MICEの今後[Vol.426]
遠隔地にいてもその場にいるようにできる「Double3」 出所) Double Robotics社Webサイト

はじめに

 新型コロナウイルスの感染拡大の状況やその対応は、数日~1週間というレベルで次々に変化しており、まだまだ先が見通せない状況であるが、その影響を大きく受けている分野の1つとして各種のミーティングやイベント、いわゆる「MICE」がある。

 特に、ある目的のもと「直接、顔を合わせて」集まり、コミュニケーションやネットワークを深めることに大きな意味を持つミーティングやコンベンション、展示会といったビジネス系のMICEは、コロナ以前であれば3密(密閉、密集、密接)状態であることがある種の前提となっていたと言っても良いが、これからのwith・postコロナ期においては、こうした状況の無い新たなMICEのやり方を考えていくことが求められる。

求められるハイブリッドミーティング

 こうした状況の中、コンベンション・展示会分野の国際的な機関であるInternational Association of Convention Centres(AIPC)、International Congress and Convention Association(ICCA)、Global Association of the Exhibition Industry(UFI)の3団体は共同で、国際会議やイベントの再開に向け取り組むべき事項として、フィジカルディスタンスの確保や保健衛生管理の強化策などをまとめたガイドライン“AIPC・ICCA・UFI Good Practice Guidance: Addressing COVID-19 Requirements for Re-Opening Business Events”を2020年5月26日に発表している。

 また日本においても、一般社団法人日本コンベンション協会が「新型コロナウイルス感染症禍におけるMICE開催のためのガイドライン(第2版)」(2020年7月6日発表)を、一般社団法人日本展示会協会が「展示会業界におけるCOVID-19感染拡大予防ガイドライン」(2020年6月10日)をそれぞれ発表している。

 これらのガイドラインに即して直接顔を合わせる「リアル型」のMICEを徐々に開催していくことは無論大事なことであるが、インターネットを介して繋がる「オンライン型」の会議がこの数カ月で大きく広がったことを考えれば、リアルとバーチャルを融合したハイブリッドミーティングがこれから広がっていくことが考えられる。

オンライン会議のメリット・デメリット

 日本においては4月の緊急事態宣言以降、テレワークが本格的に推奨されたことでオンライン会議が急速に広がった。筆者も当初は手探り状態でオンライン会議アプリを使用したが、慣れてくると移動時間が短縮されること、遠隔地(それこそ海外在住でも)の方とも気軽に話ができること、遠隔地で開催されているセミナー等にも気軽に参加できることなどのオンライン会議ならではのメリットが実感できた。

 一方で、音声や映像が途切れることがあるなどの技術的な課題だけでなく、大人数での会話のやり取りはややしづらいこと、顔を合わせた会議に比べて集中力が続かないこと、相手の反応を認識しづらく話しづらい場面があるなどの課題も感じているところである。

MICEにおけるテクノロジーの活用

 筆者についていえば、経験しているオンライン会議は、少人数でのいわゆる業務的な打合せや、ある程度面識のある方数十人との会議のレベルであり、オンライン会議アプリの使用だけでも対応できることは多い。しかし、コンベンションや展示会といった大きな規模のMICEをより充実したものにするためには新たなテクノロジーを活用する必要があると思われ、実際にそうしたテクノロジーが現れてきている。

 例えば展示会では、バイヤーなどの来訪者が出展ブースを回り、気になったブースで商品を見たり説明を聞いたりということになるが、その際に例えばアメリカの企業でのリモートワークなどに活用されている「Double3」を活用することも考えられる。Double3には、遠隔にいる本人の顔を表示するスクリーンと、足元には自立式のローラーがついていて、運転する側は専用のアプリから、前の床のどこかをクリックするだけで自動的にそこへ移動することができる。またカメラも広視野かつ複数レベルのズームが提供されているので、見たいものにフォーカスしてみることが可能となる。こうしたテクノロジーを活用することで「直接顔を合わせて」という点もかなり対応できることになる。

 また、リアル型のMICEでは、レセプション(パーティー)などの場でたまたま同じテーブルになったことで話す機会を得てネットワークが広がるということがあるが、オンライン型においても例えばバーチャルラウンジアプリ「Hio」を活用することでこうした機会を創出することも考えられる。会議参加者は、主催者から配られるチケットを用いて特定のバーチャルラウンジに入ると、そこでは参加者のプロフィール等が一覧で表示されており、興味のある人にコンタクトし、最大7分の短いビデオ通話を次々と行うことが可能となる。これにより、オンラインミーティングであっても会議以外の場での参加者同士の交流が可能となり、リアル型のMICEの良さである「偶然の出会い」を失うことなく会議やイベントを開催できることになる。


興味ある人と気軽なコンタクトが可能となるアプリ「Hio」
出所) Hio Social社Webサイト


おわりに

 今後、こうした各種のテクノロジーを活用したMICEの開催は増えていくと思われるが、その第一歩的な位置づけとして今月24日(金・祝)に「新たな日本のMICEショーケース」が全国一斉開催される。このショーケースは東京のメイン会場と全国の都市をつなぐ、リアルとオンラインのハイブリッド運営で、全国の会場はコロナ感染対策を講じたガイドラインに沿って設営し、運営のノウハウを紹介するなどの取り組みを行うものである。主催する日本コンベンション研究会は、全国各地のコンベンションビューローやコンベンション施設運営者、コンベンション運営事業者などからなる組織であり、「まずは自分たちがやってみる」という意識のもと進められているものである(詳細はhttps://www.japan-convention.net/information/27.html参照)。

 こうしたチャレンジを重ねることでハイブリッド型のMICEが進化することが期待されるとともに、改めてリアル型のMICEの良さといったものを感じる機会も増えていくと思われる。これにより、オンライン、すなわちテクノロジーに慣れた会議参加者も改めてリアル型のMICE参加を求めて各地を訪れることになると思われるが、その際に来訪者から「MICE施設を一歩出たらずいぶんアナログな環境だなあ」と思われないよう、各地においては、エリア全体でテクノロジーが活用された「スマートな」エリアへと今後進化していくことが必要ではないかと思う。