古民家活用への取り組みから考える農山漁村の再生に必要なもの [コラムvol.26]

2008.04.02

研究調査部 大隅一志

<はじめに>

 過疎化が進み、さらに平成の広域市町村合併によって「周辺化」が加速しつつある農山漁村地域の再生という課題に対し、観光・交流の面からどのように取り組めば良いのか。古民家再生への取り組み例から、この問題を考えてみたいと思います。

<「待ったなし」の空き家問題~期待される観光・交流への活用>

 農山漁村地域において、過疎化とともに増加する空き家対策は、今後の集落(コミュニティ)の存続にも直結する大きな課題です。 (財)都市農山漁村交流活性化機構(まちむら機構)が平成13年に行った全国調査によると、全国で約14万棟もの茅葺き民家が残っていると推定され、うち約2割は空き家状態だといいます。このような古民家の放置は、治安・防災上の問題に加え、地域固有の集落景観や魅力の喪失にもつながるだけに、その保全と活用は地域の再生を図る上で無視できない問題となっています。
 こうしたことから、古民家のもつ価値を保全していくために、観光交流面で活かそうとする取り組みも各地で始められています。一方で、農山漁村地域が、「古民家」や「集落景観」を観光交流に活用していこうとする際には、観光と本来の住民生活を営む地域コミュニティとの共存や、地理的条件をはじめ様々なハンディを背負った中での事業(ビジネス)性など、取り組みを持続させていく上での課題も少なくありません。
 こうした中、新潟県柏崎市の「門出かやぶきの里」の茅葺き古民家を活用した都市住民との交流事業への取り組みは、同様の課題を抱える多くの地域にとって示唆に富むものといえます。

<門出かやぶきの里」20数年の取り組みが教えるもの>

 「門出かやぶきの里」は、新潟県柏崎市旧高柳町、日本海から車で40分ほど山間に入った門出(かどいで)という小さな集落にある2棟の茅葺き古民家を活用した宿泊施設です。もともとの古民家をできるだけそのままの姿で活用しており、部屋にはテレビもなく、決して快適な宿泊施設とはいえません(但しトイレは水洗です)が、首都圏からの都市住民をはじめ4~12月の営業で1,300~2,300人/年ほどの宿泊者があり、リピーターも少なくありません。
 運営は集落約130戸の半数が参加する「門出ふるさと村組合」。まさに地域ぐるみの運営です。年間800~1,300万円程度の売り上げといいますから、ビジネスとして儲かっているわけではありませんが、赤字にもならず、古民家の修復をスタートした昭和50年代後半年から20数年にわたり運営を続け、古民家の保全と活用を両立させてきています。
 「門出かやぶきの里」は何故これほど長く事業を持続できたのでしょうか?その要因には次のような点をあげることができます。

 ●茅葺き民家が集落から喪失することに危機感をもった地元の有志が、まず手作りで古民家の
   移築・修復に取り組んだこと。すなわち事業の出発点に、行政主導でなく、農山村文化の象
   徴である茅葺き民家を守ろうとする住民の問題意識と地域の仲間が無償で助け合える「結い」
   の関係があったこと。
 ●住民の気持ちを一つにまとめることができる小林康夫氏(「門出ふるさと村組合」組合長)
   という地域リーダーがいたこと。
 ●利用(売り上げ)のないときに経費(人件費)も発生しない運営の仕組みとしていること。
 ●農山村本来の生活を都市の人に体験してもらうことにサービスの価値をおき、お盆や正月は
   お客をとらないなど、自分たちの生活を犠牲にしないやり方を基本としていること。
 ●運営スタッフの世代交代も進み、これまでに130戸の集落で延べ30人もの地区のご婦人が運営
   への関わりを通して、生き甲斐ややる気を見出してきたこと。

<農山漁村の再生に本当に必要なものとは?>

 日本の古民家建築研究の第一人者である筑波大学の安藤邦廣教授の言葉を借りれば、「古民家は個人の住宅ではなく、元々地域の共同作業で作られた地域の人々が集う場所」であり、「古民家の再生とは、建物の再生ではなく、農村風景の象徴、地域の宝として、地域の暮らし、付き合い、人を結び合わせることの再生」にこそ意味があるのだそうです。茅葺き民家を地域の共有財として交流事業に活用している「門出かやぶきの里」の取り組みは、まさにこのことを見事に体現したものといえます。
 広域市町村合併等によって行政力が落ちてきているといわれる状況の中で、農山漁村の今後の再生を考えるとき、そのカギを握るものは何でしょう?その一つが、農山漁村が本来もっている「結い」の力ではないかと思います。「門出かやぶきの里」のように、地域に結いの力がまだ残されているところはやる気次第で自力でも頑張れる余地があります。一方、そうした力を失った地域では、外の力を借りてでもそれを再構築することが必要でしょう。近年注目されている「新たな公」とは、まさにそうした地域内外の様々な人・組織の連携・協働によって、新たな結いの力を再構築していくことといえます。
 「観光・交流を手段として用いながら、地域の新たな結いの力を再構築する」。農山漁村の再生に取り組もうとするとき、強く認識すべき視点ではないでしょうか。

「門出かやぶきの里」の位置
地図
古民家の保全と交流事業への活用を続ける「門出かやぶきの里」
おやけ棟 いいもち棟
住民有志の手作りで修復した宿泊施設「おやけ棟」 高台に建つもう一つの宿泊施設「いいもち棟」
もちつき ごっそう
夕食につきたてのお餅をふるまう。
特別なイベントはやらない
都会の人には日常味わえない地元の
普段の料理を「ごっそう」として出す

 

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