「旅行の同行者」に注目 [コラムvol.27]

2008.04.11

研究主幹 大野正人

要旨

 宿泊施設のマーケティング活動では消費者の属性区分だけではなく旅行目的による区分が重要です。しかし旅行目的は旅行者自身も明確に意識していないことが多く、観察や調査等で把握することは容易ではありません。そこで旅行目的に最も密接に関連する指標である「旅行の同行者」で代行することをお勧めします。宿泊施設では最近の旅行客の同行者の傾向を把握したり、自館の宿泊客の同行者を観察すれば、どんな情景の演出、サービスが望まれているかを想像することが出来ます。

旅行目的と同行者により異なる宿泊施設へのニーズ

 マーケティングにおける一般的なターゲット客層区分では性年齢別や既婚未婚、年収や居住形態等の基本属性で消費者を区分します。しかし観光旅行では一人の人間に様々な目的の旅行が発生します。例えば基本属性が「50歳代男性・年収8,000千円・都内マンション居住」の人が、?家族サービスと親孝行のために両親と子供の三世代で沖縄に旅行、?夫婦で気軽に近間の温泉地でおいしい料理を食べてのんびり旅行、?ゴルフ仲間4人でゴルフ旅行、という3つの旅行をしたとします。
 この3つの旅行ではホテルや旅館に求められるサービスや費用支払いの限度額が全く異なっていることは簡単に想像できます。?では家族6~7人が一緒に会食できる場所や老夫婦と夫婦と子供が別々に寝られ(しかし家族と一体感を感じられるような)客室、子供が楽しめるレジャー施設が求められます。?では静かで落ち着いた雰囲気とおいしい料理とサービスが求められます。?では多分、安くて清潔であれば良い(ひっょとしたら"いびき"が気になるのでシングルルームを…)というニーズとなるでしょう。このようなニーズの差異が生まれる最大の要素は旅行目的と同行者にあります。

同行者(内容と人数)の把握が宿泊施設にとって最も重要な要素

 さて「どんな属性の人がどんな旅行目的が多いのか?」を把握することは、様々な消費者にパッケージ旅行を造成・販売する旅行会社にとって重要なマーケティング項目となります。  上に述べた例では「50歳代男性・年収、居住地うんぬん」の消費者を抽出し、そのタイプの人に発生頻度が高いパッケージ旅行のDMを送るという行為でマーケティング活動は終了します。  しかしホテルや旅館ではやや問題は異なります。旅行目的が観光活動やスポーツ活動などの場合は多少は旅行目的が異なってもサービス内容に大きなニーズの差異は生じません。しかし旅行目的が同行者との親睦を深めるためであった場合は、その「親睦の場(多くは食事場所と客室)」を提供する宿泊施設の役割は非常に大きなものとなります。
 その旅行の親睦の場では「誰と誰が何人で同席・同室するのか?」を把握した上で「場を盛り上げるためにはどんなサービスと演出が望まれているのか?」というニーズにきめ細かく対応していくことが必要となります。
 この意味ではホテルや旅館で「旅行の同行者の構成」が事前にわかればそのニーズを予測し、それに適したサービスをセットすることが出来ます。「大人2人(男女)」という情報では何も想像できませんが「50歳代の夫婦2人」あるいは「30歳代の夫婦と幼児3人」という情報がわかれば、そのニーズをある程度は想像することが出来ます。 このような情報を個々に把握することはなかなか困難ではありますが、市場の動向がどんな旅行目的、どんな同行者の旅行が増えているのかを把握することで事前に対応可能なサービスを準備しておくことが可能となります。


旅館では中高年夫婦2人を対象とした「親睦の場作り」が必要

 さて、同行者の内容や人数が変化すると親睦の場へのニーズも変化しますが、特に人数は客席や客室の仕様に大きな影響を及ぼします。ここ数年の旅行動向では2人客が一貫して増加していること、その主力は団塊世代の夫婦であることは観光関係者なら実感していることでしょう。ではこのようなターゲット客層へ対応はどうすればよいでのしょうか。
食事場所に関しては今までの4~5人のグループ客を主ターゲットとした場(和室で4人で座卓を囲む)から2人客を意識した場への転換が必要となります。2人客では会話を弾ませ、場をつなぐサービスの役割が4~5人客よりも必要となります。窓辺の席では眺望が会話の場をつなぐ役割を果たしますし、カウンター席で板前が会話の場をつなぐ役割を果たします。話題のタネは地場食材でも目の前で演出する料理の仕上げでも良いでしょう。
 一方、和室では4人用の座卓は邪魔になり、布団も5組は必要なくなります。その分空いたスペースを2人で窓の外を眺める場、2組の上質な寝具に置き換えてみてはどうでしょうか。 下の写真はこのようなことを意図した作並温泉・一の坊の和室です。これを単に「今流行のモダン和室」という現象面だけで捉えるのではなく、この客室が「誰を対象に(2人客)、どんな体験を(2人での親睦の場)、どんな手段で(窓辺の2人用ベンチや2組だけの寝具)、提供しようとしているのか」という背景を理解すれば自分の宿での対応を考えるキッカケとなるのではないでしょうか。

作並温泉1
作並温泉「一の坊」
2人での就寝の価値を最大限高める手法
作並温泉2
作並温泉「一の坊」
2人で景色を体験させる手法

 

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