2年9か月ぶりの韓国へ ーコロナ禍を経た変化ー [コラムvol.479]

世界保健機関が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言してから、約2年9か月が経ちました。日本史の教科書でしか見たことのなかった「鎖国」が実際に自分の生きている時代に起こり衝撃を受けたことを昨日のことのように覚えています。

世界的な大流行を防ごうと、世界各国・地域でも出入国制限が強化された一方で、COVID-19に対抗するためのワクチンの開発が急速に進み、2021年後半には接種が開始、接種率の高まりに伴い入国制限を緩和する国が増加していました。そのため、出国日本人数は2022年4月の13万人から徐々に増加し、8月には39万人と前年同月比+485%の伸び率となりました(※1-1)。

各国の入国制限の緩和の影響もあり、私の周辺でもアメリカやハワイ、ドイツなどの欧米やタイやフィリピンなどの東南アジアへの出国が多くなってきたことから、私自身も海外旅行を実施することを決心しました。今回は、日本・台湾・マカオ国籍者に対して、期間限定(9/1~10/31 ※渡航時点)の無査証入国(※1-2)が実施されている韓国を目的地としました。

私は、コロナ禍直前の2020年1月末まで韓国に滞在していたため、約2年9か月ぶりの訪問となりました。今回のコラムでは、コロナ禍の現在(2022年10月)のソウルの様子の変化をレポートします。

※1-1 日本政府観光局(JNTO)「出国日本人数 2022年8月推計値」
※1-2 ただし、搭乗72時間前までにK-ETA(2022年9月から導入された電子旅行許可制度)を申請、Q-CODE(検疫情報事前入力システム)への入力が必要。

街の様子

好きだったお店は閉店していないか、街の様子は変わっていないかが何よりの不安点でした。幸い、好きだったお店のほとんどは閉店していませんでしたが、観光地として名を馳せていたショッピング街の姿は大きく変化していました。特に外国人観光客であふれていた明洞では、お店の3分の1程度が閉店し貸店舗や工事中となっており、人通りもまばらでした。主に欧米からの外国人観光客が多く、アジアからの観光客はあまり見られませんでした。一方、往十里や江南といった韓国人が買い物や食事を楽しむような街では、お店の入れ替わりがありながらも活気が感じられたことから、特に外国人観光客が主なターゲットだった地域で、大きな打撃を受けたことが明らかにわかりました。

明洞市街の様子(2022/10/11撮影)

明洞や東大門などの主要観光地では、「動く観光案内所(움직이는 관광안내소)(※2-1)」という赤い服がトレードマークの通訳案内士の方が以前から活躍しています。韓国を訪れたことのある方であれば、一度は目にしたことがあると思います。今回も、外国人観光客がまばらな中でも多くの通訳案内士の姿が見られました。韓国を訪問する外国人観光客に安心感を与えてくれる「動く観光案内所」。コロナ禍によって閉店となったお店も多数あるため、最新の店舗・観光情報を提供する役割にも期待ができそうです。

明洞市街で外国人観光客を案内する「動く観光案内所」(2022/10/11撮影)


※2-1 2人1組で行動。基本的な通訳サービスは英語、中国語、日本語。言語通訳やグルメ、ショッピング、レンタサイクルなどの観光情報などを提供。2009年から始まり、2022年8月時点で、ソウル市内9か所で85人が活動中。
参考:내 손안에 서울(私の手にソウル)「서울여행의 길잡이! 움직이는 관광안내사 ‘레드엔젤’」(2022.08.03)https://mediahub.seoul.go.kr/archives/2005234

コロナ対策

今回の滞在で最も驚いたのは、手指消毒があまり促されていないことでした。飲食店、ショッピングモール、お土産売り場、市場、銀行など、様々なところを訪問しましたが、入店・入場前に手指消毒を促されたのは1か所のみで、入口での消毒液の設置もあまり見られませんでした。今年(2022年)4月に韓国から日本に来日した友人とこの件について話したところ、日本で飲食店に入る際も検温や手指消毒を小まめに行っている姿にとても驚いたと言っていました。

マスクについては、屋内では飲食時を除いてほぼ全員が着用している一方で、屋外では並んで歩いている場面でも外している姿が多くみられました。また、感染対策の呼びかけについては、公共交通機関(電車・バス)で交通カード(交通系ICカード)をタッチする際に「マスクを着用してください」と音声が案内されたり、公共施設では「マスクを着用してください」等の案内がある程度でした。

大学のフードコートでは、日本と同じようにパーテーションが設置されていましたが、今回の滞在中に訪れた先では、感染対策目的でパーテーションが設置されていたのはこの1か所だけ。人気のある飲食店は満席で、誰もがマスクなしで食事や会話を楽しんでいました。

漢陽大学校のフードコート(2022/10/10撮影)

韓国で主な連絡手段として使用されるSNS「カカオトーク」のキャラクター商品を販売するカカオフレンズ江南フラッグシップストアでは、このコロナ禍にリニューアルが行われていました(※3-1)。サンプル商品のみ店舗に陳列し、不特定多数の商品への接触を回避し、メディアウォールやARを活用したフォトスポットなどの体験型コンテンツが充実していました。購入する場合は、入店時にチェックイン用のQRコードを読み取り、商品ごとに設置されているQRコードを読み取ることで商品の詳細やオンライン買い物かごに入れることができ、注文・決済までスマートフォンで完了、注文後は、2階のピックアップゾーンで商品を受け取ることができるといったシステムです。実際に触れて商品を体験できる実店舗の良さ、非接触で決済できるオンラインの良さを活かした店舗になっていました。感染対策よりも、商品陳列棚を縮小してAR等やフォトスポットを活用し、体験コンテンツを充実させることなどがメインのように感じられ、コロナ禍を機会として捉えているように感じました。

商品(左)とフォトスポット(右)が並ぶ、カカオフレンズ江南フラッグシップストア(2022/10/11撮影)

※3-1 GANETOC「카카오프렌즈, 강남 플래그십 스토어 리뉴얼 오픈」(2021.07.02) https://gametoc.hankyung.com/news/articleView.html?idxno=61567

国民に開放された大統領府青瓦台(청와대)

2022年5月10日の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領就任に伴い、大統領執務室として使用していた青瓦台は国民に向けて開放されることになりました(※4-1)。韓国ドラマやニュースでは度々見かけていた青瓦台の姿ですが、実際にどのような場所なのか気になっていたので、この機会に訪問しました。安定した観覧体系を維持するために1日の入場は3万9千人までに制限され、事前予約制(※4-2)となっています。

韓国文化財庁は、青瓦台全体の近代文化遺産(国家登録文化財)への登録に向けて始動しています(※4-3)。また、大統領室も「青瓦台管理・活用諮問団(청와대 관리·활용 자문단)(※4-4)」を構成し、文化財として高く評価されている青瓦台を今後どのように活用していくのか、どのようなコンテンツを展開していく必要があるのかといった議論を展開しています。大統領選挙(2022年3月9日)からわずか2か月後の公開となった大統領府青瓦台には、韓国のスピード感が感じられました。そして、開放された青瓦台が、国内外の観光客の新たな旅の目的地として根付く姿が想像できました。

「青瓦台、国民のもとへ」のスローガンと青瓦台本館(左)、本館内の大階段(右)(2022/10/10撮影)

※4-1 KBS WORLD JAPANESE「大統領府青瓦台 5月10日に一般開放へ」(2022.04.23)https://world.kbs.co.kr/service/news_view.htm?lang=j&Seq_Code=82062
※4-2 現状、韓国籍や韓国での在留カードを持っている個人または団体のみ観覧予約が可能。個人で観覧する外国人は現地で入場申請をする必要がある。
※4-3 中央日報/中央日報日本語版「韓国、大統領府の近代文化遺産登録に向けて手続き…『場所性・歴史性を考慮』(2022.05.17)https://s.japanese.joins.com/jarticle/291139
※4-4 대한민국 대통령실(大韓民国大統領室)「’청와대 관리·활용 자문단’ 구성이 완료되어 대통령실에서 알려드립니다」(2022.07.25)https://www.president.go.kr/ko/contents_new_view.php?id=brief&code=161180

入国規制緩和後の成田国際空港

今回の帰国日は10月12日と、外国人観光客の個人旅行再開(10月11日~)の翌日でした。再開前に搭乗した往路(10月9日)の飛行機は3分の1程度が空席でしたが、復路では満席で日本人よりも外国人(韓国のほか欧米の方も多数)が多かった印象でした。それでも、成田空港内や空港からの鉄道にはあまり人の姿は見られず、コロナ禍前までの賑わいを取り戻すためには、まだまだこれからのように感じました。

仁川国際空港のチェックインカウンター(左)と成田国際空港でmySOS登録を行う列(右)(2022/10/11撮影)

おわりに

今回の渡航を通して、コロナ禍を経た韓国の主要観光地の変化・現状を垣間見ることができました。また、日本人とのコロナに対する考え方や感染対策に対する意識の違いなども感じることができました。
今後、再び日本に多くの観光客が訪れるようになったとき、このような違いを受け入れ側と旅行者が相互に理解したうえで接することがなによりも重要となるでしょう。