「あるべき姿」に近づくために [コラムvol.195]

■満足度で測っているものは何?

 これから10年後、自然観光地を訪れる観光客の満足度はどうなっていくのでしょうか。
今のまま推移すれば、おそらく低下していくでしょう。

 これは必ずしも自然観光地の魅力が低下していくから、という訳ではありません。しかし、年齢別に見た満足度調査のアンケート結果をみると、今のまま満足度が「変化しなければ」、将来的に満足度が低下していく可能性が高いのです。

 わざとややこしい言い方をしてしまいましたが、その理由はこうです。
平成23年に国立公園の4カ所で、利用者調査をしました*1。その目的は、国立公園を訪れた人が深く感動していること、そしてその感動が、訪れた人の人生の豊かさに貢献していること、を示すことでした。調査の結果、この仮説を示すことができましたが、このほかにもいくつかの分析をしています。
 そのひとつが、下記のグラフです。

図表 国立公園での滞在の総合満足度(年齢別)
図表1
資料:国立公園利用者意識調査(公益財団法人 日本交通公社)

 これは、国立公園を訪れた人の満足度を、その年齢別に整理したものです。これを見ると、20代や30代は満足度が高く、50代以上は満足度が低くなっていることがわかります。つまり、自然観光地の魅力が今と変わらず、「年代別」の満足度が今のままの状態であれば、今後さらに熟年層の割合が上昇することを考えると、「平均値」としての満足度は下がるだろう、ということが考えられます。
 満足度は多くの観光地で調査され、経年比較などを通して観光地の魅力向上を測るツールとして活用されています。しかし、観光地の魅力の変化とは関係なく、来訪者の属性の変化によって満足度が変わってしまうのであれば、単に満足度の平均値を見ているだけでは観光地の現状をうまく捉えられないかもしれません。そこで、年代別に満足度を整理して、それぞれの年代別に満足度がどう変化しているのか、を把握する必要が出てきます。

図表 国立公園での滞在の総合満足度(天候別)
図表2
資料:国立公園利用者意識調査(公益財団法人 日本交通公社)

 同じように、自然観光地の場合、天候も満足度に大きく影響します。これは、国立公園を訪れた人の満足度を、訪れたときの天候別に整理したものです。これを見ると、「晴れ」だと満足度が最も高くなり、天候が悪くなるにつれて満足度が大きく下がっていくことがわかります。国立公園では、雄大な景観を眺めたり、原生的な自然を楽しんだりすることができます。ビジターセンターなど屋内型の施設も整備されていますが、その多くは屋外での活動が中心であり、旅行中に天候から受ける影響がとても大きくなるため、このような結果になっていると考えられます。調査時の天候を意識していなければ、満足度の経年変化を見ているつもりが、実は調査時期の天候を測っているだけだった、ということになってしまう可能性もあるのです。

 同じことは、来訪者の旅行目的や同行者、活動内容、趣味嗜好についても、言えるでしょう。
 それでは、これら全ての項目について、クロス集計等で詳細に分析し、それぞれの満足度の動向を把握しなければいけないのでしょうか。そのためには、アンケートであれば多くのサンプル数が必要になりますし、作業も大変になるでしょう。それに、全ての項目で満足度が上昇していればいいですが、ほとんどの場合、ある項目があがっていればある項目では下がっている、といったことになります。そのようなときは、観光地の現状をどう評価すればいいのでしょうか。

■チェックすべき項目と「あるべき姿」

 そんなときに、「あるべき姿」を設定していると、どういう項目を重視して、そのためにどういう分析をすればいいのか、考えやすくなります。会社や地域の「あるべき姿」(どんなお客様に、どういう場面を通して、どう感じてほしいのか)が決まっていれば、あるべき姿に近づいているのかどうか、まずはそこをチェックできる項目の満足度を重視すればいいのです。あるべき姿の設定の仕方によっては、ひょっとすると、そもそもチェックすべき指標は満足度ではない、ということになるかもしれません。

 ここでは、自然観光地の利用者調査の結果をもとに話を進めましたが、同様のことは全ての観光地について言えることだと思います。あるべき姿を設定し、そこに向かって近づけているかをチェックしながら、よりよい観光地域づくりに向けた取組みをしていくことが、重要なのではないでしょうか。

*1 国立公園の利用者意識に関する研究(五木田玲子)