2011年の年頭に考える 若者に旅行を促すバーチャルな「きっかけ」 [コラムvol.133]

2011.01.07

常務理事  小林英俊
研究員コラム

要旨

 ゲーム好きの若者が、ゲームをきっかけに実際の旅行に行くという現象が各地で起こっています。たとえバーチャルであってもまず「お出かけ」のきっかけを作ってあげることが大切で、そうすればリアルな観光地の良さに気付いてくれます。これからの観光地に必要なのは、バーチャルとリアルをつなぐ「バーチャリアラー」の存在なのです。

本文

 ものごとを「理解する」とはどういうこと?それは、その人がいままで得てきた知見や経験をもとに作り上げた認知のフレームを用いてその物事を分けることではないでしょうか。それでは、自分のフレームで分けられない事象(つまり、理解できないこと)に出会うと人はどうするのでしょうか。多分、自分のフレームで納得できる理由を付けて「理解した」ことにするのではないでしょうか。
 よく言われる「今の若い人は、屋内でのゲームに熱中して外向きの関心が薄く旅行にも行かない」という若者の旅行離れについての解説も、自分たちのフレームで納得するための理解でしかなかったのではないか。改めてこんなことを考えさせられたのは、昨年末の当財団主催の「旅行動向シンポジウム」の準備のために、何人もの関係者を取材した際に得た証言や現場で見聞した現象が、このよく聞く解説と全く違っていたからです。
 今回のシンポジウムでは、携帯電話の位置ゲーム「コロニーな生活☆プラス(通称コロプラ)」やKONAMIのニンテンドーDSの恋愛コミュニケーションゲーム「ラブプラス+(プラス)」を事例にして、バーチャルなゲームがリアルな旅行を生み出している現象とその裏にある現在の若者の価値観や旅行・観光行動について議論しました。同時に、進化するネット社会が人々や旅行・観光にどのように影響を及ぼしていくのかについても考えました。

甲府の伝統工芸店に若者が押しかける
「印傳の山本」
   「印傳の山本」の山本裕輔さん
 コロプラ社は、地域を元気にするため地域の隠れた名店を発掘し、コロプラ提携店としてゲーム内で紹介しています。そのうちの一つ、山梨県の伝統工芸である印傳(鹿革に漆を付けて加工した工芸品)の「印傳の山本」を視察しました。お店は甲府駅から3㎞程はなれた住宅街にあるのですが、驚いたことに全国から連日のように若者がお店を訪れていたのです。コロプラ提携店になってから、売り上げが5倍以上となり、山本さんの当初の想定をはるかに超える来店者数と売り上げが続いています。それまでの顧客は、デーパート催事での中高年女性が大半だったのが、今までとは全く違う若い客層がわざわざ店を訪ねてくれるようになったのです。これに自信を得た山本さんは「お出かけ」のきっかけを作ってやれば若い人も観光を楽しむとの確信から、(社)やまなし観光推進機構に働きかけコロプラ愛好家のための山梨県内周遊ツアーを企画し成功を収めています。伝統工芸店の3代目職人、まだ20代後半の山本裕輔さんはブログやツイッターで印傳について熱心に情報発信をしていますが、自身も早くからの熱心なコロプラ愛好家で、コロプラと組むことで伝統工芸を若い人に知ってもらえるのではと、ゲームとの提携を思いついたそうです。山本さんは、若い人向けの新しい商品企画や今までに無い柄や色目の開発にも取り組み、まず印傳を手に取り知ってもらうことから始めたいと意気込んでいます。
 現在コロプラ提携店は全国に80数カ所ありますが、いずれも若い客層が急増し売り上げも大きく伸びているそうです。

来てみて分かった熱海の良さ
 熱海は、昨年思わぬことでマスコミに多く取り上げられました。KONAMIの恋愛コミュニケーションゲーム「ラブプラス+」のなかでゲーム内の「カノジョ」と熱海に出掛けホテル大野屋に宿泊するという設定があったことから、多くの若い人がDSを持って熱海を訪れるようになったからです。この動きに敏感に反応したいくつかの商店が、ゲームのキャラクターグッズを共同で開発しツイッターで情報発信したところ、瞬く間にゲーム愛好者間に拡がり、そのグッズの品切れ状態が続くほどで、想定以上の若い旅行者が訪れたということです。
熱海
「ラブプラス」の熱海でのキャンペー
ンの様子  写真提供:KONAMI
 熱海で中心的な働きをしたのがホテル大野屋の大野篤郎専務です。専務自身はこのゲームの愛好家ではないのですが、ゲーム制作者等へのヒアリングからどのようなことをすればこのゲームのプレーヤーから喜ばれるのかを研究し、それをマニュアルにして従業員を指導しています。例えば、一人客にもかかわらず「お二人様ですね」と声を掛け、夕食も二人分用意をします。ゲームの世界とリアルを繋ぐような演出を従業員全員が真顔で演じるのです。これだけ聞くと特殊なニッチ客層を連想しそうですが、実態は普通の若者ばかりで、事前に連絡を取り合い宴会場を借りきってグループで楽しむなどコミュニケーションも活発で、マスコミの報じるオタク像とは違っていて、大野さんも驚いたそうです。多くは「ゲームにハマってここまでやってしまう自分(たち)!」というパフォーマンスを楽しんでいる姿だったのです。
 これをきっかけに初めて熱海に来たという若者も半分位いて、その中には次は家族と来た若者もいるそうで、熱海にとっても思わぬ宣伝効果となっています。

大切なのは一緒に楽しむこと
(AR)お宮の松・リンコ
お宮の松前に設置されたスマートフォ
ンで撮れる「ラブプラス」のキャラク
ターのAR(拡張現実)
写真提供:KONAMI
 「ゲーム愛好者は現実的な人間関係に関心が薄く旅行にも行かない」などのマスコミが作り上げた見方や固定観念に縛られると実態が見えなくなります。山本さんや大野さんのほかにも、今回取材したコロプラ社の副社長の千葉功太郎さんや「ラブプラス+」の生みの親KONAMIの内田明理統括プロデューサー、ネット社会と若者論に詳しい関西学院大学の鈴木謙介准教授のいずれもが、ゲームに夢中になる若い人も「お出かけ」したいという欲求は強く持っており、また他の人とコミュニケーションをしたいという欲求もあると旅行・観光業界にもエールを送ってくれています。残念なのは、その欲求を上手く捉えてカタチにしていないことだと言うのです。
 旅行・観光への関心が無いのではなくて、無いのは「お出かけ」する切っ掛けであり、「お出かけ」するための自分自身への言い訳なのです。また、行った先で自分だけが浮いた存在にならないための仲間であり情報だったのです。ゲーム目当てでもひとたび「お出かけ」すると、リアルな観光地にも興味を持つようになるのです。
 子供の頃からインターネットに慣れ親しんでいるネットネイティブと呼ばれる世代の若者は、それ以前の世代とは異なる価値観を持ち人との結びつき方も違っているようです。自分の価値フレームと違う発想や行動をするからといって「理解できない」と投げ出すのではなく、かといって無理やり理解しようとするのでもなく、まずはそのまま受け入れること。彼らの関心事から入って、まずは「お出かけ」に誘うことが一つの有力な方法だと分かってきました。
鷲宮神社のラキスタ絵馬
     鷲宮神社のラキスタ絵馬
 埼玉県久喜市の鷲宮地区では、バーチャルなアニメの世界をうまくリアルの町おこしに活用し成功しています。鷲宮商工会が中心になって「ラキ☆スタ」メニューの開発や「ラキ☆スタ絵馬ストラップ」作りなどを手がけた結果、今では鷲宮はラキ☆スタファンの聖地となり、多くの巡礼者で賑わっています。鷲宮神社のお祭り「土師祭」ではアニメファンがラキ☆スタ御神輿を担ぎ市民と一緒になって祭りを楽しみます。成功した秘訣の一つが、アニメファンを偏見の目で見るのではなく地域の仲間として受け入れたことです。

不可欠な「バーチャリアラー」の存在
 ITやゲームに詳しい早稲田大学の根来龍之教授は若者を地域に呼び込むにはバーチャルとリアルを繋ぐ人「バーチャリアラー」の存在が必要だといいます。印傳の山本さんや熱海の大野さん、そして鷲宮の商工会のような人です。バーチャルの世界で遊ぶことに慣れ親しんだ若い人の遊び心を醒めさせないで、一緒になって真剣にその世界を創ってあげられる人なのです。ディズニーランドのキャストのように、心の中のテーマパークで一緒に遊んでくれる人です。ゲームに癒しを求めるのは今のところ若者が中心ですが、ネット社会の進化はいずれ多くの人のバーチャルとリアルの垣根をなくす方向にすすむはずです。バーチャルなきっかけがリアルな旅行・観光へと誘い、旅先では「バーチャリアラー」がバーチャルとリアルを融合させて楽しませてくれる、そんな近未来の旅行・観光が少し見えてきたようです。

 

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