観光産業の将来の担い手を育むために [コラムvol.351]

2017.08.21

観光政策研究部 主任研究員 岩崎比奈子

 今年も多くの人々が国内外の観光地や帰省先で夏休みを楽しんだことでしょう。観光地への移動中や滞在先では、交通機関や宿泊施設・観光施設のスタッフが温かく出迎え、楽しい旅の想い出作りをお手伝いしたのではないでしょうか。

人材不足はいずれの産業でも喫緊の課題

 我が国の宿泊業に従事する労働者数の推移から、2016年は10年前と比較すると40歳未満の若い世代が大きく減少し、40歳以上の中高年層が今日のこの業界を支えているという状況がみえてきます(図参照)。

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 来る人口減少社会では、人材確保はいずれの産業においても喫緊の課題です。すでに運輸業では、顧客に対してこれまでのサービス内容や料金水準の見直しを迫る状況となっています。

 多くの日本人が希望する余暇活動として旅行を挙げており、海外の旅行者も強い関心を寄せる我が国の観光地が、今後も引き続き多くの人々を惹き付け、持続可能な産業として発展するためには、観光産業の担い手を安定的に確保すると同時に、現在の従事者の働く環境を向上させて働きがいを持ってより長く働き続けてもらうための取り組みが必要です。

「人材の確保・定着・育成」の取り組みを一連の流れで

 全産業の中でも観光産業は特殊な勤務形態などもあって人材の確保・定着が厳しさを増していることから、当財団の調査業務においても観光産業の人材不足への対応策を検討する案件が増えてきました。ある温泉観光地では、この問題を集中的に議論する部会を立ち上げ、宿泊施設の従業員を対象に、現在の仕事・職場への満足度や、将来を含めて当地や現在の勤務先で働くことの意向等についてアンケート調査を実施し、これまで感覚的にしか把握できていなかった現状を、具体的なデータをもって把握することができました。

 今後の対応策については引き続き議論を続けているところですが、私自身が感じているのは、観光産業の人材確保の問題は、どのような人材をどのように確保するか、現在の従業員の勤続年数をどのように延ばしていくか、そのためにも従業員の能力をどのように伸ばし育成していくかについて個別にではなく一連の流れとして取り組む必要がある、そしてこの課題に、観光地域づくりを進める地域の宿泊施設・観光施設・飲食店等に行政を含めた官民が一体となって取り組むことが大きな原動力になるのではないかということです。

観光産業で働くやりがいを若い世代に伝えよう

 人材不足という差し迫った課題に対して打つべき対応策は、短期的なものから中・長期的なものまで多岐にわたりますが、長期的に将来の担い手を育てていくという観点も重要ではないでしょうか。具体的には、幼い頃から旅行に親しみ、家庭と学校以外の、国内外の多くの世界に触れ、多様な価値観を知るとともに、そうした機会を提供する観光産業の存在と重要性を感じてもらい、願わくはそこに自らが関わることにやりがいを感じてもらえたらと感じています。

 特に、この産業で働くことのやりがいを伝えていくことが重要ではないでしょうか。もちろん観光産業には、財源確保や生産性・収益性の問題、組織・推進態勢づくりなど多くの課題を抱えていることも事実ですが、未知の土地や人に出会うなど新しい世界に触れる機会が多いこと、そこには美味しい食があり、土地の人々との温かい交流があることなど、地域関係者と消費者双方にその土地の魅力への気づきを促し、より良い時間を提供すること、そして何より平和であって初めて成り立つのが、観光産業です。

 旅は、いくつになってもその年代ごとの楽しみ方がありますが、特に将来の進路を考える20代前半までに様々な旅行体験をしてもらうことが、将来の観光産業の担い手を育むためには重要であるように感じます。

 今年も夏休み期間中、多くの児童・生徒、学生たちが旅先でたくさんの楽しい体験をして忘れ難い想い出を作り、その中から一人でも多く、将来、観光に携わる人が誕生したらと願っています。

 あらためて言うまでもなく、私を含めて観光産業への従事者が、まずは率先してリフレッシュのため、そして自らの日頃の仕事を振り返るためにも、旅行に出かけることが大切ではないでしょうか。そして、ご自身のお子さんや身近にいる若い世代の人たちにぜひ旅に出るよう背中を押してほしいと思います。そのことが長期的には、観光産業に関心を持ち、理解者となり、そして場合によっては担い手となってくれる人々を育むことになるのではないかと思うのです。

長屋門の土壁修理の体験(宮城県栗原市)

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郷土料理が並ぶ旅館の朝食(東北地方の温泉旅館)

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釜で炊いたご飯で朝食を(東北地方の温泉旅館)

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