外国人旅行者から学ぶ日本の魅力 [コラムvol.194]

 先日台北出張の際に利用した成田空港は多くの外国人で混雑していました。まだ梅雨が明けていない時期にも関わらずこれだけの賑わいを見せていたのはやはり円安の影響でしょうか。円安の恩恵を受けてか旅行者の財布の紐も緩んでいるようで、両手に大きな買い物袋を提げている姿が目立ちます。震災後しばらく目にすることのなかった炊飯器の箱も久しぶりに見かけることとなりました。

■空港の免税店では菓子売り場が大混雑

 空港の売店では菓子の箱をたくさん抱えたアジア系の旅行者が長蛇の列を作っているのが目立っていました。売り場は多くの外国人であふれかえっており、みな5箱、10箱と手に取ってレジ待ちの列に向かって行きます。商品の補充が追い付かないほどの売れ行きで、品切れの商品も目につきました。
 レジ待ちの人々に目を向けると、菓子を抱えているのはみなアジア系。特に目立ったのはタイ人旅行者で、大量の菓子箱を持っています。一方、欧米人の姿は日本酒のコーナーではちらほら目にするものの、菓子類を手にする姿はあまり見かけません。
 こうした傾向はデータからも確認することができます。観光庁が実施している訪日外国人消費動向調査の商品購入率ランキングを見ると、アジア諸国の1位はすべて「菓子類」(平成24暦年)。一方で、アジア以外の国の1位はすべて「その他食料品・飲料・酒・たばこ」、つまり旅行中の飲食費で、菓子類は2位以下となっています。アジア圏の旅行者の菓子を好む傾向がデータからも読み取れます。

■アジアに共通する土産の習慣

 どうやら購買傾向の違いは各国の土産文化や習慣の違いに由来するようです。周りにいる外国人にどんな土産を誰に配るのかインタビューしたところ、アジアの人は親族だけか友人や同僚まで含めるかの違いはあるものの、旅行土産を配る習慣があるとのこと。土産の種類の中でも菓子類は一般的だそうです。
 一方、欧米系の人に話を聞くと、旅行中に買う土産は自分のためのものが多く、親族や会社に土産を持って配ることはないという答えが返ってきました。私も以前いた米国の職場はみな出張の機会が多くありましたが、旅行土産をもらうということはなかったと記憶しています。
 日本はというと言うまでもなく、周囲の人へ旅行土産を配る習慣は年齢や場所を問わず定着しています。神崎宣武著『おみやげ 贈答と旅の日本文化』によると、旅みやげが発達した背景にはイエやムラへの帰属意識の強さが関係していたそうです。欧米ではこうした帰属意識がどうなっているのかまでは調べきれませんでしたが、中国や韓国では親族との関係が密だということはよく耳にします。アジアならではの帰属意識の強さが土産を配る習慣に影響しているのかもしれません。

■日本特有の土産文化

 それにしても目を引くのは売り場に並ぶ菓子製品のラインナップ。ここはどこかと思うほど全国各地を代表する菓子が並んでいます。都道府県単位、さらには市町村単位で名物があると言っても過言ではありません。ここまで地方銘菓が発達した国は日本だけではないでしょうか。
 なぜここまで各地の菓子が発達したのか、それは「土産」という言葉の起源をたどると見えてくるようです。『おみやげ 贈答と旅の日本文化』には、「ミヤゲの語源については、いくとおりかの説がある。そのひとつが「宮笥(みやけ)」説。(中略)神社から授かるしるし、と解釈することもできよう」とあり、また「必要なのは、行った先を確実に表すしるしである。つまり、見送ってくれた人たちの誰もが認める地名や寺社名が大事なのである。(中略)饅頭そのものに地名や寺社、温泉などを表す焼印が押してある例も少なくない。それは、世界でも稀なる表示例、といわなくてはならないのである。」と書かれています。旅行に行ったことを報告するために各地ならではの土産が求められるようになり、時を同じくして砂糖の普及によって饅頭等の菓子が庶民にまで浸透した結果、旅土産として菓子を配る文化が生まれたようです。
 欧米で売られている日本のガイドブックの買い物に関する項で紹介されているのは伝統工芸品や着物、電化製品等で、菓子は登場しません。ガイドブック自体も買い物に関しての記述は少なく、日本の文化や見どころに多くのページが割かれていて、欧米の旅行者の関心は日本の文化に集まっていることがわかります。ですから、日本の菓子土産はショッピングの対象としてよりも、日本独特の文化として紹介する方が欧米の旅行者の関心を惹くのかもしれません。

■外国人旅行者が気づかせてくれる

 菓子土産に外国人が殺到している様子に興味を持ち、外国人に話を聞いたり習慣や由来を調べたりすることで初めて日本の土産文化が独特ということに気付く機会を得た今回でしたが、こうした機会がなければおそらく当たり前のこととして見過ごしていたでしょう。
 こうした私たちが気づいていない魅力は、自分の身の回りにまだまだたくさん眠っているに違いありません。そしてそんな当たり前のものが外国人旅行者にとっては大きな魅力なのです。これからも外国人旅行者を街や空港で見かけたら、どんなものに興味を示すのか、何を買うのか観察を続けてみようと思っています。