代表するレベルの観光資源の魅力が、海外からの来訪者に、そして国内旅行者にも伝わるように活用されているかどうかだと考えます。

 誘客力の根源となる観光資源を観光対象として活用するために、その周囲に何らかの整備を施します。道路のとりつけや、展望所の設置が代表例でしょう。そして、観光対象としての利便性を高め、訪問客をあてにした経済活動を行うために、飲食店や土産店、宿泊施設などが建ち並び、それらが面となって展開することによって観光地となります。果たして、各観光資源をとりまく諸整備は、観光資源の魅力を充分に伝えるようになされているでしょうか。観光資源へのアプローチは、来訪者にワクワク感をもたらしているでしょうか。観光地の諸施設の見栄え、それらが発する音や臭いは、観光資源の魅力の妨げとはなっていないでしょうか。近年では、経営破綻に陥った宿泊施設が廃屋のごとく景観を損ねている様を目にすることが増えました。これらの再生や撤去は容易でないことは理解できますが、何らかの手だてはないのでしょうか。

 わが国には、優れた観光資源が数多く立地します。観光対象として、それらのひとつひとつとの向きあわせ方や対峙のさせ方をあらためて調査し、その資源が本来もっている「観光経済価値」の発揮状況と課題を把握することが大切だと考えます。そして、ケースごとに課題対応の手だてを考えなければなりません。ソフトによる対応策以上に、ハード面での磨き上げが重要でしょう。財源問題にも個別に向き合わなければなりません。このような作業は手間と時間がかかり、プロモーションなどと比べると即効性は薄いかもしれませんが、やがて効いてくる良薬には違いありません。

 さて、わが国の特A級とA級観光資源を写真とコメント(日本語と英語併記)で紹介した当財団監修の『美しき日本 旅の風光』(https://www.jtb.or.jp/publication-symposium/new-beautiful-japan)が再版を重ねています。都内の書店では、平積みでご案内しているようです。写真集としての表現ですが、国内外の多くの方に日本の素晴らしさを支持、理解いただいていることがわかります。

 今年は、各地に立地する日本古来の旅の風光、観光資源の素晴らしさによりいっそう目を向けて、それを核とした観光地の磨き上げに注目していきたいと思います。

 本年もかわらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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