YouTubeで見られる戦前の国内観光地 [コラムvol.299]

2016.04.18

観光経済研究部 研究員 外山昌樹

 2016年1月9日(土)~2月28日(日)まで、東京国立近代美術館では「ようこそ日本へ 1920-30年代のツーリズムとデザイン」と題した企画展が開催されていました。この展覧会では、戦前、わが国において外国人観光客の誘致を目的として作成されたポスター、ガイドブック、雑誌などが展示され、当財団からも「旅の図書館」所蔵の古書数点をご提供しました。3月15日(火)には、当財団主催の「たびとしょcafe」において、同展を企画された東京国立近代美術館工芸課主任研究員の木田拓也氏をゲストスピーカーとしてお招きし、企画展開催の経緯や、個々の展示資料の表現方法の違いなどについて解説していただきました。これらのイベントの詳細は、以下の記事をご覧ください。

フォトレポートNO.33 お勧めします:東京国立近代美術館  企画展「ようこそ日本へ 1920 -30年代のツーリズムとデザイン」

東京国立近代美術館「ようこそ 日本へ」展を鑑賞して ~鮮やかに浮かび上がる戦前のわが国の観光の姿 [コラムvol.288]

フォトレポートNo,37 第6回たびとしょcafeを開催しました

観光プロモーションメディアとしての映画

 上述の通り、戦前の日本はポスター、ガイドブック、雑誌といった様々なメディアを通じて観光地としてのイメージ向上を目指していたわけですが、その中の一つに、映画もありました。東京国立近代美術館の企画展では、「日本三週間の旅」と「東京シンフォニー」という2本の映画が上映されていました。前者は、タイトルの通り、三週間の旅行に見立て、全国各地の観光地が紹介されるという内容であり、1930年代の観光地の様子を伝える貴重な映像資料といえます。後者は、都内の名所や、人々の生活の様子が映し出されており、近代的な都市としての東京をアピールするねらいがあったものと推測できます。展覧会の来場者にも興味深く感じられたようで、筆者が鑑賞した時は、外国人観光客らしき人も含めて多くの方が画面に見入っている様子が伺えました。

 残念ながら、「日本三週間の旅」「東京シンフォニー」ともに、現在は権利の都合上、自由に見ることができない状況にあるようです。しかし、戦前の観光プロモーションを目的とした映画はこれだけではありません。戦前のインバウンド振興を担った中心的組織である鉄道省国際観光局が発行した書籍「観光事業十年の回顧」には、30本以上の映画が制作されたという記録が残っています。また、海外の映画会社との提携も行われており、昭和10年(1935年)にはカメラマンの“フイツツ・パトリック夫人一行”を招聘し、かれらが撮影したカラー映画「桜咲く日本」「モダン東京」の2本を、MGM社を通じて米国内で上映してもらうことに成功したとも書かれていました。

James A. FitzPatrickが記録した戦前の国内観光地

 フイツツ・パトリックと書かれた人物は、James A. FitzPatrick(1894~1980)という映画監督のことであると推測できます。彼は、世界中を題材に数多くの紀行映画を制作していたようです。中でも、「Fitzpatrick Traveltalks」と名付けられたカラー映画のシリーズは、MGM社の配給のもと米国内で公開されていました。おそらく、「観光事業十年の回顧」に記載された2本の映画も、このシリーズの一環として制作されたものと思われます。

 James A. FitzPatrickが撮影した日本の映像は、現在もYouTubeで見ることができます。しかし、「桜咲く日本」「モダン東京」の2本のカラー映画ではなく、「Japan - The Island Empire 1932」と「Japan In Cherry Blossom Time 1932」というタイトルがつけられた2本のモノクロ映画です。これら2本の制作に日本側がどのように関与していたのかは不明であり、この映像が「日本が見てほしい部分」が主だったのか、「アメリカ人が見たい部分」が主だったのかはよくわかりませんが、戦前の国内観光地の様子を記録した貴重なものであることには間違いありません。

 ディスプレイの中に映し出された宮島、京都、富士山、奈良、鎌倉といった各地の映像は、古めかしくはあるものの、現在用いられているインバウンド向けのプロモーション映像と、どこか似ているようにも思えます。今回紹介した2本の映画は、海外に向けて発信すべき日本の魅力とは、どこまでが時間を超えて普遍的なのかを考えるための材料であると捉えることもできるでしょう。

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