“インバウンド消費”の行方 [コラムvol.287]

 先日、2015年の外国人旅行者数は、過去最高を更新する1,973万7千人を記録したと発表されました。政府が2020年までに目標としていた2,000万人は2016年にも達成する可能性が見えてきました。

 外国人旅行者数が増加した背景にはここ数年のビザ緩和策や、円安基調の継続などいくつもの要因がありますが、2015年においては14年10月の消費税免税制度改正も大きく寄与したと言えるのではないでしょうか。

消費税免税制度改正により旅行者数も買い物代も大幅アップ

 実際、観光庁「訪日外国人消費動向調査」を見ると、訪日前に最も期待していたことの中でショッピングが占める割合は、14年7-9月期は13.3%だったのが15年7-9月期は17.3%にアップしています。

 

そして消費税免税制度改正は買物代の大幅増につながりました。2015年7-9月期の1人当たり買物代は前年同期比42.4%増の75,535円に上り、旅行支出の約4割を占めています。その効果は改正で免税対象となった品目だけでなく、従来の対象品目の伸びも促しました(図表1)。

 旅行者数が大幅に伸び、買物代の大幅増に牽引されて訪日外国人1人当たりの旅行支出も増加したことで訪日外国人の旅行消費額は14年の2兆278億円から71.5%増の3兆4,771億円(速報)に上りました。

 2015年は外国人旅行者数の伸びと購買意欲の高揚が社会的に大きく認知された年にもなりました。“爆買い”という言葉がユーキャン新語流行語大賞の年間大賞に選ばれたほか、”インバウンド消費”は日経トレンディ2015年ヒット商品ベスト30の3位にランクインし、社会現象となりました。

 このように絶好調だった2015年の“インバウンド消費”ですが、いくつか課題も浮かび上がっています。

“インバウンド消費”が抱える課題

 ひとつは“爆買い”は一過性のものであり、中長期的には続かないと見込まれる点です。この点については以前、当コラムで塩谷が触れていますのでご覧いただければと思います(中国の税制と訪日消費 [コラムvol.273])。

図表2

 もうひとつは地域への経済効果が十分広がっていない点です。消費税免税制度の改正に伴い、消費税免税店の数はここ2年の間に全国的に増加しました。しかし、都道府県別の分布を見ると、依然として首都圏や大阪に大半が集中しています(図表2)。また、免税店の一部については日本政府観光局(JNTO)の免税店情報発信サイトに掲載されていますが、それを見ると大半を全国チェーンの百貨店・スーパー、コンビニエンスストア、家電量販店、ディスカウントストアなどが占めています。地域の特産品等が含まれると見られる「Toys, Dolls & Folk crafts」「Calligraphy, Antiques & Ceramics, Etc.」「Food & Beverage」を扱っている店舗のうち、チェーン展開している店舗を除くとまだ少ないのが現状です。

 また、2015年4月から運用が開始された免税手続きカウンターについても百貨店や大型ショッピングセンターで導入が相次いだ一方で、商店街での導入はまだ少ないのが現状です。カウンター運営にあたってはコスト面の負担が大きいとも言われており、普及にはその点をどう解決するかが課題となっています。

地域に“インバウンド消費”がもたらされるために

 当財団の機関誌である『観光文化』228号では、「外国人旅行者の地方分散化について考える」というテーマで、今年度の研究成果の一部をレポートとして掲載いたしました。レポートの中で、15年夏に実施した調査結果の中から訪日リピーターは強い地方訪問意向を示していること、また、リピーターはその土地ならではのグルメや特産品に強い関心を示していることなどについて触れています。こうした旅行者のニーズに応えるためにも今後は地域の特産品を扱う店舗の免税店化を促進することが求められます。

 2015年は7つの広域観光周遊ルートが認定されるなど地域に注目が集まった年でもありました。2016年はこのような取り組みが実を結び、都市部から地域へと“インバウンド消費”の効果が拡大することを期待しつつ、その一助となれるよう引き続き研究に取り組みたいと思います。