日本の果物を外国人観光客のお土産に -食料品の免税に思うこと  [コラムvol.233]

 今年10月1日より外国人旅行者向け消費税免税制度が改正されました。当財団でも、制度改正が与える影響について考察するレポートを公開しています(→こちら

 今回のコラムでは、特に新たに免税対象品目となった食料品の可能性と課題について述べたいと思います。

食料品が免税対象品目となった意義

 今回の免税制度改正によって消耗品についても一定の条件を満たすことで免税の対象になりました。前述のレポートでも述べられている通り、今回の免税制度改正を通じて「地方の免税店増加が促進され、地方を訪問して各地が誇る名産品の数々を買う楽しみを外国人旅行者に知ってもらう」ことが期待されます。これまでは免税対象品が都市部のデパートや家電量販店などで販売されていた商品に限られていましたが、今回の改正によって食品類や飲料類が免税対象に加わりました。したがって、例えば地方の特産品である野菜や果物といったものについても、観光地の土産店などが免税店であれば、免税の対象になります。

 私はここ数年、訪日外国人の動向に関する調査に携わってきており、その関係で全国の空港で外国人観光客の買い物の様子を見てきました。とある地方空港で、イチゴや桃などのパックを箱単位で購入して持ち帰る外国人観光客の様子を幾度となく目にしてきました。地方には、都市部に出回っていない新鮮な果物などが数多くあり、日本人旅行者にとっても魅力の1つです。今回の免税制度改正が追い風となって、果物などが地方の魅力の1つとして海外からの観光客にも訴求されることが期待されます。

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購入しても自国に持って帰れない?

 一方、海外に果物などを持ち出す場合、持ち込み先の国や地域の法律に従う必要があります。異国の果物などを持ちこむことを制限して、自国の生態系が崩れることを防いだり病気や有害な害虫の自国での蔓延を防いだりするためです。農林水産省植物防疫所の資料をもとに、訪日外国人の多い国・地域に持ちだすことのできる・できない主な果物などを整理すると、次の表の通りになります(品目は、植物防疫所が発表している早見表(携帯品編)のうち、果物とコメ(精米)、緑茶(製茶)を抜粋しました。)

表 諸外国に植物等を輸出する場合の検疫条件(※1)

表 諸外国に植物等を輸出する場合の検疫条件
※1 平成26年9月3日現在の情報に基づく。また、貨物や郵便物として輸出する場合の条件とは異なる。詳しくはhttp://www.maff.go.jp/pps/j/search/exp_index.htmlを確認されたい。

 国籍別にみると、香港やシンガポール、マレーシアでは上記の品目については全て「植物検疫証明書なしで輸出可能」となっています。一方、台湾や米国(本土)ではほとんどの果物に対して「相手国が輸出を原則として禁止」しているため、日本で購入しても自国に持ちこむことができません。タイやインドネシアでは多くの品目で「植物検疫証明書を添付すれば輸出可能」となっています。植物検疫証明書は、植物防疫所あるいは「NACCS植物検疫関連業務(APS)」を通じて申請することが可能です。

 中国やベトナム、オーストラリアについては、各国の検疫条件が未設定のため、自国への持ち出しが可能か不可能か、分からない状況です (※2)。

 品目別に輸出許可可否の状況を見ると、コメ(精米)や緑茶(製茶)については多くの国籍・地域で「植物検疫証明書なしで輸出可能」となっています。果物については、桃で「相手国が輸出を原則として禁止」している国や地域が多く、キウイフルーツでは少ないという特徴があります。

より楽しいショッピングを楽しんでいただくために

 せっかく日本を旅行で訪れて、免税制度を活用して果物などのショッピングを楽しんだのに、購入したものを自国に持ち込むことができない、しかし消費税免税を受けているため、日本滞在中に消費するわけにもいかないとなると、観光客はきっと大きく失望したり、あるいは「持ち込めないのに、なぜ売ったのか」と怒りを覚えることすら考えられます。

 原則的には、購入者の責任となるのでしょうが、免税品の販売事業者には購入者の国籍等を確認する義務があるため、その際に各国で定められている果物などの持ち出し制限の情報を提供することも必要かもしれません。あるいは、出国時に空港の植物防疫所を立ち寄るよう案内するなどの工夫ができれば、外国人観光客も安心して果物などのショッピングを楽しめることでしょう。こういった細かい部分にも目配りの利いた日本らしい一歩進んだ「おもてなし」を提供したいものです。

 訪日外国人観光客数の増加は、国際的な交流の増加を意味します。それは国際理解の促進などをもたらす一方で、リスクも与えることになります。果物という土産品1つにしても、植物の病害虫は時として大きな被害を及ぼします。旅行者だけでなく、観光に携わるもの全てが、その危機意識を共有しつつ、国境を越えて病害虫が侵入・まん延するのを防ぐためにできる手立てをすることが真の意味での「持続的な国際交流」に繋がるのではないでしょうか。

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 ※2 輸出相手国の輸入許可に関する照会・手続については、現地輸入者等の関係者を通じて輸入国の農業担当当局または植物検疫当局に確認するか、あるいは対象国の在日大使館に問い合わせること。

 〔補足〕植物検疫所へのヒアリングによると、果物などを国外へ持ち出す本人以外が代理(例えば販売業者など)で植物検疫証明書の申請をすることは可能です。しかし、持ち出す国籍が未定の場合には証明書の発効ができないこと、および証明書の期限が2週間程度であることから、販売事業者等で予め植物検疫証明書を取得した果物類を販売するのは困難であり、原則として外国人旅行者が出国時に空港の植物検疫所に立ち寄る必要があります。