これからのスタンダード『宿泊旅行統計』を読む [コラムvol.11]

2007.12.05

観光文化事業部 塩谷英生

■今回のテーマ

 今日は観光統計の話をします。国土交通省が今年度からスタートした「宿泊旅行統計」をどう活用するかについてです。まだスタートして間もない新しい統計ですが、欧州等では宿泊統計は最も基礎的な観光統計として既に定着しています。(この統計の詳細をお知りになりたい方は、国土交通省のホームページを参照してください。)

■1万軒へのアンケートから

 「宿泊旅行統計」は、従業員数10人以上の宿泊事業者10,406軒へのアンケート調査から作成されます(回収数は7,507軒)。予備調査の段階で小規模施設における回収率が芳しくなかったことから、調査コストとの兼ね合いもあり、小規模施設を対象から除いたとのことです。それでも、事業所・企業統計等を参考に試算すると、延べ宿泊者数の8割程度を捕捉しているものと推測されます(筆者試算)。
 また、別荘、会員制施設、会社の保養所、短期アパート、帰省等での実家・知人宅宿泊、車中泊といった宿泊形態については、調査の対象外になる点に留意が必要です。例えば長野県は、ペンション等の小規模施設が多かったり、別荘の数が国内第2位であるといった特徴があり(総務省「住宅・土地統計調査」)、我々が抱いている印象よりも宿泊数が低めに出ているようです。そうした対象範囲の限定による統計結果への影響については、今後一定の検証作業が必要かと思います。
 調査項目は、客室数・収容人数、宿泊施設タイプ、従業者数、宿泊目的(観光/出張・業務の2区分)を聞いた上で、延べ宿泊者数を日本人については居住地別、外国人については国籍別で、表形式で記入してもらう、という構成になっています。
 ところで、外国人にはクルーが含まれ得ることから(JNTOの訪日外客数ではクルーは除かれています)、千葉や大阪への宿泊者数が高めに感じられます。また、日本に定住していても国籍が外国にあれば実態は国内旅行でも外国人旅行者として取り扱われることも留意点です。ついでに申し上げますと、国籍別の外国人数は表を埋める形になっていて、主要12ヶ国の記入欄しか用意されていませんから、それ以外の国については統計には反映されにくい点も将来的に課題になるかもしれません。
 さて、国交省のホームページ上で公表されている集計表を眺めるだけでも相当の情報量があります。延べ宿泊者数の都道府県ランキング、外国人宿泊者数の都道府県ランキングなどが第2表から読み取れますし、都道府県別稼働率は第3表にあります。第4表では、観光型と業務型の施設別で延べ宿泊者数が集計されています。さらに、宿泊旅行のOD表も、外国人は第5表、日本人は参考第1表から作成可能です。(但し従業員100人以上の施設のみ。業務性宿泊施設では4府県が非公表。居住地不詳の宿泊者も4-6月期で7.8%)
 例えば、07年1-3月期のオーストラリア人の宿泊先は、1位東京、2位北海道、3位千葉県、4位京都府、5位長野県となっていて、ニセコや白馬村へのスキー客を連想させます。

■統計データから得られる情報

 しかし興味のある方は、この統計に若干の数式による加工を施すことで、もっと多くの指標データを得ることができるでしょう。
 単純な例では、地域区分の統合により、北海道と東北地方を直接比較することができますし、都道府県を統合して首都圏(南関東)や近畿圏(京阪兵)を作成して、宿泊需要の大都市圏依存度を算出することもできます。
 また、この統計は月別統計ですので、暦年、年度、半期、四半期別に集計表を作成して地域間比較することも可能になったので、都道府県毎の繁閑の現状等を把握することができます。但し、従業員数については3月末で固定されていますので、季節別の比較ができない点は課題でしょう。
 それから、08年度になると時系列比較が可能になります。泊数の伸び率を計算できることはもちろん、発地シェアの変化のグラフや、インバウンドの寄与度計算などが可能となってきます。
 もちろん、他の統計データと連携することで新たな分析を行うことができます。例えば、都道府県別の人口統計を使えば、各県の人口あたりの延べ宿泊者数を算出することができます。数年前に「旅行者動向」を用いて、都道府県別観光人口(定住人口に換算したもの)を算出したことがありますが、こうした指標が一定の精度で作成できることになるでしょう。また、良いイメージの県ほど、宿泊数の伸びが高い、といった4象限のポジショニングマップにも利用できます。
 さらに、他の観光関連データ、例えば観光消費単価や平均泊数と組み合わせることで、観光客数や観光消費額、さらに観光の経済波及効果やTSA(Tourism Satellite Account)といった観光経済指標を作成していくこともできます。この点については、筆者も参加している国交省の観光統計整備の分科会の席でも議題になってくるものと思います。
 「こんな表も作れる」という例で、2つの図を4-6月期のデータで作ってみました。図1は地域ブロック別の宿泊者の発地構成の図です(従業員100以上の施設)。南関東(首都圏と言い換えても良いですが)、近畿、九州、東海でインバウンド比率が高いことがわかる他、南関東発の宿泊者への依存度が、北関東、甲信越など近隣地域で高い傾向がある一方で、遠距離ながら航空路線が充実している沖縄が約4割と高い依存度であることがわかります。域内発比率は、北海道や東北、九州で4割を超えています。

図1.地域ブロック別の宿泊者発地構成(07年4-6月期)
(従業員100人以上の宿泊施設)
統計データ
国土交通省「宿泊旅行統計」より塩谷作成

 図2は、横軸に延べ宿泊者数のうち、「業務目的客が50%以上を占める宿泊施設」への宿泊者比率をとり、縦軸に外国人宿泊者数比率をとった散布図です。横軸の数値が大きい都道府県ほど業務性の宿泊客が多い傾向があると考えると、業務目的の多い都道府県グループの中での外国人客比率の強弱、あるいは観光目的の多い都道府県グループの中でのそれが、おおまかに把握できます。

統計データ2

■市町村データ公表で実用性の向上を

 大きな期待として、都道府県レベルでの集計を一歩進めて、市町村レベルでの集計表を利用することができないか、という点があります。これにより、政策立案やマーケティングにおける実用性の向上が期待されます。もちろん、市町村内に主要な宿泊施設数が僅かしかないケースなどについては非公表とするなどのルールの検討が必要です。当面主要観光地だけでも良いのではないでしょうか。
 また、定員稼働率のような組合せの指標で、現在表になっていないもので計算可能なものとして、従業員あたり延べ宿泊者数、業務性宿泊施設に限定したOD表、客室当たり収容人数、宿泊施設タイプ別施設数といったものもあります。特に、“宿泊施設タイプ”については、現在統計に利用されていませんが、カテゴリーを見直してうまく活用して欲しいと思います。温泉の有無など、回答者負担にならない範囲で追加して欲しいところです。
 「宿泊旅行統計」のような基礎統計は、観光産業にとっての一種のインフラであり、できるだけ詳細な情報を政策担当者や研究者が引き出しやすい形でデータベースを整備して欲しいものです。それは、中長期的なナレッジの蓄積と共有につながり、民間事業者の設備投資やマーケティング、あるいは観光地経営における政策立案・評価の適正化へとつながっていくことが期待されるからです。

 

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