2020年 観光経済の展望 [コラムvol.412]

2020.01.06

理事・観光経済研究部長 主席研究員 塩谷英生

 2019年の旅行市場には様々な出来事があったが、年間を均して見れば好調な1年として括ることができるだろう。そして迎えた2020年の旅行市場だが、逆風となる要素も少なくない。本稿では、筆者個人の見解と断った上で、2020年の旅行市場と観光経済の展望を述べたい。

訪日市場の展望

不透明ながらも「結果」として堅調か

 2012年以降に大きな伸びが続き、我が国の観光産業を牽引してきた訪日市場は、日韓関係の悪化によって、8月以降の訪日外客数はマイナス基調で推移している。韓国人客減少の穴を中国人客の増加が埋める展開が続いており、結果として旅行消費単価は上昇し、消費額は増勢を維持してきた。

 米中摩擦による景気減速と人民元安にもかかわらず、訪日中国人客が19年以降も二桁増を続けてきた背景には、東アジアにおける国際政治情勢を受けた振替需要の存在がある。中国の国際収支統計(国家外貨管理局作成)から海外旅行消費額(旅行支払額・US$ベース)をみると、18年の前年比は4.6%伸びたが、19年に入って1-3月期-9.8%、4-6月期-9.3%とマイナスに転じており、本来であれば訪日旅行も停滞する局面にあった。

 実際には、本来、韓国、台湾、あるいは香港へ向かうはずの中国人旅行者が、二国間関係の悪化から旅行先を日本に振り替える効果がここ数年の間に連続的に発生している。こうした振替効果は日本観光の実力とは無関係ながらも、香港問題が顕在化した8月頃までは前年比伸び率の中に含まれるだろう。その後は、経済の停滞もあって中国人客数の伸び率は縮小に向かうものと思われる。

 台湾や東南アジア諸国の経済状況は、中国から米国に向かっていた輸出の振替需要の効果もあって堅調とみられ、引き続き訪日客数は順調に推移すると想定する。韓国は経済悪化の影響があるものの、日本旅行不買運動が沈静化することで、幾分回復に向かうだろう。欧米豪は、リピーター比率の低いまだ若い市場でもあり、経済面の不安はあるが好調を維持することが期待される。

 総じて、訪日市場の地合は堅調と言え、人数ベースは5%~10%の伸びを確保し、消費単価もオリンピックの効果もあって微増程度になるのではないかというのが個人的見解である。但し、中国の経済状況が大幅な元安につながる場合には、このシナリオを書き換える必要があるだろう。

安定局面では経済効果漏出の再点検を

 訪日市場の堅調を予想するとは言え、仔細にみると短期の特殊要因に支えられる部分が大きい。従って今後は数を追うよりも、安定的にリピートしてくれる確かなファン層を重視し、受地での満足度を高めながら消費単価向上や地域の経済効果につなげる施策を指向することが重要になるだろう。

 宿泊、交通、体験や物販などの様々な観光産業においては、予約・手配、決済、商業マージン、物流、原材料、広告費、使用料、情報提供料、配当、給与、租税などあらゆるルートで経済効果が国外に漏出(leakage)している。特に、外資系のOTAやプラットフォームビジネス等を通じた国外への経済波及効果の漏出は、影響力の大きさと漏出構造の不透明さからも課題がある。こうした事業が新たな観光需要を生んでいる間はプラスの経済効果が上回るが、市場が停滞する局面では必ずしもそうではない。ようやく、我が国でもデジタルプラットフォームへの規制に動き出したところだが、観光分野でも再点検が必要ではないだろうか。

国内旅行市場の展望

内需拡大へのインパクト示した令和改元

 令和改元による大型連休がもたらした経済効果は大変な規模だった。国内旅行市場は決定版と言える統計に欠けるのだが、観光庁の「旅行・観光消費動向調査」「宿泊旅行統計」、総務省「家計調査」のどれをみても、5月を中心に春から夏にかけての旅行需要は好調に推移した。例えば、旅行・観光消費動向調査による19年5月の観光・レクリエーション目的の宿泊旅行の実施率は14.0%で前年同月の10.8%を3.2%上回り、消費額は1.23兆円と前年同月の0.92兆円より約3千億円も増えている。

 インバウンド市場が拡大してきたとはいえ、その消費額は18年で4.5兆円であり、国内宿泊旅行の消費額15.8兆円の3割程度である。あまり議論されないが、1泊当たりの消費額は日本人の方が高く、さらに言えば経済効果の国外漏出も日本人客の方がずっと少ない。

 今後、インバウンド消費額を3千億円伸ばすのは1年かけてやっとというような推移になるだろう。令和改元は、国内旅行の持つ内需拡大へのインパクトと可能性を再認識させる出来事でもあった。

消費増税効果をどう打ち消すか

 旅行中に次の旅行の計画を立てる人は少なくない。令和改元をきっかけに若年層などで国内旅行が習慣化し、活性化する効果も期待されたのだが、残念ながら消費増税がこの流れに冷水をかけたとみられる。

 「家計調査」によれば、19年10月の「旅行(※1)」支出はマイナス3.5%と8か月ぶりに減少に転じた(二人以上の世帯)。好調だった海外旅行者数の伸び率も10月に1.0%へ減速、11月には-1.9%と今年初めてマイナスに転じている。
 14年4月の消費増税のケースでは、家計調査にみる増税後1年間(15年3月まで)の「旅行」支出は4.7%減であった。旅行・観光消費動向調査では、宿泊旅行消費額は13年の15.4兆円から14年の13.9兆円へと9.9%減少した(暦年値)。
 14年の税率上昇分は3%、19年は2%であり、増税対策として導入されたポイント還元制度は20年6月まで維持され、ごく一部だが宿泊施設や飲食店、小売店も対象としている。しかし、交通費など旅行コスト全体は確実に上昇しており、おそらく6月を待たずに、国内旅行は本格的に停滞する可能性が高い。

 国内旅行を活性化していく上では、増税効果を打ち消すための対策が急がれる。

 宿泊料金や航空運賃については、実はEUの多くの国で付加価値税の軽減税率の対象となっている。2019年1月時点で、宿泊税は28ヵ国中26ヵ国(93%)、国内航空は27ヵ国中17ヵ国(63%)が標準税率より低い税率を適用している(資料:”VAT rates applied in the Member States of the European Union – situation at 1st January 2019” EU)。

 特に宿泊費は地域の観光消費額の中で最も大きなシェアを占めることが多く、国内旅行振興だけでなく、国際間競争の観点からも効果が見込めることから、我が国でも軽減税率の導入が検討されても良いと考える。

 国内旅行の約半数を占める自動車旅行については、高速道路料金の低減が即効性のある振興策である。ETC割引の拡大や、周遊割引商品として人気が高まりつつある「ドラ割」を地域振興のためのツールとして活かしていく施策も有望と思われる。

※1:鉄道運賃、バス代、航空運賃、宿泊料、国内パック旅行費、外国パック旅行費、旅行用かばんを合計した再掲項目。一部に観光以外の交通費と海外支出が含まれる。

この研究員のその他のコラム

最新研究員コラム

観光研究コラム一覧