“オンパク”から学もの [コラムvol.62]

<はじめに>

 別府のまちづくり運動からはじまった「オンパク」は、現在、全国各地の温泉地・観光地へと広がりをみせています。着地型観光の一つのスタイルとしても注目されるオンパクについて、その意味を考えてみたいと思います。

<「オンパク」とは?>

 ご存じの方も多いと思いますが、「オンパク」とは、そもそも2001年に別府ではじまった「ハットウ・オンパク(別府八湯温泉泊覧会)」に端を発する温泉地・観光地の期間限定イベントのこと。プログラムが地域の人たちの手づくりであるところが、従来のイベント会社丸投げのものと違う点です。日本一の湧出量を誇る大温泉地・別府が、B級グルメや路地裏など、それまで観光資源とは到底思えなかったものに光を当てて、100種類以上ものプログラムを生み出してきたこの取り組みは、当初から、観光とまちづくりに関わる私たちの目にも新鮮に映りました。その取り組みも、毎年試行錯誤を繰り返し、今年で早10年になります。

<各地に広がる「オンパク」>

 別府で生まれ培われてきたオンパクの運営ノウハウと予約受付システムは、現在パッケージ化され、NPO法人ハットウ・オンパクの指導のもと、他の温泉地・観光地でもそのノウハウを活用した同様のまちづくりイベントの取り組みへと広がりを見せています。

 別府に次いで、2006年には函館の湯の川温泉で、その後も長野県鹿数湯温泉、福島県いわき湯本温泉などへと広がり、これまでに温泉地でないところも含め「オンパクジャパン・プロジェクト」は全国で10箇所に上っています。

    【オンパクジャパン・プロジェクト】

  • 北海道函館市「はこだて湯の川オンパク」
  • 福島県いわき市「いわきフラオンパク」
  • 長野県鹿数湯温泉「里山のパッセジャータ」
  • 長野県諏訪湖周辺「諏訪温泉泊覧会ズーラ」
  • 石川県七尾市「能登の旨味フェスタ」
  • 岡山県総社市「みちくさ小道」
  • 大分県別府市「別府八湯温泉泊覧会」
  • 福岡県久留米市「久留米ほとめき街旅博」
  • 長崎県長崎市「さるく」
  • 宮崎県都城市 盆地博覧会「ボンパク」

<”フラ”のノリで頑張る「いわきフラオンパク」 >

 最近、12月上旬からはじまった福島県いわき湯本温泉の「いわきフラオンパク」を見る(体験する)機会を得ました。今年の1月に第1回が開催され、早くも2回目の開催ですが、運良くプログラム体験と合わせて、事務局の運営の舞台裏を垣間見ることもできました。

 「いわきフラオンパク」は、その名が示すとおり、映画でブームになった「フラガール」の生まれたまちとして、「温泉・探鉱・フラ」をキーワードにした、いわきを知るためのイベントです。”フラ”をテーマにした「フラ記念日」、「童謡フラ」や「『フラガール』ロケ地ツアー」、湯の町を楽しむ「湯本ふれあい散歩」、「湯本の若だんなの温泉講座」、はたまた千円札を片手に夜の町を楽しむ「英世ちゃん晩酌セットでハシゴ酒」等々、いわき湯本温泉ならではユニークな77ものプログラムが展開されています(ネーミングのユニークさは、まさに”フラ”のノリです)。

 その中で、フラオンパクの代表的プログラムである「湯本ふれあい散歩」に参加しました。駅前からかつて炭坑で栄えた繁華街や神社、温泉街などをぐるっとひと巡り。当時の雰囲気がずいぶんと失われているのは残念ですが、かつての湯坪跡や演芸場(芝居小屋)など、一部にその面影を見ることができました。それ以上に、何と言っても良かったのは、案内をしてくれた「ゆもと街なかガイド」(駅前のコンビニの元気な女性店長さんで実行委員会メンバーのおひとり)の熱心な案内。「湯本をもっと知ってもらいたい」という熱い気持ちが伝わってきました。

 早くも2回目の開催となる「いわきフラオンパク」ですが、必ずしも順風満帆とはいえないようです。

 1つは集客の問題(まだはじまったばかりで、PRに時間がかけられなかったとのこと)。2つ目は事務局体制の問題(実行委員会メンバーの大半が観光と直接関わりのない町の人たちであり、専従のスタッフがいない)。3つ目は、市民のオンパクへの理解不足(市民にあまり知られておらず、盛り上がりが今一歩)。こうした悩みを抱えながら、とにかくやる気のあるメンバーの熱意で日々奮闘している姿が印象的でした。

 今回のフラオンパクは、湯本だけでなく「海のまち」小名浜なども巻き込んで、2009年2月下旬まで続けられます。ぜひ皆さんも足を運んでみてください。

<「オンパク」から学ぶもの >

 「オンパク」は決して集客装置として大きな効果を上げるものではありません。オンパクから学ぶべき点は何でしょうか。

1.「地域の暮らしや生き様をクローズアップする」ということ
 旅行者のニーズは多様化し、「どこに行ったか」ということ以上に、「何をしたか」「どのような経験をしたか」が求められています。言い換えれば、地域の生き様が反映されていなければ、訪れた人を感動させられないということです。オンパクは、そのような視点で地域を見つめ直し、潜在的な資源を掘り起こし、そこに”付加価値をつけて商品にする”ヒントやノウハウを蓄積する良い機会であるといえます。
2.試行錯誤の中から定番商品を生み出す「実験場」
 前述したようにオンパクは、集客の結果を求めるものではありません。参加者への試行的プログラムの提供とモニタリングを繰り返し、期間限定イベントからいつでも提供できる代表的な「定番プログラム」を見つけ、磨き上げていくこと。オンパクは、いわばその実験場としての意味をもっています。
3.「人を巻き込み、引き継いでいく」こと
 観光やまちづくりは、たとえ優れたリーダーがいても、一人でできることには限りがあり、また継続も出来ません。新たな人材を発掘し巻き込みながら、次代に継続していくための人づくりや育成の場として、オンパクの果たす役割は大きいといえます。

 別府から熱意とノウハウを移植された各地のオンパクが、それぞれの地域にどう根づき、地域を変えていくか、今後もウォッチを続けていきたいと思います。

「写真」をみながら、ガイドと湯本のまちなかの「ふれあい散歩」



ふれあい散歩
路地裏にひっそり残るかつての芝居小屋「三函座」



三函座
「太極拳で健康づくり」(温泉街の広場で)



太極拳