東北新幹線の全線開業1周年と青森県の観光 [コラムvol.158]

2012.01.23

観光文化事業部 有馬義治
研究員コラム

 2010年12月4日に東北新幹線八戸-新青森間が開業し、東北新幹線が全線開業してから1年が過ぎました。たまたま昨年12月に業務で青森県に行き、いくつかの観光協会の方の話を伺う機会がありましたので、伺ったことに新聞記事の情報なども加え、この1年の青森県観光(一部周辺地域を含みます)の動きを振り返り、今後への期待と課題など感じたことを述べてみたいと思います。

■全線開業1年を振り返る

 2010年12月4日の全線開業に続き、11年3月5日に、新型車両で東京-新青森間を最速3時間10分で結ぶ「はやぶさ」が運転を開始しました。3月12日には九州新幹線博多-新八代間も開業の予定で、北は青森から南は鹿児島まで新幹線でつながり、2011年は新幹線を軸とした鉄道旅行が大きなブームになるのではと予想されました。しかし、3月11日に発生した東日本大震災により、青森県を始め東北地方の観光地は大きな打撃を受けました。東北新幹線も大きな被害を受けましたが、少しずつ復旧し、4月29日には全線で運転を再開、9月23日には「はやぶさ」運転開始時のダイヤに戻りました。
 この間、青森県の主要観光施設の利用者数は、県の観光統計によると新幹線全線開業の2010年12月が前年同月比12%増、11年1月が同45%増、2月が同23%増と大きな伸びを示しました。東北新幹線自体も、10年12月~11年2月の八戸-新青森間の乗客数は、前年同期の八戸-青森間の在来線特急の乗客数より29%増加しました。全線開業から3ヵ月間は、明らかに開業効果がみられたのです。この効果は津軽海峡を越えて函館市まで及び、函館市などによると同期間の函館市の宿泊施設や観光施設も、利用者数が増えたところが多かったとのことです。
 東日本大震災後、東北地方の他県と同じく青森県の観光客数は大きく減少しましたが、県内の主な観光施設の利用者数などをみると、6~8月頃から前年を上回るところが目につくようになりました。青森デスティネーションキャンペーン(DC、4月23日~7月22日)の効果などもあり、青森県の観光客は8月までには概ね回復したと言えるでしょう。函館市もほぼ同様の推移を示しています。
 しかし、青森県でも観光地によって明暗があるようで、観光客の回復が早いのは青森市、弘前市、八戸市など新幹線の沿線あるいは新幹線から比較的近い都市で、八戸市は2002年12月の盛岡-八戸間開業で増加した観光客数を維持しています。津軽半島も青森DCの効果などでまずまずの状況のようです。一方、十和田湖、下北半島などは観光客が戻っていませんが、これまで団体客が多かったこと、新幹線の駅からの二次交通の問題などのためとみられます。鯵ヶ沢町、深浦町など五能線沿線の西海岸エリアは、新幹線の全線開業時が冬でシーズンオフであったことから、新青森開業による変化はほとんどありませんでした。
 東北新幹線全線開業による青森県の観光への影響は、観光地により程度の差はあるものの、震災による一時的な減少を除けば1年目の開業効果がみられたことは確かです。中でも、次項でみるように、観光客が自観光地内で宿泊・滞在し、回遊できるように仕掛けた観光地の方が、より大きなプラス効果を上げているといえそうです。函館市が順調なのも、震災の影響で道内から北東北、北東北から関東方面へ行っていた修学旅行の多くが函館に行き先を変えたという特殊な事情はあるものの、もともと観光地として大きな魅力を持っており、新青森乗り継ぎにより八戸乗り継ぎに比べて早く到達できるようになったことに加え、函館市が多くの街歩きコースを開発し、その魅力を広くPRしたことが大きいと思われます。

■新幹線全線開業に向けた主な観光地の取り組み

 次に、新幹線の全線開業前後における観光客誘致に向けた主な観光地の取り組みを見てみましょう。
 青森市では、全線開業に合わせて青森駅前に、ねぶたとねぶた祭りの歴史などを展示紹介する「ねぶたの家 ワ・ラッセ」、地元産品を販売する「A-FACTORY」を整備し、既存の青森県観光物産館(アスパム)、八甲田丸と合わせてベイエリア地区の回遊性を高めました。この波及効果で、中心商店街を歩く観光客も目につくようになりました。また、青森駅から近い古川市場で提供している「のっけ丼」(観光客が市場で買ったものを丼にしてその場で食べられる)が大好評だそうです。ただ、プロモーション活動などは予算の制約などもあり、県観光連盟などが実施するプログラムへの参加が中心で青森市とか市の観光コンベンション協会が独自に企画実施することは少ないようです。
 弘前市では2008年頃から、街は観光客、市民、観光関係者が一体となって感動・交流する舞台ということを表す「弘前感交劇場」というコンセプトを打ち出しています。このコンセプトに沿って、市民や市民団体からの発想を基に、「洋館とフランス料理の街」「珈琲の街」「アップルパイの街」などのテーマを設定してそのテーマのガイドマップを作成したり、市の観光コンベンション協会が主催するボランティアガイドによるガイドツアー(旅行商品)として30コースの街歩きコースを設定したりしています。そしてこれらの事業を企画・決定する場として、多くの観光地にみられる「観光協議会」といったきちっとした形でなく、毎週の開催曜日だけは決まっているが、議題なし、構成団体の誰が参加してもいいという各団体の実務者による「やわらかネット」が設立されています。「感交」というネーミングといい、このような事業の進め方と出てきたアイデアといい、柔軟な発想を観光に生かせるユニークな仕組みと評価できるのではないでしょうか。
 さらに弘前市は、青森県の市町村の先頭を切って、2015年度に予定される北海道新幹線の新青森-新函館間の開業を見据え、函館市と連携して「津軽海峡エリア」としての観光推進に取り組み始めています。同時に、大館市、鹿角市など秋田県県北地域との連携も強めたいとしています。
 八戸市では、基本的には2002年の盛岡-八戸間開業時の取り組みの延長上にある取り組みが中心で、「朝市と横丁の街」をPRしています。八戸市はビジネス客も多く、彼らにもできるだけ市内で宿泊してもらいたいという意図から、宿泊しないと楽しめないものをPRの前面に出したのです。2010年に市の観光コンベンション協会が旅行業登録してから、朝市と朝風呂をめぐる「八戸あさぐる」、市内の見どころを回ったり体験をしたりする「八戸まちぐる」、定額制の観光タクシープラン「八戸まちタク」、横丁などの飲食店で使える「のんべえクーポン」などが、協会主催の着地型旅行商品として販売されています。観光客だけでなくビジネス客もターゲットとし、市内に泊まってもらえるよう夜と朝のメニューを充実させる姿勢は、他の観光地でも見習えるところがあるのではないでしょうか。

■2年目以降に向けた期待と課題

 東北新幹線の全線開業により、東日本大震災による影響を除けば、青森県全体としては観光客が前年より増加しました。東北新幹線の八戸-新青森間の2010年12月4日から1年間の乗客数も、震災の影響が大きかった3~6月を除いて前年の八戸-青森間の特急列車乗客数より22%増でした。この勢いを青森県全体として2年目以降もどう持続するか、また、1年目はそれほど新幹線の全線開業効果がみられなかった観光地をどうするかが青森県観光にとって大きな課題です。
 私見ですが、今年は青森と鹿児島がレールでつながったことが再認識され、新幹線ツアーが再び注目を浴びることも考えられます。JRも、東北復興という目的も込めて、東北キャンペーンに力を入れています。このようなプラス要因を生かすためには、県内の一部の観光地で既に行われているような、滞在して回遊できる街の魅力づくりとそのための多彩なプログラム開発、そしてそれらについての的確な情報発信が求められます。それとともに、八戸駅、七戸十和田駅、新青森駅、さらには秋田新幹線秋田駅などからの二次交通対策が必要と思われます。
 また、より大きな課題として、2015年度の新函館開業対策にもそろそろきちんと取り組む必要があるでしょう。函館市では新青森開業時から、単に東北新幹線が青森まで伸びたことへの対応というのでなく、すべての誘客プロモーションと観光客の受け入れ体制整備事業を、新函館開業をにらんで展開しています。新幹線が新函館まで開業したら、まずは函館まで行こうという観光客が大きく増えることがほぼ確実に想定されますので、青森県側も、現在は弘前市が先行していますが、他の観光地も、函館との連携を念頭に置いた対策の検討を始めるべき時でしょう。

 何はともあれ、観光に限らず社会、経済のあらゆる面で、東日本大震災からの復興にはもう少し時間がかかりそうですが、そのような中でも青森県の観光地が元気を持ち続け、それが東北地方全体の観光の復興と再活性化につながることを期待しています。

 

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