観光イノベーションの時代-構造改革と地域格差 [コラムvol.25]

2008.03.28

研究調査部長 梅川智也

<はじめに>

 バブル経済が崩壊した90年代初頭から既に15年以上が経過しました。その間、国内旅行、特に宿泊旅行は右肩下がりを続け、観光地は団体客の減少や急激なニーズの変化などにより疲弊してしまいましたが、21世紀に入って、低迷脱却に向けた様々な取り組みを進めています。国土交通省*1や経済産業省*2など国の各種イノベーション支援等を活用している観光地も数多くあります。
 その方向は大きく、?多様な主体の参画による観光まちづくりの実践、?地域の資源を最大限に活用した着地型旅行商品の開発、?共通の目標(ビジョン)づくりとそれをマネージメントする組織の確立などです。人口減少社会を迎えて市場全体が縮小の方向に向かうとともに、消費者の志向や行動形態が大きく変化する中で、“リピーターの確保”と“滞在化の促進”を目指した観光分野におけるイノベーション=「観光イノベーション」のブームが訪れているといっても過言ではありません。
 その結果、やる気のある観光地とない観光地の間の差がますます大きくなり、地域格差(観光地格差)が広がっていくものと思われます。

<イノベーションとサステナビリティ>

 ハーバード大学の人気教授クレイトン・クリステンセン氏の『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』によれば、イノベーションには「持続的イノベーション(sustaining innovation)」と「破壊的イノベーション(disruptive innovation)」があり、前者を指向する優良企業は全てを正しく行うが故に失敗するとし、従来とは異なる価値基準や行動規範で運営することの重要性を指摘しています。
 これまでわが国の観光分野で「破壊的イノベーション」は存在したのかどうか・・・。全国の都市旅館が都市ホテルの出現によって壊滅的なダメージを被ったことはこれに該当するかも知れません。しかしながら、老舗旅館、老舗料亭、老舗土産品・・などは、日々の変革、革新の積み重ねの歴史であり、その結果としての「老舗」です。つまり「持続的イノベーション」の連続が、サステナビリティ(持続可能性)に繋がっていると考えるべきではないでしょうか。

<観光地における5つのイノベーション>

 むろん「観光イノベーション」の明確な定義があるわけではありませんが、21世紀に入ってからの観光イノベーションは次の5つに分類できると思います。

 (1)資源系イノベーション
  -網走、紋別・流氷観光おーろら号、ガリンコ号、旭山動物園-行動展示、豊岡・コウノトリ、
   別府・ハットウオパクによる路地裏散策など温泉文化の再生など
 (2)施設系イノベーション
  -京都・町屋の活用と保存、廃校の宿泊体験施設へのコンバージョンなど
 (3)事業(産業)系イノベーション
  -ニセコ・ラフティングビジネス、宿泊特化型ホテル、露天風呂付客室による単価アップ、癒しビ
   ジネス・スパ、ウェルネスなど
 (4)政策系イノベーション
  -長浜、日田・中心市街地活性化に観光の視点、越後妻有、直島・現代アートによる過疎地や離
    島の活性化、国のインバウンド振興による地域での外客誘致促進(ニセコ、白馬など)、着地型
    商品、ニューツーリズムの振興と第3種旅行業など
 (5)人材系・組織系イノベーション
  -阿寒湖温泉・外部ネットワークを活用した観光まちづくりと推進組織の設立、小樽-市民参加
   による雪あかりイベント、小布施-外国人の視点によるまちづくりなど
        ※紹介すべき事例は全国に多々ありますが、その一端を挙げてみました。

 現状に甘んじることなく、観光地自らが自発的に構造改革を試みること、それが観光イノベーションだと思います。国際的にも通用する観光地を目指して、土地利用や交通、景観などのインフラ整備から、滞在プログラムの充実やホスピタリティの向上など、今まさにあらゆる財源を活用して観光イノベーションに取り組むことが重要ではないでしょうか。
 そして「観光イノベーション」の共通点は、人間は何がしたいのか(行動欲求)、つまり「人間行動の本質」を追求し、常にニーズに対応していく考え方と古いもの(変わらないもの)に価値があるとする考え方のバランスを大切にすることだと私は考えています。


*1:観光実践プラン、観光ルネサンス事業、まちめぐりナビプロジェクト、観光地域プロデューサーなど
*2:ビジネス性実証支援事業、広域・総合観光集客サービス支援事業など

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