スイスの観光実情をベースに我が国の観光のあり方を考える [コラムvol.322]

2016.10.24

観光政策研究部 主任研究員 牧野博明

 業務の関係で、2016年9月22日(木)~29日(木)、スイス・サンモリッツを訪問しました。私自身、乗り継ぎを除けばスイスを訪れるのは今回が初めてということもあり、興味津々で現地入りしました。

 イメージに違わず、スイスの自然は迫力があり、チューリヒ市内からサンモリッツへ移動する電車(世界遺産となっているレーティッシュ鉄道)からは、雄大な自然とその中に点在する町や村の建物の美しさを至るところで目にすることができました。そして山岳リゾート地・スキーリゾート地であるサンモリッツでは、3,000mを超す連峰、斜面に広がるスキー場、麓にある街並みとサンモリッツ湖などの景色や雰囲気を満喫することができました。

 日本では、バブル経済の崩壊以降、「リゾート」が話題となることが激減したように思われます。しかし、近年のインバウンドの急激な増加もあり、改めて「リゾート」を考える時機が来たのではないかと思われます。今回のサンモリッツへの訪問は、スイスと日本のリゾート地の違いについて考えるためのよい機会となりました。ここでは、特に興味をひかれた点について紹介しながら、我が国の観光のあり方を考えてみたいと思います。

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写真1 夏の終わりのサンモリッツ(ドルフ地区)

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写真2 世界遺産・レーティッシュ鉄道

サンモリッツの特徴①-スキー目的以外の人も楽しめるスキー場を目指している

 まずは何と言っても、3,000m級の山々を気軽に楽しむことができる点が特徴的です。サンモリッツの場合、冬はもちろん夏においても、麓から山頂まで、ケーブルカーやロープウェイを乗り継いで登ることができます。コルバッチスキー場のロープウェイの山頂駅の標高は3,303mで、富士山よりも少し低いだけのレベルであり、高所に伴う息苦しさを感じました。麓の標高が約1,800mであるため、標高差は実に1,500mに及びます。これだけの高低差があると、スキーもダイナミックに楽しめることでしょう。また、夏場であれば、マウンテンバイク、ハイキングやウォーキングなども楽しめます。

 なお、ロープウェイやレストランなどは通常17時頃までの営業となりますが、リクエストがあれば別料金にて夜の利用が可能です。料金は高めですが、富裕層を中心に利用されているとのことです。この点については、我が国のスキーリゾートも参考になると思います。

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写真3 コルバッチスキー場のロープウェイ山頂駅
(展望台・レストラン併設)

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写真4 山頂駅近くのスロープ
      

サンモリッツの特徴②-夏場の誘客に力を入れている

 サンモリッツは冷泉が湧出し、また爽やかな気候の高原地であることから、元々は夏場の保養・休養の場でした。その後、スキーやクロスカントリーなどのウィンタースポーツが盛んなリゾート地として発展したため、今では観光客は冬に多く訪れ、夏の観光客数は伸び悩むようになりました。

 そこで、サンモリッツでは、夏の誘客にも力を入れるようになりました。主な対応策の一つが、フロートレイル(ゲレンデをマウンテンバイク等で走るスポーツ)の整備です。夏場はかつてハイキング客が中心でしたが、フロートレイルの整備により、マウンテンバイクの愛好家も集うようになりました。もう一点として、お得なパスカード(エンガディンカード)を導入したことが挙げられます。サンモリッツ内の参画ホテル(ホテルだけでなく、一部のコンドミニアムなども含まれます)に2泊以上する来訪者が対象で、このカードを提示することで全てのリフト(ロープウェイ、ケーブルカーなどを含む)やバスが無料で乗り放題となります(冬は割引料金が適用されます)。普通に購入すると、1日券で約8,000円かかるため、かなりお得といえます。これらの取り組みも、我が国のスキーリゾートにおいて参考になるように思われます。

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写真5 マウンテンバイクライダー

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写真6 コルヴィリアスキー場のロープウェイ

サンモリッツの特徴③-VIPが多く訪れ、消費している

 サンモリッツは「高級リゾート」としてのイメージが強く、実際に多くの富裕層がサンモリッツを訪れています。なかには、冬場に自家用ジェット機で最寄りのエンガディン空港に降り立ち、五つ星ホテルに1週間以上滞在する人もいるとのことです。サンモリッツには、世界の最高級ホテルが加盟する「ザ・リーディングホテルズ・オブ・ザ・ワールド(LHW)」に加盟するホテルが4軒あり、全室スイートのホテルも存在します。他方、夏場は周遊目的の若者や団体客もいて、平均滞在期間は短めとなっています。このように、夏と冬の格差が生じています(夏の宿泊料金は、概ね冬の1/3程度とのことです)。

 富裕層はスキー以外にも、スパを楽しみ、また買い物にも熱を入れます。街中には有名高級ブランド店が軒を並べており、冬場であってもヒールを履いた女性で溢れているとのことです。我が国のスキーリゾートの場合、このような光景は想像できませんが、付加価値の高いスポーツ用品や地元産品など特徴のある商品を扱う店舗が集積するようになれば、消費促進(売り上げ向上)につながるように思われます。

 一方で、「高級」のイメージが災いとなっている部分もあります。「料金が高い」という先入観により、自国民からも敬遠される傾向がみられるとのことです。そうなると、客層の偏りが一層激しくなることが危惧され、閑散期対応や客層多様化の妨げにつながってしまい、観光活性化に支障をきたしてしまいます。また、「高級」イメージは店舗側にも影響を及ぼしており、「新たに出店したくても賃料が高くて手が出せない」という状況になっているようで、地域全体としてこれ以上の売り上げ向上は見込みにくいとのことです。この点からも、イメージ戦略や価格戦略のあり方の重要性が認識され、我が国のリゾート地や観光地においても参考にすべきと思います。

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写真7 ドルフ地区の高級ブランド街

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写真8 五つ星ホテル・パレスホテル

自然との調和を重視

 スイスのリゾート地の取り組みは、日本の山岳・スキーリゾート地において参考になる点が多くみられます。スイスにおいて、様々な方策の考え方の根底にあるのは、観光活性化のために何でも自由に行っているわけではなく、自然を尊重し、住民の声を活かしながら活性化・まちづくりに努めているということです。スイスの連邦政府や州政府も、開発に対しては厳しい目を向けており、例えば新たにスキー場開発を行ったり、索道の新設や更新等を行ったりする場合は、開発箇所の緑を他の場所に移して活用さなければなりません。また、住民が「No」と判断すれば、開発を進めることができません(個人の住宅の建設・建て替え等の場合も同様です)。サンモリッツのルールは、周辺のリゾート地に比べると厳格でない(外資規制などもない)とのことですが、それでも何か新しいことに取り組むためのハードルは高いと言えます。一方で、ハードルが高すぎると何もできなくなってしまうということになり、リゾート地や観光地の発展につながりにくくなってしまいます。厳しい制約条件がある中で、サンモリッツは観光客対応に力を入れていますが、「保護と開発のジレンマ」はここでも感じられました。我が国においても、今後のリゾートのあり方を考えるうえで、ベースとなる考え方を当事者間でしっかり共有しつつも、地域活性化・観光活性化につながるような柔軟な取り組み方(政策・制度面を含め)を検討していく必要があるように思います。

                                  

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