「観光立国教育」に潜む やる気のスイッチ [コラムvol.92]

2009.08.07

観光文化事業部 岡田美奈子
研究員コラム

 「観光立国教育」って何?耳にしたことはあるけど、その内容を十分把握している人は少ないでしょう。「観光」・「旅」には、教育的要素がたくさんあることをわかっているけれど、「観光立国教育」って、実際にはどのような教育なのでしょうか?

 GW直後の5月10日、「第1回観光立国教育全国大会」が行われました。同大会のテーマは、子供たちが「自分のまちを知り、地域が好きになる そんな子供たちを増やしましょう!」。「観光立国教育」を理解し、それを全国へ普及することを目指して、教育関係と観光関係者、および、行政とが連携して行う、初の全国大会です。

 大会では、20名前後の教師が生徒役に扮し、観光立国教育の模擬授業が行われました。たとえば、岡山県の教師による「桃太郎」をテーマにした授業では、桃太郎の話のもととなる日本書紀の一節、「その昔、吉備の国に温羅という鬼が住んでいたそうな」と日本昔話風に音読。鬼ノ城に住んでいる温羅をやっつけたのが吉備津彦命といわれ、吉備津彦命が桃太郎のモデルではないかと書いてあること、この吉備津彦神社というのが岡山にあることなどを紹介します。また、岡山県には桃太郎神社があり、そこには、犬、雉、猿のお墓、桃太郎のお墓があること、この神社が鬼無町にあることなど、桃太郎を中心に話がどんどんと広がり、地域に対する関心、訪れてみたいという気持ちが高まります。さらに、地図を見ながら、桃太郎神社が香川県にもあることを発見、桃太郎伝説が香川にもあること、そして、北海道にも愛知にもそうした伝説が存在することも紹介、1つのテーマから、地元周辺地域だけでなく全国に目を向けさせ、広く関心を高めるような、とても興味深い授業でした。

 その他の模擬授業も含め「観光立国教育」は、子供だけでなく大人も楽しめる、知らなかったことをどんどん発見する、改めて学ぶことの多い授業であることを実感。参加者の多くは、「子供のころに、こんな授業を受けたかった、大人になった今でも受けたいと思う、とても楽しい授業だった」という感想を抱いていました。そのような気持ち、つまり、「学びたい」という気持ちにさせる「観光立国教育」の秘密は何なのでしょうか?

 最近、教育や脳に関する話題がテレビや書籍などで、多々、取り上げられています。つい先日、九州地方のある保育園での取り組みが取り上げられている番組を見ました。同保育園で過ごす数年間で、跳び箱10段以上、逆立ち歩き、側転などを含めた運動能力がグンと高まるだけでなく、読み書き能力、絶対音感まで、自然とついているというのですから驚きです。子供の特徴をよく理解して、無理なく子供の可能性を広げてくれる教育方針から、大変人気が高いとのことです。確かに、園長の考えを聞いていると納得できました。園長いわく、「子供の普段の様子をみていていれば子供のやりたいことがわかる、子供が本来もつ『やる気』を教育にあてはめているだけ、『やる気のスイッチ』さえ入れてあげれば、どんどんできることが増える」というのです。子供には4つの「やる気のスイッチ」があるとのことです。(1)競争心が強い、(2)真似をしたがる、(3)ちょっと難しいことに挑戦したがる、(4)褒められたい。つまり、友達を追い越したい、見本をまねしながら上手になりたい、難しすぎることはやりたくないが、ちょっと難しいことなら挑戦したい、できるようになりたい、できるともっと挑戦したい、成功すると褒められる、そして、もっと褒められたいということです。こうしたことが好循環を生み、どんどん、能力が向上していくということなのです。

 別の番組では、学力低下を危惧したある小学校の取り組みが紹介されていました。小学5年生が生まれて初めて見る「薔薇」という漢字を、ほんの数分間で書けるようになるのです。じっと数分間「薔薇」の文字を見つめさせた後に、紙に書かせる、それだけのことでしたが、子供たちには、形、つまり、視覚で漢字を記憶させているのです。このとき、普段使わない右脳が活性化され、視覚で記憶されているとのことです。つまり、視覚から入ってくるものは、記憶に残りやすいということなのです。こうした視覚やおもしろいと思わせる授業の方法で、グングンと学力が向上しています。

 「学びたい」という意欲を掻き立てるのは、「おもしろい」「わかる」「できる」という実感です。教育者がただ単に勉強を教えることは、それほど難しいことではないでしょう。しかし、人の「やる気」、モチベーションを高めることが難しいのです。「やる気」さえあれば、学ぶ気持ち、学習意欲は高まり、効果も高まるのです。そのことを認識し、「やる気」を高めることのできる教師・授業は、どれほど存在しているのでしょうか?

 「観光立国教育」は、このような要素をすべて含んでいるので、おもしろい、受けたい、やりたい、もっと学びたいとつながっていくのだと思われます。この「やる気のスイッチ」が、観光立国教育の中には様々に含まれているので、こんなにもおもしろい授業になっているのでしょう。そして、観光は、地図や実際に地域を訪問するなど、視覚に訴える、そして、五感に訴求する、右脳を刺激する素材でできているので、「わかりやすい、おもしろい、そして、自分でも体験できる・できた」という感動から、もっと観光を知りたくなる、自分の地域だけなく他の地域も知りたくなる、とますます学びの欲求、「学びたい」という気持ちがとまらなくなるのです。

 景気の影響から消費意欲が落ち込む中でも、教育投資だけは維持したいという傾向は高まっています。それに伴い、「学びのマーケット」は拡大、変容し、おもしろくて楽しい学びの場が増えています(レジャー産業資料2009.5)。こうした動向を背景に、「観光立国教育」は、観光関係者、教育者だけでなく、一般の人々においても、無限の可能性を広げてくれる教育の形として期待が高いと思われます。人間の「学びたい」という欲求は、常に存在しています。「旅」、「学び」の原点を見つめ、「観光立国教育」を通して、人間の本質的な欲求に応えることが求められているのでしょう。

谷先生
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