新型コロナウイルスで進む観光のデジタル化[Vol.428]
シンガポールのホテルに設置されていたルームサービスロボット(筆者撮影)

はじめに

 新型コロナウイルスの感染が拡大している中、直接ボタンを触れなくても操作が可能なエレベーター、人の手を介さずに食事をテーブルまで運ぶ運搬ロボット、顔認証で開くゲートなど非接触技術に注目が集まっています。また、店内に設置されたセンサーで混雑具合を把握し、入口に置かれたデジタルサイネージで入店可否を表示するサービスなど、密を回避するためにもデジタル技術が活用されています。

観光分野でも様々な場面で活躍するデジタル技術

 観光分野でも同様で、当財団が取りまとめた海外の観光関連機関や宿泊事業者等が発表したガイドラインでは、新型コロナ対策として、例えばチェックインはセルフチェックインで、ルームキーはスマートフォンのアプリで、ルームサービスはロボットが運搬するなど、様々な場面でデジタル技術を活用して、スタッフと旅行者の接触機会を減らすことが推奨されています。

 また、博物館や美術館では密を避けるために時間指定制の予約システムの導入が相次いでいますし、飲食店向けにはテーブルに置かれたQRコードをスキャンすればメニューが表示され、そのまま注文できるサービスも相次いで発表されています。

海外で先行している観光のデジタル化

 こうしたデジタル技術はコロナ禍で注目を集めていますが、新型コロナウイルスの感染が始まって新たに登場したのではなく、すでに海外では導入されていたものが多くあります。

 例えば、先に触れた時間指定制の予約システムは、アムステルダムの人気観光スポットであるゴッホ美術館で施設のキャパシティを超える多くの旅行者が押し寄せ、長いときでは3~4時間の行列ができていたことから、2018年にチケット販売システムを改革して時間制チケットを導入しました。その結果、行列は解消し入場者の負荷は大きく改善されました。

 また、中国の飲食店では、テーブルの角に貼られたQRコードをスマートフォンでスキャンするとメニューが表示され、そのまま注文・決済まで行えるシステムはすでに広く普及していました。ルームサービスロボットも中国やシンガポールのホテルではすでに稼働していたほか、国内のホテルでもすでに導入されている事例もいくつかありました。

 本来は混雑対策や省人化などの目的で導入されていたサービスが、今回のコロナ禍において密の回避や非接触化に役立ったというわけです。

おわりに

 このように、観光のデジタル化がもたらすメリットはコロナ対策だけではありません。

 昨年度、経済産業省はスマートリゾートの推進に取り組むための調査事業(「令和元年度ローカルクールジャパン推進事業(消費促進環境整備調査等事業)」を実施、当財団はその業務受託機関としてスマートリゾートの推進に取り組みました。同事業において、観光におけるデジタル技術の活用は、旅行者に対してはパーソナライズ化されたサービスを提供することで、旅行体験の価値を向上させる効果が、事業者に対してはデータに基づいたマーケティングによる稼ぐ力の向上や、業務の効率化や省人化により生産性を高める効果が、地域に対しては観光に関わる諸課題の解決や利便性を高めることで住民満足度を向上させる効果が、そして環境や文化に対しては有害物質や水質などをモニタリングすることで環境や文化資源を保全する効果など、様々な効果が期待されるとしています。

 図らずもコロナ禍において注目が集まった観光のデジタル化ですが、上記のように様々な主体に価値をもたらし観光地をアップデートするためのツールとして活用できるよう、私自身、引き続き研究を進め、一助となるように取り組んでいきたいと考えています。