車いすを降りて、空を飛ぼう[コラムvol.253]

2015.05.22

観光文化研究部 清水雄一

沖縄観光バリアフリーの今

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 沖縄県は平成19年に全国に先駆けて「沖縄観光バリアフリー宣言」をしています。那覇空港内と国際通りには、「しょうがい者・こうれい者観光案内所(沖縄バリアフリーツアーセンター)」が設置され、誰もが安心して沖縄旅行ができるように、各種情報提供等を行っています。

 こうした中、沖縄県では平成24年度~26年度に掛けて、さらなる観光バリアフリーの取り組みを推進しようと、高齢者・障がい者の方々を中心としたニーズや旅行実態調査、県内の受入実態調査の実施、障がい者スポーツのモニターツアーや、障がいの有無に関わらず誰もが楽しめる音楽祭の開催、発達障がいの子供達の自然体験療育プログラム等、いくつかのモデル事業の実施の他、観光バリアフリー、ユニバーサルツーリズムを根底に据えた人材育成セミナー等の事業を進めてきました。当財団も事業受託者として、一連の事業に携わってきました。

 これらの取り組みは、少しずつですが、観光分野と医療・福祉分野等の関係者が、それぞれの強みを活かして連携し、新たなプログラムづくり、地域づくりとなり得る動きとなってきています。

 今回は、県事業の一環として作成した沖縄観光バリアフリーガイドブック『ちむぐくるトリップ』の紹介を通じて、この冊子作成に込められた関係者の想いや、現在の沖縄観光バリアフリーの一端をお伝えできればと思います。

多様な関係者で作った沖縄観光バリアフリーガイドブック『ちむぐくるトリップ』

 「旅行には行ってみたいけど、実際にはなかなか無理だろうな・・・」。ご自身やご家族がハンディを持っていると、このように感じる場合もあることでしょう。実際、沖縄に観光でいらっしゃった方からは、「旅行できるという発想自体がなかった」という声をしばしば耳にします。「そんなふうに感じている人の背中を少しでも押せたら」という想いで、この冊子づくりは始まりました。

 冊子づくりの検討メンバーには、県内の自立生活センターの方観光プロデューサーの方脊髄損傷者協会の方しょうがい者・こうれい者観光案内所の方バリアフリー旅行コーディネート・レスパイトサービス(同行家族支援)をされている方発達障がいの療育プログラムに取り組んでいる方旅行会社の方(1、2)、そして制作チームと、少人数ながらも様々な方に関わっていただきました。一堂に会して意見を出し合うワーキングの場の他、時には遅くまで飲み語り、県外からの来訪者に同行取材をさせていただいたりしながら、一人でも多くの人に沖縄の魅力を伝えて、体験して欲しいという想いで検討を加えていきました。タイトルにある「ちむぐくる(漢字で表すと「肝心」となります)」とは、沖縄の言葉で「まごころ」、「思いやりの心」、「人の心に宿る、より深い想い」等を表すとされています。

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車いすを降りて、空を飛ぼう

 本冊子は大きく2部構成になっています。前半の特集ページでは、「人はなぜ旅に出るのか」ということを意識しつつ、冊子を手にして下さった人が自分の旅のイメージを持ってもらいやすくなるよう、沖縄の海、空、街中等を舞台に、マリンアクティビティやパラグライダー、公設市場やテーマパーク等、ハンディのある人による実際の体験の様子を取材しています。「とにかく楽しいことをしたい」、「新しいことを知りたい」、「何かにチャレンジして達成感を味わいたい」、「リラックスしたい・癒されたい」、「人間関係を深めたい」、「美味しいものを食べたい」等、障がいがあろうとなかろうと、多くの人が多かれ少なかれ持つ人間の欲求を小テーマにした構成にしました。冊子の後半では、実際に沖縄の旅をする際のいろいろなヒントを盛り込んでいます。

 伝えたかったのは、読み手それぞれの内にある「やりたいこと」に気づいてもらうこと、沖縄ならそのやりたいことを実現できるかも知れないということです。まだまだ不便なこともあるかもしれませんが、ちょっと勇気を出したり、助けを借りることができれば、沖縄の海で、空で、街中で、こんなことができる!ということを多くの方に知っていただきたいと思っています。「今日は、車いすを降りて、空を飛ぼう」。こんなふうに考えると、いつもとちょっと違うように世界が見えてきませんか。沖縄ではそんな想いを現実のものにする活動が様々なところでなされています。これらをもっと大きなうねりにしていこうという動きも一部には出てきています。

 「いちゃりばちょーでー(沖縄の言葉で「出会えば皆兄弟」の意)」の言葉にあるように、この冊子を手にとって下さった皆様に、良き旅の出会いがありますことを願っています。

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 追記:この冊子作成に深く関わってくれたライターさんから、その後お手紙をいただきました。曰く「今回の取材では、私もいろいろな刺激を受けました。パラグライダーを体験した紀美さんの『生きているんだから、何でもやってみた方がいいじゃない!』という言葉を受けて、私も封印していた旅心がよみがえり、実は、明日から息子と二人旅に行ってきます」。聞けば、行き先は冬の新潟。沖縄で生まれ育った少年と母の心には、どんな風景と言葉が刻まれたのでしょうか。

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