わざわざ野鳥を見るために日本を訪れる人たちがいます。このことをきっかけにして「わざわざ訪れる価値のある、地域に固有の魅力」ということについて考えてみました。
■あなたは何をしに日本に来たのですか?
先日、地方の観光関連団体で海外からのお客様の受入れを担当している方からお話をうかがう機会があったのですが、高齢化が進む欧米においては、「ハードすぎない」アクティビティとしてバードウォッチングがブームなのだそうです。
そんなお話を伺ってひと月ほど経った頃、今度は「You は何しに日本へ?」というテレビ東京の番組*で、冬の北海道にオオワシやタンチョウといった野鳥を見にカナダからやってきたご夫婦が紹介された(3月3日放送回)、と職場の同僚から聞き、先のお話を思い出してなるほど、と思いました。
*様々な目的で日本を訪れる外国人に対して密着取材を行う「ドキュメントバラエティ」http://www.tv-tokyo.co.jp/youhananishini/intro/index.html
さて、皆さんはわざわざ野鳥を見るためにカナダから日本を訪れるなんて!と驚かれるでしょうか?私自身は趣味的な世界とはどんなジャンルにせよ、ある意味「底なし」であると考えているのと、日本にも国内外での探鳥ツアーを手がける専門の旅行会社があることを知っていましたので、海外からそういった目的で日本にいらっしゃるお客様が訪れても特に不思議な感じはしませんでした。
■わざわざ見に訪れる価値とは?
しかし別の観点で、ちょっと興味がわいてきたことがあります。わざわざ日本まで見に訪れるに値する鳥としてどんな種があるのだろうか、という興味です。
まず一つ考えられるのは自分たちが暮らしている国や地域では見られないような「分布の面から見て珍しい鳥」でしょう。どんな人に対してでも、そのような鳥はアピールする可能性があります。
加えてもう一つは、「外見の面から見て珍しい鳥」であることですが、この外見面での珍しさがどの程度重要視されるかは、誰の視点で考えるか、つまりはバードウォッチングを趣味とするような人の視点なのか、もっと一般的な旅行者の視点なのかによって違うと考えられます。前者であれば、一見してほとんど同じように見えても分類学上は別の種なのである、と説明されればそれで十分に訪れるに値する魅力となる可能性があるでしょうし、後者であればもっと明確な外見的特徴(目立って大きい、色彩が鮮やか、行動がユニーク等)が期待されるでしょう。
日本鳥学会の「日本鳥類目録改訂第7版」には633種が掲載されていますが、この中には分布面で珍しい鳥もそうでない鳥も、外見面で珍しい鳥もそうでない鳥も含まれています。非常にバリエーションに富んでいますので、一度日本の野鳥図鑑を最初から最後までぱらぱらとめくってみると、その多彩さに驚かれることと思います。
一方で公益財団法人日本野鳥の会のホームページ** を覗いてみると「日本でしか見られない野鳥は何ですか?」という問いに対して、「日本でしか見られない野鳥」「繁殖地がほとんど日本だけとされる種」「(繁殖地が)日本周辺に限られる種」「越冬地が日本周辺しかない種」などに区分してそれぞれに該当する種が紹介されています。
**野鳥を楽しむポータルサイトBIRD FAN内「楽しみ方のヒント」http://www.birdfan.net/bw/hint/anzai/050.html
■どちらも珍しい?オオワシとヒヨドリ
このサイトで前出のオオワシも「越冬地が日本周辺しかない種」として記載されていて、分布の面で十分珍しい鳥であることがわかります。また、翼を広げると2メートルから2.5メートルにも達するオオワシは見るものを圧倒する迫力を持っており、大きく黄色いくちばしが印象的なこともあって、分布面に加えて外見面でも「珍しい」鳥だと言えるでしょう。タンチョウはこのサイトには記載されていませんが、同様に分布面でも外見面でも「珍しい」鳥だと言えます。
さて、ここであらためて日本野鳥の会のホームページをご覧いただくと、前述の「(繁殖地が)日本周辺に限られる種」としてヒヨドリという名前が挙がっていることに気がつきます。野鳥観察を趣味としないまでも、多少自然に興味を持っていらっしゃる方の中にはその姿を具体的に思い浮かべることができる方も多いでしょう。全国の低地から山地の林に住み、都市部の公園でもよく見られる鳥で、日本では当たり前に見られる「普通種」ですが、そのヒヨドリも日本の周辺に限って分布している「分布面で珍しい」種なのでした。
しかし外見としては特段派手な珍しさなどは持ち合わせていない小鳥で、むしろ地味な部類と言っていいでしょう。オオワシやタンチョウとは対照的な存在です。
■「外見面の珍しさ」だけでない地域の魅力にも注目を!
日本に固有の鳥類ってどんな種があるんだろうか?という入り口から入り、旅行や観光とあまり関係のなさそうな少々込み入ったことを書きましたが、ここで「地域の魅力」というテーマに目を転じてみたいと思います。
「自分たちの地域の良いところ(魅力)は自分たちだけでは見えにくい」とよく言われます。私たちが外部の人間として様々な地域の観光振興のお手伝いをする際に意識していることの一つでもあります。しかしそのように意識してもなお、人々の興味は「ヒヨドリ」よりも「オオワシ」や「タンチョウ」に向いてしまいがちではないでしょうか。しかし「ヒヨドリ」も地域に固有の大切な魅力であり、アピールすべき来訪者層を適切に設定すれば、あるいは見せ方・提供の仕方を丁寧に工夫すれば、外部の人たちにとって十分魅力的なものとなる可能性を持っているはずです。例えば青森県八戸市の銭湯。だんだん姿を消しつつあるとは言え、銭湯そのものは特段珍しいものではありません。しかし漁師町であるがゆえに、八戸の銭湯は早朝(施設によって5時~6時くらい)から営業しているのです。早朝営業の銭湯と朝市をタクシーで巡って楽しんでもらおうという「八戸あさぐる」***は、そんな地味な魅力を生かした好例ではないでしょうか。
***八戸あさぐる ウェブサイトhttp://www.hachinohe-cb.jp/asaguru/index.html
今回ご紹介したオオワシとヒヨドリの件は、このことについてあらためて考えるきっかけとなりました。皆さんも自分たちの地域について、あるいは今度訪れようとしている地域について、あえて「地味な珍しさ」に注目して楽しんでみてはいかがでしょう?きっと新しい発見があるはずです。