多様な人々を受け入れるリゾート・ウィスラーから学んだこと [コラムvol.328]

2016.12.12

観光政策研究部 主任研究員 岩崎比奈子

 今年度、当財団は全国6地域を対象に、外国人観光客の来訪を促し消費単価の向上につなげる「国際リゾート地域戦略」策定の取り組みを支援しています(経済産業省からの補助事業※)。2016年12月上旬、私は対象地域の一つ、草津温泉(群馬県)のメンバーとともに、北米随一のスキーリゾートと言われるウィスラー(カナダ)へ現地調査に出かけました。
※本事業について詳しくはこちら

 このコラムでは、10年以上スキーから遠ざかっていた私“初級スキーヤー”が見た、世界的なスキーリゾートの姿を綴ります。スキーの上級者だけでなく、スキー以外のアクティビティを楽しむ人々や、リゾートの現場で活き活きと働く観光産業従事者たちに出会いました。

“多様性”が前提のガイドツアー

 今回の事業で草津が目指すゴールの一つが、「知的探究心を満たす体験ガイドツアーの開発」です。草津の第一の観光資源は強烈な個性を持つ温泉ですが、滞在時間の延長や消費単価を向上させるためには、温泉や歴史・文化などについてより深く丁寧に、観光客の関心を喚起する手法で解説するガイドツアーを開発することが重要だと考えています。

 そのヒントを得るため、「スコーミッシュ・リルワット文化センター」でガイドツアーとドリーム・キャッチャー(先住民族に伝わるお守りの一種)づくりを体験しました。ガイドツアーは私たちのために特別にアレンジされたものでしたが、英語での解説のため不安顔の私たちに、先住民族の女性ガイドが「どの程度、英語がわかりますか」と尋ねてくれました。「初級レベルで」とのこちらのお願いに対して平易な英語とジェスチャーで対応する姿に、母国語が異なる世界各地からの観光客に対して、伝える内容だけでなく「きちんと伝えること」にも気を配っているのだと感じました。

 この文化センターは、先住民族であるスコーミッシュ族とリルワット族のかつての領土の境に建てられており、二つの民族の暮らしぶりや文化についての解説は、かなり長く少々難解なものです。こうした解説の中でスパイスのようにピリッと感じられたのが、私たち日本人とどこか似ているガイド自身の「私の母もドリーム・キャッチャーをこのように作っていた」「毎日サーモン料理を食べていた」といった、自らの体験や感情を盛り込んだ言葉でした。単に歴史の本を読んで得られる「知識」ではなく、伝える人自身の「体験や感情」を通すことで、彼らの日々の暮らしぶりや古くから伝わる文化を強く感じることができた時間でした。

子どもと一緒に楽しめるイベントや環境整備

 朝、ゲレンデへ昇るゴンドラ乗り場で、カラフルなスキーウェアに身を包んだキッズ・スキーヤーたちが並んでいました。ウィスラーでは3歳からスキーの、4歳からスノーボードのスクールに参加できます。彼らの靴にはGPS機能が付いており、スクールに参加中に、どこのゲレンデをどれくらいのスピードで滑っていたかなど、両親が我が子の一日をウェブ上で追体験できるサービスもあるそうです。

 また、毎週月曜日と水曜日には、「Family Après」(「Après」とは英語の「After」のフランス語 )という家族向けのイベントが行われていて、ここでは焼いたマシュマロやホット・チョコレートを楽しみ、犬ソリを引く犬の子犬たちと触れ合うことができます。

 リゾート内には生後18カ月から預かってくれる託児所があり、子持ちの若い夫婦でも思い切りスキーを楽しむことができるなど、ウィスラーは様々な年代・ライフステージの人々へスキーの楽しさを提供する環境を整えていました。

地元住民が「暮らし続けたい街」

 今回とても印象的だったのは、ホテルやレストラン、ショップで多くの若い人々が活き活きと働いている姿でした。ウィスラーでは「住民の満足度」も重要な指標の一つになっています。

 Tourism Whistler(観光局) に勤める若い職員の方が、「子育てをするには最高の環境です!」とおっしゃっていました。小学校から高校まであり、コミュニティがしっかりしていること、病院も小さいながらあること、そしてスキーヤーが滞在しアフタースキーに食事や買い物を楽しむビレッジが、地元住民も日常的に買い物などに出かけるカーフリーのエリアになっており、車に煩わされずに過ごせることも子育て世代にとって魅力のようです。

 多くの若者にとって「ウィスラーで働くこと」が大きな希望であり、パウダースノーと200を超える多彩なスキーコースとともに、刺激が得られるこの街での暮らしも、その理由の一つとしてあるようです。

 そして若者だけでなく年齢を重ねた人々もウィスラーに暮らし続けています。ゲレンデでは初老のご夫婦がスノーボードを楽しんでいましたし、スキーを終えてビレッジへ下るゴンドラ乗り場では、「ホット・チョコレートはいかが!」とカップを手渡してくれる、たくさんのシニアのボランティアに出会いました。

そして、「最高の天国」への誘い

 12月のウィスラーにしては珍しくすっきりと晴れ渡った週末、スキーガイドさんが言いました。

 「せっかくですから“Seventh Heaven”へ行ってみましょう」。

 Seventh Heaven とはユダヤ教などにおいて「天国の最高位」とされているもので、恐らくそこから「最高の幸せを感じるゲレンデ」という意味合いで使われているのでしょう。実際、広大なゲレンデをスキーヤーたちが天使のように左右にヒラリヒラリと滑り下る様は天国を思わせ、忘れられない光景となりました。恐らく、誘われなければ決して踏み出さなかったであろう世界を、ガイドさんがちょっと背中を押してくれたことで垣間見ることができました。まさに、ウィスラーが目指す「来訪者への体験の質の確保」を体感した想いです。

 ただし、「最高の天国」の後には、初級レベルの私には「厳しい地獄」が待っていました。下りはずっと初級コースをたどったはずですが、「ここが初級?!」と二の足を踏むところが何か所も…。

 今回は冬のウィスラーを訪れましたが、実は現在は夏期シーズン(5~10月)の観光客が55%と過半数を超えるとのこと。現地で見聞きした情報、出会った多様な人々の姿から、ウィスラーというリゾートが年間を通じて国内外からの観光客、そして住民といった様々な立場の人々に、ここを訪れ、この地で生活することの価値を提供できているように感じました。
 こうした観点も、現在策定中の草津の「国際リゾート地域戦略」に盛り込んでいきたいと考えています。

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