都道府県行政における観光振興の位置づけの変化 [コラムvol.150]

2011.09.22

研究主幹(観光政策相談室長) 岩佐吉郎
研究員コラム

観光振興条例を制定する都道府県の増加

 地域活性化に、観光振興が有効な手段と言われて久しく、過疎化と高齢化が進む地方において、観光・交流人口を増やそうと観光振興に取り組んできた地方自治体は少なくありません。
 2002年に外国人旅行者の訪日を促進するために官民で取り組もうとするグローバル観光戦略が策定されて、翌年4月よりビジットジャパンキャンペーン(VJC)がスタートをしました。その後、2006年に観光立国推進基本法が成立、2007年に観光立国推進基本計画、2008年10月に観光庁が発足してと、この10年間の国の観光振興に対する体制強化は、地方自治体の観光行政に大きな変化をもたらしてきています。
 都道府県における観光振興の取組体制の変化として、観光振興条例を制定する都道府県が2006年以降のこの5年間で3から20箇所に急激に増加したことがあげられます。
 観光振興条例の条文を見てみると、一般的に、基本理念と、関連主体の責務・役割、基本的な観光振興の方向性、観光振興計画の策定、推進母体組織の設置といった内容で構成されていて、最初の基本理念では、「観光振興により県民が誇りと愛着を持ち、また観光振興は、豊かで活力に満ちた地域社会の形成及び潤いのある県民生活の実現のために重要であるという認識のもとに、観光立県の実現のための施策は講じられなければならない」と謳われています。また、関連主体には、観光業界や観光関連団体だけでなく、それ以外の業界、県民にも広く参画を位置づけて、行政もより積極的に関与していくように役割分担が位置づけられています。
 観光振興が経済活性化の手段としてだけでなく、県民の誇りと愛着を醸成し、活力ある地域社会を形成するとして、全県的な取組で推進することが明示されたことは、地域の観光振興の取組体制としては画期的な変化といえるでしょう。

  都道府県における観光振興条例の制定状況   ※表をクリックすると拡大します
都道府県における観光振興条例の制定状況
資料:観光庁HP及び各都道府県HPを元に作成

地域における観光ビジネスチャンスの広がり

 時代をさかのぼってみると、我が国の高度経済成長とともに、観光旅行需要は団体旅行が中心に右肩上がりで発展してきました。この頃の観光振興は、団体旅行が訪れる観光地、や観光施設、休憩施設など、極めて限定された観光業界間だけの問題でした。観光地における一般住民をはじめ地域全体の大方の見方は、観光産業は旅館や土産物店、バス・タクシー会社だけの問題で、「観光は自分たちには直接関係のない」といった意識が強く、観光振興を地域全体で取り組む状況ではありませんでした。
 しかし、その後観光旅行需要が増大して、大衆化、成熟化を迎えた今日、旅行スタイルも大きく変化しました。かつての団体旅行中心の需要構造が、個人旅行中心にとってかわり、旅行スタイルも周遊観光と慰安旅行から、滞在型旅行、体験型旅行(エコツーリズムなど)、それ以外に多様なニューツーリズム等々、多様なスタイルの旅行が行われるようになると、地域における観光振興の位置づけにも大きな変化が起き始めました。
 観光産業は地域の一部の人たちの産業でしかすぎなかったものが、個人旅行の増加により観光客が自由に旅行するようになり、地域の様々なサービス業に観光のビジネスチャンスが増えました。体験プログラムなど新しいニーズに対応した新しいサービスビジネスも生まれ、さらに、従来の観光地でなかった農山漁村や地方都市へも観光客が訪れ、地域内の各地で様々な新しい観光産業がスタートするようになりました。

高まる「観光行政は重要」の認識

 昨年、当財団自主研究で行った各都道府県の観光振興の取組に関するアンケート調査によると、多くの都道府県において観光行政が重要であるという認識が高まっています。
 観光行政の担当組織も、この10年間に東京都や山梨県、長野県、福井県など7都県で、ある部局の一つの「課」から、独立した「部局」に格上げされました。

観光行政の重要度  この10年間での観光行政の重要度
出典:「都道府県の観光振興政策に関する調査報告書」
  (財)日本交通公社 自主研究 平成23年3月

全国的には、「商工、経済振興」関連の部局の一つの課として観光行政に取り組む体制が多い中で、「文化+観光」と文化政策と一体的に取り組もうとする静岡県、鳥取県や、今年4月から新たに「文化+観光+スポーツ」が一体となった体制(文化観光スポーツ部)でスタートした沖縄県の例もあります。
 観光行政の取組体制で注目されるのは、観光と地域づくりを一体的に進め、魅力ある観光・地域づくりを推進しようという動きです。富山県では知事政策局とともに「観光・地域振興局」が県行政の中心的組織として設立されています。また、岐阜県や奈良県、山口県、大分県、長崎県では、地域振興、総合企画関連の部局の中に観光課が設置されています。このように観光振興を地域づくりの一つとして捉える動きは、観光振興条例の制定と同様に、観光業界だけで観光振興を図ろうとするのでなく、地域全体が一体となって観光振興に取り組もうとする新しい体制として評価されます。

都道府県観光行政の課題

 観光振興を全県あげて取り組もうとする都道府県が増加してきている中で、今後は以下のような課題が指摘されます。
 ・県民、市町村、観光事業者及び観光関係団体の協力、協働体制を具体的にどう組んでいくか?
 ・観光振興を、経済振興という側面だけでなく、総合行政で取り組もうという総合政策をどう実践し
   ていくか?
 ・誘客PRや商品化など集客成果の即効性を求める支援事業が多い中で、中長期のまちづくりの
   視点で持続的な観光地づくりをどう推進していくか?
 ・観光振興を実践していく事業の一貫性、継続性をもたせるために、観光振興計画をどう活用する
   か?毎年の事業予算をどう編成していくか?
 ・各事業施策の成果評価をどのように実践、活用して、中長期の観光振興を担保するか?
 ・戦略検討のための的確な実態把握と、適正な目標設定
 多くの都道府県で、全県を上げた観光振興への取り組みが広がってきています。それにあわせて行政の組織体制も変わりつつあります。観光行政には、こうした様々な動きに対応して、全体をコーディネートし、これからの観光振興に導くリーダーシップが求められているのではないでしょうか。そのためにも、上記の課題をどう克服して、これまでの誘客宣伝、受入整備中心の観光行政から転換していくかが期待されます。

 

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