定住人口+観光客数=滞在人口の大きさを探る [コラムvol.320]

2016.10.11

観光政策研究部 研究員 西川亮

1.観光地の「滞在人口」を捉える

 観光客の与える地域への経済的な影響の大きさから、「交流人口の拡大が定住人口●●人に相当する」という捉え方がなされるように、一般的に観光客は交流人口と呼ばれ、定住人口と対比して捉えられます。しかし、当然ながら観光客の与える地域への影響は経済的な面に止まりません。市街地の利用にもまた影響を与えるのです。

 昼間人口、夜間人口という考え方があります。昼間人口とは、常住人口に流入人口を加えて流出人口を引いた人口のことで、東京都心部などは夜間人口よりも昼間人口の方が多くなりますが、一般的に、昼間人口に買い物客や観光客などは考慮されていません。

 しかし、観光地では観光客の与える影響が大きいと考えられます。特に、宿泊観光客は「一時的に住んでいる(滞在している)」状態ですので、住民と同じように捉えても良いのではないでしょうか。

 今回のコラムでは観光客と定住(常住)人口(本コラムでは単に「人口」と書く)を合計した「滞在人口」を具体的に試算し、その影響を考察してみます。

 例に挙げるのは、オーストラリア人を始めとする外国人観光客や外資による開発の増加などが見られ、地価上昇率が日本一の町として知られる北海道倶知安町です。倶知安町の人口は15,000人程で、2015年度の観光客数は日帰り客が97万人、宿泊が66万人泊でした※1。中でも中心市街地から20分ほどの距離にあるひらふ地区(山田・樺山)はスキーリゾートとして近年特に発展しています。今回はひらふ地区を対象にします。

ニセコひらふ地区のスキー場から羊蹄山を望む

ニセコひらふ地区のスキー場から羊蹄山を望む

2.1日当たりの観光客数と人口

 倶知安町の公開資料では、年間の観光客数(宿泊・日帰り別)と月別観光客数(宿泊・日帰り区別なし)が公開されています。公開されているデータは倶知安町全体のものですが、ニセコひらふ地区には倶知安町の宿泊施設の9割が集中しているため、観光客も9割がニセコひらふ地区に滞在していると仮定します。また、毎月、宿泊客と日帰り客の比率が一定だと仮定して月別の延べ宿泊者数と日帰り観光客数を算出します。そして、各月の日数で除することで、1日あたりの平均宿泊者数を算出することができます※2。

 すると、図1の通りになりました。観光客数は月によって大きく変化していることが分かります。スキーシーズンの1月~2月が最も多く、8月にもピークがあります。

 宿泊客と日帰り客を合計した1日あたりの観光客数は最大で8,500人(1月)に上り、最も少ない11月(270人)の30倍以上になります。

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 一方、ニセコひらふ地区に居住する人口については住民基本台帳を元に字名別・月別に集計したデータが公開されています。ニセコひらふ地区から域外に勤務する人もいると思われますが、ここではそれが殆どないものと仮定して流出人口については無視することとします。

 それをグラフ化すると図2の通りで、春から秋にかけては人口が1,000人程度で推移しているのに対し、1月や2月には1,600人にまで増加しています。つまり、人口も冬にかけて人口が増加するのが分かります。

 一般的な市街地では、人口に季節変動はありません。しかし、ニセコひらふ地区では人口にも季節変動があります。なぜでしょうか。

 それは、冬期に高まるインバウンドの需要に対応するため、一時的に雇用される外国人従業員が倶知安町に居住するからです。

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3.1日当たりの観光客数と人口の関係

 これまで集めたデータから観光客数と人口との関係を見ていきます。月別の人口と観光客数、観光客数を人口で除した「人口に対する観光客比率」を見ると次の通りです。

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 このグラフから幾つか興味深い事実を見つけることができます。

●1日当たりの観光客数11月以外の11ヶ月で人口を上回る
●最も過密になるのは1月で、人口と観光客数を合わせた地域の滞在人口は10,000人に上る
●人口に対する観光客の比率は夏の方が多く、定住人口の約7倍にも及ぶ

4.観光地には観光客数を加味した空間形成が必要では?

 これまで見てきたとおり、倶知安町ひらふ地区では、人口よりも観光客の方が多いことが分かりました。それを踏まえると、ひらふ地区では、駐車場やオープンスペース、公園などは人口のみならず観光客を含めた最大10,000人の滞在が可能な空間作りが求められていると言えます。見方を変えれば、どの程度の観光客の受け入れであれば、住民も観光客も快適に過ごせる空間なのかを検討する必要があるということでもあります。

 観光客の行動範囲が比較的集中するような温泉街やスキーリゾートなどでは、観光客数のインパクトをこのように推計し、それを元にした空間作りの考え方が必要ではないでしょうか。

 なお、今回の試算は色々な仮定条件の元、おおざっぱな数値を算出したものであり、より深く分析するためには平日と休日やチェックイン時間とチェックアウト時間、日帰り観光客の滞在時間などを考慮したモデルの構築が必要です。それについては今後の課題としたいと思います。

※1 倶知安町観光客入込み状況(2016年度版)
http://www.town.kutchan.hokkaido.jp/town_administration/matidukuri/tourism_documents/

※2 平日と休日とで宿泊者数は異なりますが、今回はそれを考慮していません。また、宿泊観光客数は1泊あたりの平均値を出すのが適切ですが、今回は簡略化するため、1泊あたりの平均値を1日あたりとして読み替えます。

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