都市計画学会に見る「観光」[コラムvol.278]

はじめに

 11月7日・8日にフェニックス・シーガイア・リゾート(宮崎市)にて開催された都市計画学会「第50回学術研究論文発表会」(以下、第50回都市計画学会論文発表会とする)に出席してきた。せっかくの機会なのでこの場を借りて、発表会の様子などをお伝えしたい。都市計画分野において観光は主たるテーマではないものの、もはや観光は避けて通れない問題になりつつある。周辺分野から見た観光の位置づけを知ることもまた我々に有益な情報を与えてくれるに違いない。

論文カテゴリーにみる都市計画学会における「観光」の位置づけ

 投稿者は論文投稿時に次のいずれかのカテゴリーを選ぶ必要がある。それによると、観光は「緑地計画・観光レクリエーション」という大カテゴリーに含まれており、その下で「観光・レクリエーション」という小カテゴリーに該当する。経緯は不明だが、緑地計画と同カテゴリーに入っていることを踏まえると、レクリエーションからの派生として過去に観光が位置づけられたのかもしれない。ただし、上記のカテゴリーは投稿者自らが選ぶものであるため、観光に関する研究であっても「観光・レクリエーション」のカテゴリーを申請するとは限らない。

  図 都市計画学会における審査分類表

nishikawa2

第50回都市計画学会論文発表会における「観光」に関連する研究

 今回の都市計画学会論文発表会では2日間に渡って152編の研究発表がなされた。観光に関する研究は、次の7編であった。比率にすると4.6%である。

古屋秀樹  「旅行要因を考慮した宿泊観光旅行のクラス構築に関する基礎的分析」
麻生美希  「福岡市とその近郊における近代海浜リゾートの成立に関する研究」
兒玉 剣  「我が国における広域的サイクルツーリズム推進の実態に関する研究」
前河一華  「イベントによる海岸の利活用に関する研究」
加藤浩司  「歴史的市街地における地域主体型観光イベントの企画運営方法についての研究」
村上佳代  「国際協力を通じたエコミュージアム観光開発技術による文化資源マネジメントの試みに関する研究」
西川 亮  「戦争復興期に活動した観光技術家協会に関する研究」

 7編を分類すると、旅行者市場に関する研究が1編(古屋)、観光史に関する研究が2編(麻生・西川)、地域の取組みに関する研究が3編(兒玉、前河、加藤)、海外研究が1編(村上)である。

発表会の様子

 都市計画学会の発表大会の特徴は、他の学会と異なり、査読を経た論文に対して発表が義務付けられている点である(観光研究学会・建築学会・土木学会の発表大会は査読なしのため投稿者全員が発表することができるため、その点において門戸は広い)。そのため、ハイレベルな発表を聞くことができる。また、質疑応答1つをとっても質問内容から質問者の論文の見方や読み方などを学ぶことができる。また、論文を読むだけでは分からない、それぞれの筆者のテーマに対する想いや問題意識を直に聞くことができるというのも発表ならでは経験であろう。

 発表者は名誉教授から大学院修士課程の学生まで幅広い年齢層であり、全国の研究者がどのような問題意識を持ちどのような研究をしているのかを学ぶことができる。発表者にとっても、近い問題意識を持つ研究者から論文に対する意見や感想(時には批判も)を受けることができる。

「戦争復興期に活動した観光技術家協会に関する研究」

 最後に今回私が発表した研究の内容に少し触れておきたい。

 「観光地としての発展は観光事業者が責任を持つべき(中略)という考え方」があり、「観光のような『娯楽』を都市計画の対象としてとらえることに対する消極姿勢も場合によってはあったかもしれない。※1」という指摘があるように、そして現実の日本の観光地を見る限り、観光地においては市街地のような空間整備があまり十分に行われてこなかったのが事実である。その背景を探るべく戦後の観光関連の文献をくまなく当たっていたところ、「観光技術家協会」という組織の存在を知った。その組織名だけ見ても非常に気になる存在である。しかし国会図書館や過去の論文をいくら調べても情報がない。幻の組織かと諦めていたある日、とある文庫にてこの協会に関する資料を発掘することができた。その資料やその他の文献を元にこの協会の役割などを明らかにしたのが今回の論文であった。この観光技術家協会は昭和21年8月に設立され、建築家や造園家、工芸家から構成されていた。戦後の都市計画、建築界をけん引する丹下健三、高山英華、西山夘三らが会員として関わっており、驚くべきことに初年度の事務局は財団法人日本交通公社にあった。

 この歴史的事実から何を学ぶか。今改めて観光地の良好な空間形成について考えるべき時期ではなかろうか。そのとき、建築家や造園家の関わりを実現していくことも1つの方法であろう。

参考

 ※1 西村幸夫(2011), 「観光政策から見た都市計画」, 新都市65(2) pp.98-101