観光政策の目的と手段 [コラムvol.382]

2018.11.05

観光政策研究部 主任研究員 守屋邦彦

 当財団では、地方公共団体(都道府県および市町村(*1))を対象とする「観光政策に関するアンケート調査」を2014年度より毎年継続して実施している。今年度も計154の都道府県・市町村からご回答を頂き、その結果については先日当財団が発刊した『旅行年報2018』に集計結果を掲載させていただいた。ご協力を頂いた都道府県・市町村の皆さまにはこの場を借りて厚く御礼を申し上げたい。

 アンケートの集計結果の詳細について『旅行年報2018』をご覧頂きたいと思うが、現在、このアンケート結果を元に、「観光振興による取り組みは経済的な影響を与えているのか?」「どのような取り組みが影響を与えているのか?」といった点を中心に更なる分析を進めているところである。本コラムでは、その一端をご紹介したい。

*1)全市町村は対象とせず、各地の観光動向を勘案して政令指定都市全20市を含む179市町村を対象としてアンケートを配布。

観光により経済的にはプラス

 まず、アンケートにご回答いただいた154都道府県・市町村について、観光による経済的な地域活性化の状況がどうなっているかを確認した。具体的には、観光により経済的な影響を受けやすい宿泊業、飲食サービス業の付加価値額(*2)について、2012年から2016年の変化を指標とした。結果は図1のとおりであり、概ね正規分布となっていることがわかるとともに、多くの都道府県・市町村が2016年/2012年比で1以上、すなわち経済的にプラスとなっていることが明らかとなった。

図1 アンケート回答154都道府県・市町村の宿泊業、飲食サービス業の付加価値額の変化分布

*2)付加価値額=[売上高]-[費用総額(売上原価+販売費及び一般管理費)]+[給与総額]+[租税公課]

「受入環境のハード整備」に差

 次に、この154都道府県・市町村を、付加価値額の変化の平均値で線引きし、“付加価値額変化「高」グループ(以下、高グループ)”と“付加価値額変化「低」グループ(以下、低グループ)”に分け、この2グループで各種観光振興に関する取り組みにどのような違いがあるかを確認した。その結果は図2の通りである。これを見ると、多くの取組みでは、高グループと低グループの間で大きな差は見られないが「c.受入環境のハード整備(駐車場やトイレ整備、二次交通の改善、Wi-Fi環境の導入等)」では、低グループに比べ高グループで取り組んだとの回答が多い。一方で「g.組織運営(観光事業者の育成指導、観光関連組織の立ち上げ、団体運営への参加等)」については、高グループに比べ低グループで取り組んだとの回答が多い。これらの回答からは、受入環境のハード整備が経済的な観光振興に良い影響を及ぼしている可能性が示唆されるとともに、経済的な観光振興が伸び悩んでいる地域では、組織運営への取組みが行われている(すなわち、組織運営にやや課題認識がある)可能性が示唆される。

図2 2017年度に実施された取組み(代表的なもの3つを選択)

経済的な活性化への意識が薄い?

 今回の観光政策に関するアンケート調査では、観光振興に関する様々な項目(約30項目)について、どのような「意識」であるかを尋ねた。具体的には、「観光は自都道府県・市町村の経済に良い影響を与えている」「インバウンドの拡大・振興は自都道府県・市町村に良い影響を与えていると思う」などの設問に対し、非常にそう思う(7)~どちらでもない(4)~まったく思わない(1)の7段階で当てはまるものを回答して頂いた。これらの意識について、先の高グループ、低グループで差があるものはどの項目かを検定した。

 その結果は図3の通りであり、高グループと低グループの間で、「観光は地域への愛着や誇りの醸成に良い影響を与えている」「インバウンドは地域に良い影響を与えている」「オーバーツーリズムが発生している」「観光客が想定を下回っており、自治体内でビジネスとしての観光事業を継続することが困難になっている」といった意識に有意な差があることがわかった。

 すなわち、実態としての付加価値額変化が高くても(すなわち、実態として経済的に良くなっていても)、その点についての意識は薄く、むしろ地域への愛着は誇りといった経済面とは異なる部分への意識が強いことがわかる。一方で、実態としての付加価値額変化が低い場合には(すなわち、実態として経済的な活性化が伸び悩んでいると)、経済的な面への意識が強いことが分かる。

図3 観光政策に対する意識の差

観光政策の目的を意識する必要性

 以上の結果からは、「経済が良い時は取組の成果を気にしないが、悪くなると気にする」という状況であり、やや観光政策の目的と手段の関係への意識がやや曖昧になっているのではないか、という状況が窺える。観光振興の目的には、もちろん経済的な面だけでなく、意識でも表れていた通り地域への愛着や誇りといった非経済的な面があるが、各種の観光政策がきちんと地域の活性化に繋がっているのかを意識し、繋がっていなければ取組を見直すといった活動を行っていくことは重要と考えられる。

 今回の分析は、まだまだ仮説を設定するための初期的な分析といったものであるが、今後更に分析を進め、観光振興にとって有効な取組とは何なのか、それぞれの取組の間にはどんな関係性があるのかといった点について考察を深めていきたい。

この研究員のその他のコラム

最新研究員コラム

観光研究コラム一覧