域内調達率の向上について改めて考えてみる [コラムvol.301]

経済波及効果を向上させるということ

 当財団が実施している観光の経済効果研究や観光文化225号にあるように、「人口減少に直面する地域が経済的な自立を保つため、域外から訪れる観光客からの収入を“てこ”にして域内の経済循環を高めること」が求められるようになっています。観光収入の構成要素は、「観光客数」「消費単価」「域内調達率」であり、それらの要素をバランス良く高めることが大切です。

 今回のコラムでは、このうち「域内調達率」にフォーカスを充ててみます。そして話を分かりやすくするため、食材に限定し、域内調達率の考え方や域内調達率を上げるにあたっての考え方を整理してみます。

流通経路を踏まえた「域内調達率」の考え方

 域内調達率とは、域内で必要なもの(今回の場合は食材)のうち、域内から調達可能な割合です。

 分かりやすくするため、具体的な例を取って説明してみます。A市で生産されたニンジンが8本あったとします。それらは卸売業者等を経由して、一部は市内、一部は市外に運ばれます。ここでは仮に3本がA市外、5本がA市内で消費されたとします。一方、A市内にはA市外で生産されたニンジンも運ばれてきます。A市外で生産されたニンジン1本がA市内で消費されたとします※。このとき、A市生産量に対するA市内消費量の比率は5本/8本=62.5%です。また、A市内消費量に対するA市内生産量は5本/6本=83.3%です。前者は域内生産量に対する域内産消費量の比率、後者は域内消費量に対する域内産消費量の比率であり、分子は同じです。これらの数値の意味するところは一見似ていますが、全く異なります。

 域内調達率の考え方は、「域内で必要なもの(今回の場合は食材)のうち、域内から調達可能な割合」ですので、後者の数値に相当します。前者は域内循環率と呼ぶのが相応しいでしょう。地産地消の考えはこの域内循環に基づくものですが、生産量が一定の場合、域内循環を高めると言うことは、域外消費を減らすこととなります。しかし、域外でその食材を高く評価してもらうことは重要なことです。従って、域外消費を減らすということは良い選択肢とは言えません。

 域内調達率の向上に必要な考え方は、「いかに地元産のものを地元で流通させるか(地産地消)」ではなく、「地元で必要な量をいかに地元で賄うか」「地元で賄える種類の食材をいかに地元で使うか」という、地消地産だということが分かります。

              域内調達率と域内循環率

nishikawa-column-301-1

流通経路を踏まえた「域内調達率」の考え方

 さて、上の図で分かるように、域内「調達」には流通が伴います。食材は生産地(田畑や海など)から観光事業者(ホテルや飲食店等)まで流通するわけです。「地元で賄えるものをいかに地元で使うか」を把握するためには、流通経路を辿ることが必要です。しかし、流通経路を辿ることは容易なことではありません。生産者から消費地点に届くまでには、いくつもの卸売業者を経由することが一般的です。つまり、域内調達の決定要因には「生産者」「観光事業者」に加えて「卸売業者」という、3者の存在を認識しなければなりません。

 当然、3者はそれぞれの利益最大化になるように考えます。生産者であれば、「より良い」卸売業者、卸売業者であれば「より良い」卸売先、観光事業者であれば「より良い」卸売業者との取引をすることでしょう。「より良い」とは、値段だけではなく、質の良さや食材の信頼度なども関係します。以前とある調査を実施したところ、観光事業者の食材の仕入れ方法として最も重視するのは「安定して供給できること」という結果が得られました。観光事業者は毎日必要な量を確保するため、複数の方法によって食材を仕入れています。

 域内調達率を上げようとすると、生産者・卸売業者・観光事業者それぞれの思惑と実態を踏まえなければなりません。なぜ域内で消費できないのか?どこに課題があるのか?といった点にまで掘り下げて現状を分析しなければ、域内調達率を上げるための施策を考えることは難しいのです。

 そして、食材と言っても野菜や水産物、乳製品などによって全く異なる事情があります。更に野菜でもニンジンとトマトとでは流通が異なるでしょうし、水産物でもマグロとタイでは全く異なります。食材の種類によって域内調達率を上げるための施策は変わるのです。

食材を絞って着実に域内調達を図る

 域内調達率に必要な考え方は、「地元で賄える種類の食材をいかに地元で使うか」でした。それを踏まえると、それぞれの地域で、「この食材だけは域内調達したい」と思うような食材を決め、それの仕入れ構造や域内消費を促進するにあたっての課題を深く考察することが大切です。「域内調達率を上げる」という目標から、「この食材は地域内から調達して観光客に提供する」という地域の主体性をより明確にした意気込みと戦略性への転換が必要です。

最後に

 域内調達率の問題は、生産者の利益最大化、卸売業者の利益最大化、観光事業者の利益最大化、観光客の利益最大化という複雑な関数を解くことが必要なのです。ここでいう「利益」とは経済的な指標だけではありません。地域への愛着やその食材に対する誇り、観光客の満足度など多数の変数があります。それらをどのように折り合いを付けて合意を得ていくのか。この問題については更に研究を進めていきたいところです。

 ※一般的な経済波及効果調査では、量ではなく金額を用いますが、ここでは分かりやすくするために量にしています。