コロナ禍で加速したキャンプブームは旅行市場を拡大させるか? [コラムvol.478]

コロナ禍を経て「キャンプブーム」が加速しています。観光庁「旅行・観光消費動向調査」によると、2021年の国内宿泊観光・レクリエーション旅行におけるキャンプ場利用率は6.5%と、2020年から2.4ポイント増となりました。また、日本オートキャンプ協会「オートキャンプ白書2022」によれば、2021年におけるキャンプ場の平均稼働率は、2020年から4.1ポイント増の20.4%と、過去最高の稼働率でした。

もっとも、キャンプ人気の高まりはコロナ禍に始まったわけではありません。旅行・観光消費動向調査におけるキャンプ場利用率は2012年から上昇傾向にあり、日本オートキャンプ協会が発表しているオートキャンプ参加人口は、コロナ禍前の2019年まで7年連続の増加となっています。この、2010年頃から続くキャンプ場利用者数の増加傾向を第2次アウトドアブーム(第1次はバブル崩壊後の1990年代) とする見方があり、本稿ではこれに倣い、直近約10年間のトレンドを「ブーム」という語で表現しています。

異業種からのキャンプ場事業への参入が相次いだり、アウトドア関連ビジネスの市場規模が拡大したりするなど、キャンプ市場は活況を呈していますが、このキャンプブームは旅行市場に対して、どのような影響を及ぼし得るのでしょうか。

 

図1 国内宿泊観光・レクリエーション旅行におけるキャンプ場利用率とキャンプ場平均稼働率の推移

    出典:観光庁「旅行・観光消費動向調査」および日本オートキャンプ協会「オートキャンプ白書2022」をもとに筆者作成

ニューキャンパーの参入とキャンプを契機とした旅行実施

旅行市場に対するキャンプブームの影響を探るため、筆者は当財団が実施している「JTBF旅行意識調査(2022年5月調査)」の一部設問において、今後1~2年の間に宿泊旅行としてキャンプに行ってみたいと回答した者(以下、キャンプ実施希望者)を対象に、キャンプの経験年数やキャンプを始める以前の旅行頻度などを尋ねました。

その結果、キャンプ実施希望者の22.1%がキャンプにまだ行ったことがない未経験層であることがわかりました。キャンプを始めた時期がコロナ禍と期間が重なる経験年数2年以下については18.4%、前出の第2次アウトドアブーム期間にキャンプを始めた経験年数12年以下の合計は56.6%となりました。オートキャンプ白書2022ではキャンパーの傾向として初心者の増加が報告されていますが、キャンプ実施希望者の5人に1人が未経験者であることから、今後もキャンプ初心者の新規参入が見込まれます。

図2 キャンプの経験年数

    出典:JTBF旅行意識調査(2022年5月調査)をもとに筆者作成

 

また、キャンプ実施希望者のうちキャンプ経験がある者に対し、キャンプを始める以前の旅行頻度を尋ねたところ、年に1回以上の旅行を実施していた割合が82.1%と大多数を占める一方、「あまり行かなかった」も16.0%と、もともと旅行に行く習慣がなかったものの、キャンプをきっかけに旅行に行くようになった人が一定数いることがわかりました。キャンプを始める契機(複数回答)については、「友人の誘い(25.7%)」と「子どものため(25.7%)」が他の理由から10ポイント以上の差をつけて同率トップであることがオートキャンプ白書2022で報告されており、普段は旅行をしない人であっても、キャンプ経験のある友人から誘いを受けたり、子どもが生まれたりしたタイミングでキャンプを始める旅行者像が浮かんできます。なお、キャンプを始める以前の旅行頻度について、性年代やキャンプ経験年数別の差は確認できませんでした。

図3 キャンプを始める以前の旅行頻度

    出典:JTBF旅行意識調査(2022年5月調査)をもとに筆者作成

旅行の延べ泊数増加と平準化への貢献に期待

旅行市場にキャンプブームが及ぼす影響の一つとして、旅行の高頻度化と延べ泊数増加が考えられます。旅行・観光消費動向調査(2021年暦年)とオートキャンプ白書2022によると、日本人の国内宿泊観光・レクリエーション旅行の年間平均旅行回数は2.3回であるのに対し、1年間でキャンプを実施した平均回数は4.9回と、キャンパーの旅行頻度が高いことがわかります。旅行頻度の違いから、1年間の1人当たり平均延べ泊数は日本人全体で3.5泊なのに対し、キャンパーは6.2泊となっており、キャンプ人口が増えることで平均旅行日数が押し上げられ、旅行市場が広がる可能性があります。

キャンプは宿泊施設に滞在する旅行などと比較して一般的に単価が低いため、キャンプブームが必ずしも旅行消費額を押し上げるとは言い切れませんが、旅行日数が増加すれば農畜水産物の購入や観光関連施設(レジャー施設、温泉施設、道の駅など)の利用機会が増えることにより、キャンプ場周辺地域における旅行消費額も増加することが期待されます。ただし、キャンパーは旅先での滞在時間の多くをキャンプ場などの施設内で過ごすスタイルが基本であり、この効果を最大化するためには施設外での消費を地域としていかに増やすかが外せない視点となるでしょう。

また、国内旅行市場では旅行実施が休日や休暇時期へ集中する課題がありますが、キャンプは旅行実施日の平準化への貢献も期待されます。オートキャンプ白書2022によると、平日にキャンプをする割合は45.3%と半数近くにのぼり、年々増加傾向にあります。平日によく利用するキャンパーの属性をみると、1人参加の「ソロキャンパー」が82.3%を占め、シニア(43.3%)を大きく上回っており、ソロキャンパーの利用が平日のキャンプ場稼働率に大きく影響しています。

図4 平日におけるキャンプ実施率の推移とキャンプ場利用者

    出典:日本オートキャンプ協会「オートキャンプ白書2022」をもとに筆者作成

キャンプブームを旅行市場の活性化につなげるには

今回はキャンプブームの旅行市場に対する影響をいくつかの視点から検討してきました。キャンプの新規参入者の多くは、もともと年に数回旅行を実施する習慣があり、家族が増えたり友人からの誘いをきっかけにキャンプを始めており、彼らはキャンプ市場からみると新規顧客ですが、旅行市場からすると既存顧客です。一方、割合としては2割弱であるものの、キャンプを契機として旅行に行くようになる人も存在しており、昨今のキャンプブームは旅行市場を拡大させるファクターとして一定の期待が持てると考えられます。

ただし、キャンプでは旅マエでは荷物の上げ下ろし、旅ナカでは設営・撤収のほか、天候・気温や虫、汚れといった屋外環境への適応、旅アトでは荷物の後片付けなどが発生し、運動でいうところの「強度」が高い旅行であり、キャンプ未経験者はもとより普段あまり旅行に行かない人にとっては参入障壁が高いという難があります。

こういった障壁を解消したのがグランピングですが、グランピング施設はキャンプ場と比較して価格が高く、人工的に整えられた快適性や利便性と引き替えに、キャンプ本来の大自然の中に身を置く非日常性や魅力が低下するという側面があります。そのため、グランピングとキャンプに対応するニーズは完全に一致しておらず、実際にJTBF旅行意識調査では、それぞれの実施希望者の属性傾向が異なる結果が出ています。こうしたことから、キャンプ未経験者を、キャンプをフックに旅行市場に惹き込むためには、手ぶらキャンプといった参入障壁を取り除く多様な滞在スタイルの提案や付加価値の高いキャンプ用品のレンタルなどにより、潜在ニーズを幅広くキャッチすることが重要になってくると考えます。

また、新規・既存のキャンパーを問わず、キャンプブームを旅行市場の活性化につなげるには、キャンプ旅行の単価を向上させ、いかに旅行消費額を増やすかもポイントとなってきます。ホテルや旅館に滞在する宿泊旅行を行っていた人が、宿泊旅行と同じ旅行頻度や泊数で比較的安価なキャンプ旅行に移行してしまっては、旅行市場にとってはむしろマイナスになりかねません。ですから、旅行消費額を伸ばすためには、リピーターの優遇や長期滞在の提案(ワーケーションなど)による頻度や泊数の向上を狙った取り組みや、キャンプ場発着のガイドツアーやアクティビティツアーの充実、地域産品を集めた食材や地酒などの販売、クーポン発行などによるキャンプ場周辺地域の回遊性向上といった消費機会の創出が求められます。

自然観光への関心が高まっている今、キャンプの魅力が広く再認識され、このキャンプブームがキャンプ市場のみならず旅行市場の活力となることを期待します。