年頭コラム「美しき日本」 [コラムvol.204]

あけましておめでとうございます。
 1912年に創業した当財団は一昨年に100周年を迎えました。そして1963年に株式会社日本交通公社(現JTB)を分離し、観光分野に特化した調査研究機関として活動を始めてから昨年でちょうど50年の節目を迎えました。諸先輩が築いてきた組織の基盤と、関係各所からの期待や信頼に応えられるように、本年も心のこもった着実な業務遂行を心がけていきたいと思います。
 さて、この年頭コラムでは、調査研究機関50周年記念事業として取り組んでいる「観光資源評価」研究について報告させていただきます。

1.写真集「美しき日本 ~旅の風光~(仮題)」の発刊

 まずは研究の成果品について。昨秋、わが国を代表する約450件の観光資源のリストアップを終えました。これらをプロカメラマンの手による写真とキャプションで表現した写真集「美しき日本 ~旅の風光~(仮題)」を今年6月に発刊する予定です。
 この写真集で紹介する観光資源は、当財団による観光資源評価において、特A級とA級資源にランクされた資源です。キャプションは日本語と英語を併記します。また別途、中国語版や韓国語版、さらにはタイ語版を製作中です。日本の美しさ、そして多様な魅力が伝わるように工夫を重ねていますので、ご期待ください。

2.観光資源の評価

 1970年代、建設省(当時)からの委託業務により、当財団研究員を中心とする調査研究チームが観光資源の魅力の源泉や、評価基準、評価手法を研究し、さらにそれに基づいた我が国の観光資源のリストアップを行いました。その後、観光資源評価の基本概念や資源リストは、地域単位の観光基本計画づくりなどに活用されてきました。そして、1998年から99年にかけて、資源リストの見直しを行い、その結果を写真集「美しき日本 ~いちどは訪れたい日本の観光資源~」としてとりまとめ、公表しました。つづき作製した英語、中国語、韓国語の併記版は、日本を紹介する冊子として海外でも配布され、訪日外国人の誘客に貢献したと聞いています。
 今般、50周年記念事業として、観光資源の概念などを再整理し、観光行動を「見ること」に加え、「居ること」、「体験すること」にひろげました。その結果、資源区分を下表のように再整理しました。評価の着眼点として、周囲の雰囲気や環境要素も包含し、五感を使ってその場所を感じることも重視しています。
 観光資源評価の基本概念や手法、さらにこの研究過程などについては、当財団機関誌「観光文化」222号(2014年7月発行予定)で特集記事として紹介させていただきます。

 表 観光資源の種別分類
   ※は、追加または再整理した資源種別
   観光資源の種別分類

3.研究活動から思うこと

 この研究の過程では、日本の観光資源の魅力の源泉について、何度も自問自答しました。自然資源であれば資源そのものの雄大さ、その時々の風光、歴史や文化との関わりがもたらす情景などでしょうか。人文資源となれば、歴史の深さ、人の業の偉大さ、心配りの表現でしょうか。これらに対峙したときに、「感性」と「知性」が相乗して、大きな感動がうまれます。ひとによって「感性」は異なりますが、富士山をみて美しいと思わない人はいないでしょう。法隆寺を訪れて感激しない方はいないでしょう。おおよそ、評価は定まってくると思います。さらに、その資源に関する深い情報(「知性」)があれば、感動はさらに深みを増すことでしょう。研究では感性と知性の両面から資源の評価軸を定めました。
 そして、作業を通して痛感したことは、日本の美の多様さと繊細さです。話は変わりますが、かつて「情報化社会」の到来という言葉で賑わいましたが、正直なところ、それが観光にどのような変化をもたらすのか、イメージができませんでした。この情報化こそが、ひとびとの意識や行動の多様性の具現化、観光対象の多様性の発現、そしてこの多様性に対する理解を促進させたのだと、今になって考えます。つまり、観光客が持っていた個性的な潜在価値観が豊かな情報によって顕在し、観光資源が持っていた独特の魅力が豊かな情報として認識され、それらが融合し、資源管理の場面で発揮され、実需要をつくりあげているのです。とりわけ資源種別の「集落・街」「郷土景観」に、顕著だと感じました。
 いちど多様化にむかった価値観は、ひろがることはあっても、収束することはないでしょう。この先、ますます新たな観光価値の芽がでてきます。私たち観光研究に関わる者は、これまでの経験を根拠とした議論に熱くなるばかりではなく、観光の現場に足繁く通い、今起きていることに注目していくことが、とても重要になります。その繰り返しにより見いだした普遍性や理論によって、観光現場の課題解決や、さらに望ましい観光環境作りに貢献できれば、とても素晴らしいことだと思います。

 みなさま、本年もよろしくお願いいたします。