2018年を迎えるにあたり [コラムvol.360]

 明けましておめでとうございます。

 平素より当財団業務にご高配いただきありがとうございます。
 本年もかわらぬご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

 さて、年末に自宅で経済紙をめくっていたところ国際観光旅客税の記事が目に留まりました。論旨は既知でしたが、年が改まろうとする時でもあり、いよいよ独自財源を確保して、観光振興は次のフェーズに向かうという強いメッセージを勝手に想い描いたところです。

 1990年代より観光は経済波及効果の観点から裾野の広い産業であると認識されており、2003年には観光立国宣言のもとで経済活性化のエンジン役としての期待が高まりました。昨今の地方創生では観光産業は雇用の場として着目され、訪日外国人客の急増を伝えるニュースとともに、観光は日常会話のネタとしても語られるようになりました。

 各産業の経済規模(注1)をみると、観光(22.4兆円)は、建設(58.4兆円)、自動車(46兆円)、電気機械(31.5兆円)に次ぐ国内産出額を誇ります。また、日本を訪れた外国人の国内消費は国際収支では輸出に相当しますが、2017年度には4兆円超と見込まれている訪日外国人旅行消費額は、化学製品の7兆円に続く規模に相当します。そして政策目標である2020年の8兆円が達成されれば、自動車の11兆円に次ぐ国内で第2番目の輸出品になるそうです。
 観光はいまや我が国経済の支柱の一つであり、その商品群を提供する観光産業は重要な役割を担っています。

 ところで観光産業というと運輸業や宿泊業、旅行業などを想起しがちですが、私はかねてからガイド業に関心をもち、その動向を研究してきました(注2)。ガイドというとバスガイドや通訳ガイド、あるいはボランティアガイドをイメージしがちですが、ここで話したいのは専門の知識や技能をもとにして観光客を有料で案内する職業ガイドについてです。人によってはインタープリター、インストラクター、案内人などと呼ぶこともあるようです。エコツアーや自然体験ツアーの領域では知られるようになってきましたが、馴染みの薄い業態であり、産業としての認知は進んでいないと感じています。

 しかし、ガイドツアーの楽しさは着実に市場に浸透してきており、ガイド業従事者は増大しています。例えば、NHKの人気番組ブラタモリに登場する学者や学芸員とともに地域を巡ってみたいと感じる人は多いのではないでしょうか。この番組が多くの視聴者を魅了するのは、俳優の魅力的なふるまいだけではなく、当地を案内するその道の専門家たちの技能と個性豊かなキャラクターにも拠るのだと思います。

今後、日本の観光においてガイド業はますます重要になると考えます。道案内や通訳、簡易な解説対象の紹介にとどまらない極めて奥深い専門知識と、参加者に印象深く伝える高度な技術、地域の素晴らしさを知ってほしいという真心とそれを表現するホスピタリティ。これら商品価値への理解が定着するでしょう。

 一方でこのようなガイド業には免許や届出は必要なく、参入障壁が低く廃業も容易なため、十分なトレーニングを積まずに安易な気持ちで開業するケースが聞かれます。そのため能力不足のガイドが引き起こす様々なトラブルが散見されるようです。せめて、どこで活動するガイドが何人いるかぐらいは把握すべき時期にきたのではないでしょうか。

 ガイド管理の類を私たちはガイド制度と呼んでいます。職業として取り組む自然ガイドが150人とも200人ともいわれる屋久島では、1990年代からガイドが主体となってガイド制度のあり方を議論してきました。ここにきてようやく屋久島エコツーリズム推進協議会による登録ガイドと認定ガイド、さらに屋久島町による屋久島公認ガイドの3階建ての制度が構築されました(注3)。竹富町でも観光案内人条例の制定に向けた動きがあるようです。他の複数の地域でも観光協会や地域の特定協議会などを主体としたガイド制度が見られるようになりました。

 このようなガイド制度は地域の特性を考慮して地域単位に策定すべきで、日本全体を一律に縛るものであってはならないと思います。一方で、ガイドの登録や認定という概念や基準が制度ごとに大きく異なれば、利用者目線では混乱を招くでしょう。正統性が不十分な制度がうまれるかもしれませんし、制度そのものが信用に足るのかどうかの判断も困難です。私は、各地域で策定しようとするガイド制度に対し、国がある程度の基準を提示し、それに合致した制度を国が認証するという枠組みを提案したいと思います。国がガイドを直接規定して登録や認定を判断するのではなく、各地のガイド制度を規定するという枠組みです。そしてガイド制度のポイントは、ガイド個人を対象とする前にガイド事業者(個人経営も含む)を対象とすること、規制(認定)と推奨(登録)を使い分けること、資源管理の観点からローカルルール(利用行為を制限誘導する決まりごと)との連携を可能にするものであること、です。

 これによって、各地で活躍するガイド業が一つの産業として広く認知されることを望んでいます。ガイド業ならではの商品として、例えば、駅や空港からワゴン車に観光客を乗せてこれまでの観光ルートには無いような場所を解説してまわるツアーが可能になれば、各地で課題となっている2次交通の選択肢にもなります。そして何よりもガイド業が子供たちにとって格好の良い、あこがれの仕事になってほしいと思います。ただし、海外では大学院卒のガイドが多いことも彼らに伝えねばなりません。

 年頭に当たり、更なる観光振興への期待とともに、持続可能な観光を意識した小提案を書かせていただきました。本年もよろしくお願いいたします。

注1:観光庁「観光の現状等について(平成29年9月15日)」次世代の観光立国実現に向けた観光財源のあり方検討会の資料1、http://www.mlit.go.jp/common/001202104.pdf(2018年1月4日閲覧)
注2:例えば、寺崎竜雄「ガイド・インストラクター事業」『観光学全集第6巻-観光産業論』204頁-219頁、原書房
注3:屋久島町「屋久島公認ガイド」http://www.yakushima-eco.com/log/what-is-kounin-guide/(2018年1月4日閲覧)